時の扉をあけて

表紙

ピート・ハウトマン 著/白石朗 訳
カバーイラスト 朝倉めぐみ
カバーデザイン 小倉敏夫
創元SF文庫
ISBN4-488-71401-3 \660(税別)

 母方の祖父の危篤の知らせに、メモリーという名の街を訪れた少年、ジャック。お互いほとんど面識などないはずの二人だったのに、なぜかジャックの姿を目の当たりにした祖父の形相は一変し、それがもとで祖父は死んでしまう。一体祖父の記憶のどこに、ジャックの面影が記憶として残っていたというのか。主のいなくなった祖父の屋敷、"ボッグスズ・エンド"を受け継ぐことになったジャックの一家だったが、ジャックにはなぜかこの屋敷にはなにかがあるような気配が感じられて………

 以前に読んだ、「時に架ける橋」が、トンネルを通ることでタイムトラベルを実現するお話だったとしたら、こちらは古い屋鋪に隠された階段を登り降りすることで、50年の時をこえることができるようになる環境を手に入れた少年のお話。これも「時に架ける橋」同様、タイムパラドックスを使った一種のトリックの捌き方みたいなものとは別のところを楽しむ本。この本では、時間旅行モノのお約束である、原題とは違う時代のディティールの描写や、パラドックスがいかに納得できる形で収斂していくかの描写を読む、ってこと以上に、主人公の内面的な葛藤というか、そういうところに筆が割かれているような気がしますね。

 アルコール依存症の父親、なにか秘密をかかえた母親、という環境で育ったジャックは、いわゆる"アダルトチルドレン"と呼ばれる、心に小さなしこりをかかえた少年な訳で、彼が最終的に癒されることはあるのか、ってあたりがメインのテーマになる訳なんですが、これが時間SFとしての面白さをかなり損ねているんではないかと思えてしまうところがちと辛いか。アメリカ人にとっては、はじめて直面する世界戦争を背景に持ってきていたり、悪くないんだけどちょっと印象散漫な感じがします。管浩江さんの解説もなかなか読み応えあったんだけど、うーむ、残念賞やなあ(^^;)

00/5/6

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