独ソ戦史

バルバロッサ作戦

表紙

パウル・カレル 著/松谷雄二 訳/吉本隆昭 監修
カバーイラスト 大西將美
ブックデザイン 中谷匡児+鈴木智巳
学研M文庫
ISBN4-05-901008-1 \690(税別)
ISBN4-05-901009-X \690(税別)
ISBN4-05-901010-3 \690(税別)

 1941年夏、独ソ国境に集結した350万のドイツ軍はなだれを打ってソ連に侵攻を開始した。初戦は完全な奇襲効果と熟練した兵士たちの能力でドイツの圧勝。またたく間に数十万の捕虜、膨大な鹵獲兵器を後に一路モスクワを目指す。だが無尽蔵にも思える人的資源を繰り出すソ連の前に、当初の短期決戦の目論見は齟齬をきたしはじめ、広大なロシアの大地はドイツの国力の限界を超える底なし沼となって人と兵器を呑み込んでいく。そしてナポレオンすらも退けた"冬将軍"がいよいよドイツ軍の兵士たちに牙をむこうとしていた………。

 自身、戦争中はドイツ軍の情報将校として戦争をつぶさに見、戦後は「砂漠のキツネ」「彼らは来た」などのノンフィクション作家として活躍した、パウル・カレルの大著。邦題は「バルバロッサ作戦」となっていますが、実は副題ともいうべき「独ソ戦史」の方がしっくり来る本。「バルバロッサ作戦」、「タイフーン作戦」「『青』(ブラウ)作戦」そして凄絶なスターリングラード攻防戦に至る、独ソの戦争の序盤から中盤の終わりまでを、膨大なインタビューによって構成した一大叙事詩。

 独ソの戦争というと、一方的にヒトラーの戦争指導のまずさだけが取り上げられ、ヒトラーの狂信で何十万もの兵士が無駄死にすることになった、というような描かれ方がされますが、必ずしもそうではなく、それどころか、ヒトラーの直感はソ連を敗北寸前にまで追い込み、続くドイツの危機にあっては、全軍が壊滅していたかもしれない危機をかろうじて救う事にもなった、ってあたりもしっかり筆を割いてて好印象。もちろん、このときの成功は、皮肉なことに後のドイツ軍の大崩壊の重要な伏線になる訳ですが。

 ドイツ人による、ドイツ人に対するインタビューを元に構成された本だけに、どうしても心情的にはドイツびいきにならざるを得ない、というか、ドイツ軍の猛攻撃があれば、それを受ける側にも、後にドイツ人たちが味わったと同じか、それ以上(だって失った人命の多さではソ連はダントツなんですから)の惨禍を味あわされたわけで、ありていに言えばこの本ではどうしても、ドイツ人の死とロシア人の死への表現の重みにかなりの差があると言わざるを得ない。そこらへん、気持ちは判るがそれでいいのか、って気がしないでもない。読む側はある意味単純に"燃える"展開なだけに、若干気になるんよね。

 資料的な価値はあるし読み物としてもなかなかのものなんですが、そこら辺、ちと引っかかりますな。

00/9/18

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