「極大射程」

表紙

スティーブン・ハンター 著/佐藤和彦 訳
カバー装画 大矢正和
新潮文庫
ISBN4-10-228605-5 \667(税別)
ISBN4-10-228606-3 \667(税別)

 ベトナム戦争のさなか、丘の上に孤立する12名の部隊に迫る1000人近いベトナム軍をたった二人で阻止した伝説の名狙撃兵、ボブ。だが、負傷して戦列を離れ、その間にベトナム戦争の価値がアメリカ国内で180度異なる評価をされるようになってから、ボブの心は荒み、酒に溺れる日々を送ることになる。そんな彼を立ち直らせるきっかけになったのは、やはりライフルだった。人との付き合いを絶ち、ライフルと一頭の老犬だけを共にひっそりと暮らすそんなボブの下に正体不明の訪問者が。巧妙に仕組まれた訪問者の以来の全貌が明らかになるにつれて、ボブのかつての心とからだの傷の記憶をよみがえらせるものの存在が明らかになっていく………

 超絶的名スナイパー、ボブを主人公にした、今日本でも一番人気(だろ、きっと)の冒険小説シリーズの中の一作。このシリーズの存在は聞いていましたが、読んだのは初めてです。あっちゃこっちゃでかなり高い評価がされてるようですが、で、確かにおもしろいんですが、んー、そんな手放しで大喜びするほどの作品かこれ〜(ああまたそういうことを………(^^;)。問題は二点。

 その一。何度もいうておりますが、わたしゃ冒険小説の主人公たるもの、お話のなかで一度は"負け犬"か"極限"を味わい、それを自分の力で跳ね除け、(主人公にとっての)勝利を掴んでいって欲しいと考えるわけでして、そういう意味ではこのお話、ラストのどんでんがえしも効いてるし、痛快極まりない作品なんですが、心のどこかに"そう話はうまくいかんやろー"ってひっかかりがあるのね(^^;)

 その二。どうしても"銃"の問題は避けられないでしょう。何も"昨今の銃規制論議が盛んなアメリカで、その流れに逆らうような作品"とか、そんなすっとんきょうなことを言うつもりはありませんよ、私も。銃に限らず武器ってモノには研ぎ澄まされた美しさがあると思ってますし、銃に自分の人生の拠り所を求める人物がいたら、その人物が自分の銃に絶大な信頼と愛情を注ぐだろうし、モノが銃である以上、それは射撃されなければいけないものだということもわかる。それでも、だ。

 本書の冒頭、ボブの狙撃者としての卓越ぶりを示すため、山の主的なシカを相手にするエピソードが語られます。その立派な角を狙う心ないハンターから鹿を守るため、そして自分のスナイパーとしての血を満足させるため、ボブは愛用の銃で鹿を狙撃するわけですが(すいませんちょっとネタバレになってしまいますが)、これはちょっと僕にはウソくさい。殺さなければ生き物相手の射撃は認められるのか。"殺せない弾丸"を使えば"殺した"こととして、その射撃の成功に満足できるのか、それってかぎりなく"殺すための射撃を実行した"事にならないか。それを結果的に"殺さなかった"から彼は殺人鬼ではない、とする(かにみえる)表現には疑問なしとしません。むしろそれよりは正々堂々、殺すために銃を使う人物であることを強調したほうがまだしもだったような気がするのです。殺すための道具を持っているのだから、それは殺すために使う、しかしそこには彼自身が設定した極めて厳しいルールがある、そして彼はそのルールをどんな時にでもまもる、そんな描写が欲しかったなあ。

 ボブとひょんなことからかかわりをもつFBIの捜査官、ニックが大変魅力的なこと、ラストまで気を抜けないストーリー展開と、いいところがたくさんあるお話なのですが、それでもなお、何か引っかかりを感じるんだよなぁ(^^;)

99/10/25

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