募集時等に明示すべき事項が追加されました
○ 2024年4月改正
職業安定法が改正され、募集時等に明示すべき事項のうち新たに以下の事項が追加されました。
1 従事すべき業務の変更の範囲
2 就業の場所の変更の範囲
3 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)
(詳細)厚労省のサイト/Q&A
求人票が変わりました
○ 2020年1月6日から
ハローワークインターネットサービスのリニューアルにより、ハローワークの利用方法が変更になるとともに、求人票の様式が変更されました。新求人票の様式は項目が多岐に渡り、求職者にとってより詳細な情報把握が可能になりました。
(詳細)
・2020年1月6日からハローワークの利用方法が変わります
・2020年1月6日から求人票が変わります その1(現行の求人票からなくなる情報や集約される情報等)
・2020年1月6日から求人票が変わります その2(新たに新設される項目等)
ハローワークインターネットサービスの機能強化
○ 2021年9月から
ハローワークインターネットサービスの機能を充実させ「ハローワークからオンラインで職業紹介を受ける」「求職者からの応募を直接受け付けることができる」などが可能となりました。
(詳細リーフレット)
・ハローワークインターネットサービスを活用しましょう!「求人者マイページ」がさらに便利になります(9月21日更改予定)
・ハローワークからオンラインで職業紹介 ハローワークインターネットサービス「オンラインハローワーク紹介」のご案内
・求職者からの直接応募を受け付ける ハローワークインターネットサービス「オンライン自主応募」のご案内
募集・採用時に年齢制限はできるか
事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
【解説】労働者の募集・採用にあたって年齢制限を設けること、例えば「○歳以下の人を募集」という表現は禁止されます。実務上は「年齢不問」としつつ、併せて「職務を遂行するために必要とされる労働者の適性、能力、経験、技能の程度などを具体的に明示」し、面談のうえ採用の適否を判断することになりますが、例外として年齢制限が認められる場合があります。
□ 例外として年齢制限が認められる場合(雇用対策法施行規則1条の3第1項)
(1) 定年年齢を上限として、その上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
(2) 労働基準法その他の法令の規定により年齢制限が設けられている場合
(3) 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
(4) 技能・ノウハウの継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かつ、 期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
(5) 芸術・芸能の分野における表現の真実性などの要請がある場合
(6) 60歳以上の高年齢者または特定の年齢層の雇用を促進する施策(国の施策を活用しようとする場合に限る)の対象となる者に限定して募集・採用する場合
(詳細)厚労省のサイト
厚生労働省作成の履歴書の様式例
厚生労働省では、日本規格協会が作成したJIS規格の履歴書様式例を推奨していましが、2020年7月に日本規格協会が様式例を削除したため、2021年4月に厚生労働省で新たな履歴書の様式例を公開しました。
(詳細)厚労省のリーフレット
□ 変更点
1 性別欄は男女選択から任意記載へ
2 通勤時間、扶養家族数(配偶者を除く)、配偶者、配偶者の扶養義務の各欄を削除
【解説】詳細は上記リーフレットに掲載されていますが、2については、通勤手当や税・社会保険手続に必要な情報であり、これらについては採用後に確認することになると思われます。なお、厚生労働省では、応募者の適正・能力に基づいた採用選考すべきことから、配慮すべき事項として「就職差別につながるおそれがある14事項」を掲げ注意を促しています。
採用時に戸籍謄(抄)本の提出を求めることはできるか
●(参考通達)
就業規則等において、一般的に、採用時、慶弔金等の支給時等に戸籍謄(抄)本、住民票の写し等の提出を求める旨を規定している事例があるが(中略)、これらについても、可能な限り「住民票記載事項の証明書」により処理すること。
戸籍謄(抄)本及び住民票の写しは、画一的に提出又は提示を求めないようにし、それが必要となった時点(例えば、冠婚葬祭等に際して慶弔金等が支給されるような場合で、その事実の確認を要するとき等)で、その具体的必要性に応じ、本人に対し、その使用目的を十分に説明の上提示を求め、確認後速やかに本人に返却するよう指導すること。
【解説】 行政通達では、採用時に戸籍謄(抄)本や住民票の写しの提出を求めることは不適当とされています。
これらは法で規制されているものではないものの、同和問題にも絡むデリケートな事項でもあり、戸籍謄(抄)本や住民票の写しで本人確認している場合は、住民票記載事項証明書での確認に切替えるべきと思われます。
採用時の身元保証には有効期限がある
採用時に、労働者に第三者の身元保証書を提出させるケースがよくあります。身元保証契約は、労働者を採用したときに、本人の身上に関する保障を、第三者を入れて契約することをいいます。身元保証に関しては「身元保証ニ関スル法律」により定められています。
【解説】
(1) 身元保証契約は、成立した日より、期間の定めがない場合は3年(商工業見習は5年)、期間を定めた場合でも5年で終了します。
(2) 身元保証契約に、5年を超えた有効期間の定めがあっても5年で終了します。
(3) 有効期間を更新し、更に最長で5年延長することは可能ですが、この場合は延長することを保証人に通知する必要があります。なお、判例では、身元保証人に契約の更新を拒絶すべきか否かを判断する機会を与えた場合のみ有効(東京地裁S45.2.3)とし、自動更新はできないともしています(札幌高裁S52.8.24)。
賠償の上限(極度額)を定めない
2020年4月の民法改正により、極度額(上限額)の定
入社時の身元保証契約は、従業員が会社に損害を与えた場合に本人と連帯してその賠償を行うとい
□ 限度額の定め方はどうする
極度額の定め方については、身元保証書に「同人の身元を保証し、同人が貴社に損害を与えた場合、貴社が被った損害を賠償する旨確約します(極度額○○円)」の例により、極度額を追記する方法が一般的と思われます。
極度額をいくらにするかについては、余りに高額であると連帯保証人が躊躇し、連帯保証契約が進まない恐れがあり、かと言って余りに低額にすると損害賠償を補填するという身元保証の意味がなく、難しいところです。
実務的には、具体的に金額を明記するのがリアルすぎるのであれば「極度額は初任給の○○か月分とする」などが考えられますが、万が一の場合に会社が被る実損額を予測し決定することになります。
なお、長年慣例として身元保証契約を締結していたののも、実際に損害賠償を要求したケースが皆無など形骸化しているような場合は、思い切って身元保証契約そのものの見直しを行うことも一考と思われます。
採用前研修に手当は必要か
採用内定段階においては、採用内定者に労働条件等は提示されているものの、具体的な労働条件が適用されるのは採用日以降になります。ただし、採用内定段階では正式な労働契約は締結していないが、解約権留保付労働契約が締結されているという考え方が一般的です。
本題である採用前研修と手当の関係は、自由参加であれば手当等の支給は要しない、強制参加であれば最低賃金額以上の手当を支給すべきというのが大方の見解です。
□ 実務ポイント
実務上は「研修時間×最低賃金額」を「研修手当」などとして別途支給する例が多いようです。なお、交通費等は自己負担とすることでも問題ありません。
なお、採用前ですので、労働・社会保険料の問題は生じませんが、唯一、採用前研修の労災保険の適用に関しては、以下の条件の基に例外的に認められる場合もあるようです。
(1) 参加強制であり指揮命令があること
(2) 業務上必要な研修内容であること
(3) 最低賃金以上の賃金が支払われていること
採用内定は一方的に取り消せるか
採用内定は「使用者が応募者に採用内定通知を発し、応募者が入社誓約書等を提出した時点で、採用予定日を就労の始期として、一定の事由による解約権を留保した労働契約が成立したと見なされる」という考え方が一般的です。これを「解約権留保付労働契約」といいます。
そして「一定の事由による解約権の行使」については、「採用内定を取り消すことが客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。
□ 具体例
1 内定者側の理由
(1) 学校を卒業できなかったとき
(2) 健康診断に異常があったとき
(2) 犯罪行為により起訴または逮捕されたとき、など
2 会社側の理由
(1) 会社が破産したとき
(2) 一般社会通念上やむを得ない事由があるとき、など
特に、会社側都合の場合は損害賠償などの問題も懸念されますので、内定者には会社の事情等をよく説明して理解をしてもらうことが大切となります。
□ 実務ポイント
(1) 応募者の事前調査をシッカリと行い採用の選考段階で選別を厳しくし、不適格者や意欲のないと思われる者を極力採用しないこと
(2) 採用内定通知や誓約書等に、上記理由の他に(例えば、事前研修の不参加、研修中の成績不良、能力・適正を欠くことが判明した場合など)内定取消事由を合理的な範囲でできるだけ広げておくこと、など
2024年4月から労働条件明示の制度が改正されます
〇 2024年4月改正
1 全ての労働者に対する明示事項
全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新のタイミングごとに「雇入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲(将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲)の明示が必要となります。
2 有期契約労働者に対する明示事項等
(1) 有期労働契約の締結および契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要とまります。
(2)「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申込むことができる旨(無期転換申込み機会)の明示が必要となります。
(3)「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要となります。
●ポイント
(1) 既に雇用されている労働者に対しては、改めて労働条件を明示する必要はありません。
(2) 契約の始期が令和6年4月1日以降であっても、 令和6年3月以前に契約の締結を行う場合には、旧ル ールに基づく明示でも構いません。
(3) 就業の場所・業務の変更の範囲とは、労働契約期間中における変更の範囲を意味しますので、有期労働契約の場合で、更新時に変更される可能性のある就業の場所・業務については、当該契約時には明示する必要はなく、次回更新時に新たに明示することで足りるとしています。
(参考)厚労省のリーフレット
雇入時の労働条件明示は口頭でもよいか
●(関係法令)労働基準法15条1項
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金・労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
【解説】「厚生労働省令で定める方法」とは、労働基準法施行規則5条3項により書面交付としています。労働契約そのものは口頭でも有効とされますが、絶対的明示事項については口頭で行なうと労働基準法15条違反となります。
なお、定めがなければ明示の必要はありませんが、定めをした場合は明示が必要とされる相対的明示事項もあります。相対的明示事項は口頭でも可能とされます。
□ 絶対的明示事項(書面交付により明示しなければならない事項)
(H11.1.29基発第45号)書面の様式は自由であること。なお、書面で明示すべき労働条件については、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えない。
1 労働契約の期間に関する事項
(H11.1.29基発第45号)期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間がない労働契約の場合はその旨を明示しなければならないこと
2 就業の場所および従事すべき業務に関する事項
(H11.1.29基発第45号)雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りるものであるが、将来の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することは差支えないこと
3 始業・終業の時刻、所定労働時間を越える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(H11.1.29基発第45号)当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならないこと。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働者の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び就業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること
4 賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
(H11.3.31基発168号ほか)書面によって明示すべき事項は、賃金に関する事項のうち、労働契約締結後初めて支払われる賃金の決定、計算及び支払の方法並びに支払の時期であること。具体的には、基本賃金の額(出来高払制による賃金にあたっては、仕事の量(出来高)に対する基本単価の額及び労働時間に応じた保障給の額)、手当(労働基準法第24条第2項本文の規定が適用されるものに限る。)の額又は支給条件、時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金について特別の割増率を定めている場合にはその率並びに賃金の締切日及び支払日であること。
また、交付すべき書面の内容としては、就業規則の規定と併せ、前記の賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差支えないこと。この場合、その就業規則等を労働者に周知させる措置が必要であることは言うまでもないこと
5 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
(H11.1.29基発第45号)退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければならないこと。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大となる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項を網羅的に示すことで足りるものであること
□ 相対的明示事項(定めをした場合は明示が必要とされる事項…口頭でも可)
(1) 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
(2) 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第8条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
【注】第8条各号に掲げる賃金とは…
@ 1か月を超える期間の出勤成績によつて支給される精勤手当
A 1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
B 1か月を超える期間にわたる事由によつて算定される奨励加給又は能率手当
(3) 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(4) 安全及び衛生に関する事項
(5) 職業訓練に関する事項
(6) 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(7) 表彰及び制裁に関する事項
(8) 休職に関する事項
なお、上記のほかに職業安定法施行規則で「健康保険、厚生年金保険、労災保険及び雇用保険の適用に関する事項」についても、労働契約の締結に際に明示すべき事項としています。
労働条件の通知方法がFAXや電子メールでも可能に
労働基準法15条では「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」とし、厚生労働省で定める方法は書面によるとされていました。
この度、働き改革の一環として省令が改正され、2019年4月から、労働者が希望した場合はFAXや電子メール等の方法でも可能とし、一方で、事実と異なる労働条件を明示してはならないと明記しました。
労働契約締結時の労働条件が事実と異なる場合、労働者は契約解除することができる
●(参考法令)労働基準法15条2項
前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
【解説】「労働者は、即時に労働契約を解除することができる」とする労働条件は、労働基準法15条1項に示された労働条件(前項Q&A参照)について事実と相違する場合に限定され、労働契約で明示した労働条件の全てではありません。また、雇入れ後に就業規則等が変更されたことに伴って労働条件が変更された場合は「労働基準法15条2項の適用はない」としています。
試用期間は設けるべきか
試用期間は、従業員としての適格性を観察・評価するための期間とされていますが、反面、企業が不良社員を抱え込まないための見極める期間ともいえます。
三菱樹脂事件(S48.12.12最判)では、試用期間中の解雇については解約権留保付の特約期間とし「会社の留保解約権の行使は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合のみに許される。」として、正社員と同様に会社の一方的な解雇を否定しています。一方で「会社が試用社員を本採用拒否することは本採用となった正社員を解雇する場合に比して会社の裁量が多く認められる。」として、正社員の解雇より解雇権を広く認めています。
【解説】試用期間を置かずにいきなり正社員とすれば、正社員と同様の解雇法理が適用され、不適格者等であっても解雇は容易ではありません。しかし、試用期間中であれば正社員に比べ解雇の裁量権がより広く認められるとしていますので、試用期間を設ければ、解雇に伴う労務リスクは軽減されることになります。
実務上は、就業規則や誓約書等に「試用期間中の解雇および本採用拒否」の条文を設けて、通常の解雇事由より厳しい解雇事由を定めておくことが有効です。
試用期間の長さはどれ位がよいか
試用期間を3〜6か月程度にしている企業が多いと思われますが、試用期間を何か月にするかは各企業の事情によります。
ただし「見習社員として6〜9か月の見習い期間を設け、さらにその上に試用社員として6か月〜1年の試用期間を設けたケースは、合理的範囲を超えている」という判例もあることから、あまり長すぎる試用期間も問題と思われます。基準は、会社における従業員としての適正と能力を判断する必要かつ最小限の期間とすればよいかと思いますが、筆者はできれば6か月程度をお勧めしています。
試用期間を延長することはできるか
意味もなく試用期間を延長することは問題ありますが、試用期間中に試用社員が傷病などのために長期の休業が発生し決められた試用期間中に従業員としての適格性を判断できなかった、従業員としての適格性に疑問があるが試用期間を延長して判断しようとした、従業員として不適格であるが勤務態度が改まるのを期待して試用期間を延長した場合など、正当の理由があれば試用期間の延長や更新も可能と思われます。一方、試用期間の短縮は労働者にとって不利益となりませんので問題ありません。
実務上は、就業規則等に試用期間を短縮または延長することができる旨の記述を追加しておば万全です。
試用期間中の解雇や、試用期間満了時の本採用拒否のポイント
三菱樹脂事件(S48.12.12最判)では、試用期間の解雇については解約権留保付の特約期間とし「会社の留保解約権の行使は、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合のみに許される。」として、正社員と同様に会社の一方的な解雇を否定しています。一方で「会社が試用社員を本採用拒否することは本採用となった正社員を解雇する場合に比して会社の裁量が多く認められる。」として、正社員の解雇より解雇権を広く認めています。
実務上は、就業規則や誓約書等に「試用期間中の解雇および本採用拒否」の条文を設けて、通常の解雇よりハードルの高い解雇事由を定めておくことが有効です。いずれにせよ、試用期間中に見極めをシッカリしておかないと不良社員を抱えることになりますので、上司や人事担当者の役割は大きいといえます。
□ 実務ポイント
(1) 本採用拒否を行うには試用期間が設定されていることが前提ですから、就業規則や採用時の労働契約書などで、試用期間は○か月とキチンと明示しておく必要があります。試用期間を設けていないと、採用日から本採用とみなされます。
(2) 本採用拒否の意思表示または解雇は、試用期間終了前に行なわなければなりません。会社からの意思表示がないまま試用期間が過ぎてしまうと、自動的に本採用されたとみなされます。試用期間中の解雇については、通常の解雇に比べ解雇権を広く認めていますが、本採用後は解雇がより難しくなります。
(3) 試用期間開始後14日以内であれば、労働基準法21条の規定により解雇予告手当や解雇予告なしで即時解雇できますが、14日を超えると試用期間中であっても解雇予告手当を支払うか、30日前までに解雇予告を行わなければなりません。
試用期間中の賃金と本採用後の賃金に差を設けることはできるか
試用期間中は見極めの期間とされますので、試用期間中の適性や能力を見極めたうえで本採用後の賃金額を決めることも可能です。ただし、以下の点を注意した方が良いでしょう。
□ 実務ポイント
(1) 求人票には、試用期間中の賃金額と本採用後の賃金額とを併記すべきでしょう。
(2) 試用期間中の賃金額と本採用後の賃金額との乖離が大き過ぎると、求職者から敬遠される恐れがあります。
(3) 本採用後の賃金額を試用期間中の賃金額より低下させることは避けた方が良いでしょう。
(4) 給与規程等に初任給額が具体的に定められている場合は、試用期間中の賃金額は初任給額より減額する旨の明示が必要です。
試用期間中でも社会保険加入は必要
試用期間中でも、健康保険・厚生年金保険に加入する必要があります。雇用保険も同様です。
【解説】日々雇い入れられる人や、2か月以内の期間を定めて使用される人などは健康保険・厚生年金保険に加入できないことから、「2か月の試用期間中は健康保険・厚生年金保険に加入しない。」とする事業所もあるようです。しかし、2か月後に雇用契約が終了する訳でもなく、引き続き雇用継続される訳ですから、健康保険・厚生年金保険に加入しないとすることはできません。年金事務所の調査でもよく指摘される事項です。
有期雇用期間を設けて試用期間の代用とできるか
試用社員の本採用拒否に関する裁判所の傾向は、一般に正社員に比べ解雇権を広く認めていますが、無制限に許されるものではなく「客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合のみに許される(
三菱樹脂事件(S48.12.12最判)」としています。
このように、試用期間は正社員に比べ解雇権を広く認めているものの身分上は正社員との位置づけですから、リスク回避のため正社員とせずに、試用期間の代わりとして有期雇用契約期間を設け、適正がない場合は期間満了により雇止めするという方法について考えてみます。
これについては、以下の判例が参考になります。したがって、有期雇用契約としても一般的には試用期間と解されるものと思われます。
● 神戸弘陵学園事件(H2.6.5最判)
使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適正を評価し、判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
トライアル雇用とは何か
ハローワークが紹介する労働者を企業が原則として3か月間試行的に雇用し、双方が適性や職場環境等について相互に確認した上で常用雇用に移行する制度をいいます。
試用雇用の結果、使用者・労働者双方が適性や職場環境等について相互に確認した上で、改めて常用雇用契約を締結するとしますので、ミスマッチであれば、解雇という形はとらずに、トライアル雇用終了時点で雇用契約は終了することになります。
□ トライアル雇用の特徴(厚生労働省のリーフレットから抜粋)
(1) 事業主は、原則3か月間の試行雇用(トライアル雇用)を行うことにより、対象となる労働者の適性や業務遂行の可能性などを実際に見極めた上で、トライアル雇用終了後に本採用するかどうかを決めることができます。
(2) 一定の要件を満たした場合、事業主は、当該試行雇用期間に対応して、対象労働者1人あたり月額4万円(最大12万円)の奨励金を受け取ることができます。
(3) 対象労働者は、実際に働くことを通じて、企業が求める適性や能力・技術を把握することができます。
制度を利用する場合、事業主が事前にトライアル雇用に係る求人票をハローワークへ提出する必要があります。詳しくは、所轄のハローワークへお尋ねください。
(詳細)厚労省のサイト トライアル雇用助成金
配転とは何か、一方的に行えるか
一般に、同一企業内での所属部署の変更を「配置転換」、職種の変更を「職種変更」、勤務地の変更を伴う所属部署の変更を「転勤」といい、これらを総称して配転ということが多いようです。
○ 配転は一方的に行えるか
労働契約書や就業規則に、業務上の都合により労働者に配転を命じることができる旨の包括的同意があれば、労働者の同意なしに配転ができるとされます。ただし、当該配転に不当な動機、目的や著しい不利益があるなどの場合は権利の乱用とされますので、注意が必要です。
東亜ペイント事件(S61.7.14最判)は、勤務地の変更を伴う配転に対して労働者側が敗訴した事件ですが、判決は、@労働契約上の根拠があり、A業務上の必要性、B人選基準の合理性、C実施手続の相当性があり、D不当な動機、目的や著しい不利益があるなどの特段の事情がない限り適法であるとしています。
【解説】実務上は就業規則に、会社は業務上の都合により従業員に配転を命じることができる旨の規定を置き、就業規則の規定を根拠に従業員に配転命令を行います。日本の裁判所は欧米と異なり、配転に関して会社の裁量を広く認める傾向にあり、会社の不当な動機・目的や、本人に著しい不利益があるなどの特段の事情がなければ、一方的な配転命令であっても人事上の措置として可能と思われます。
なお、育児介護休業法では、転勤を命じることにより子の養育や家族の介護を行うことが困難となるときは、当該従業員の子の養育や家族の介護の状況に配慮しなければならないとしています。また、地域限定社員や職種限定社員については、地域外の転勤や職種変更ができないことは言うまでもありません。
転籍とは、従業員を自社から他会社へ異動させることをいいますが、子会社等への転籍については労働契約や就業規則に基づく包括的同意認めるという判例(S56.5.25千葉地判、日立精機事件)もありますが、原則は、労働者の同意が必要とされます。
なお、商法に基づく会社分割の場合は、労働契約承継法により一定の労働者は同意なく転籍が認められるともしています。
【解説】転籍の原則は、民法625条1項を踏まえて、最高裁判例で「転籍元と転籍先において合意が成立し、従業員が承諾する必要がある。」としています。子会社等への転籍を含め、合意の事実を明らかにするために、転籍元、転籍先、従業員の三者で転籍協定書(三者で署名捺印)を結んでおけば万全と思われます。
若者雇用促進法とは何か
若者雇用促進法は、若者の適切な職業選択の支援に関する措置、職業能力の開発・向上に関する措置等を総合的に規定した法律で「勤労青少年福祉法」を改正する形で、2015年10月1日から施行されています。
(詳細)厚労省のサイト
■ 若者雇用促進法関連のリーフレット
・若年者雇用促進法のあらまし
・新規学校卒業者を採用する際は労働関係法令の規定などを確認してください
・ハローワークでは労働関係法令違反があった事業所の新卒求人は受け付けません!
■ 指針関連のリーフレット
・若者の募集・採用等を行う際は若者雇用促進法に基づく指針を確認してください
・通年採用や秋季採用の導入も検討してみませんか?
・固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします
ユースエール認定企業とは何か
若年者雇用促進法を受け、若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業(企業規模300人以下の企業が対象)を若者雇用促進法に基づき厚生労働大臣が「ユースエール認定企業」として認定しています。
ユースエール認定企業になると、企業のイメージアップや優秀な人材確保が期待されると共に、ハローワークその他の支援等を受けることができます。
(詳細)若年者雇用促進総合サイト
コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関る指針
■ コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針
労働条件に関する総合情報サイト
厚生労働省で「労働条件に関する総合情報サイト」を公開しています。
労働条件に関するQ&A、法令・制度の紹介、裁判例や行政の取組など労働条件に関する情報をまとめたサイトとなっています。
特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
●支給要件
雇入れ日において(1)から(4)]のいずれにも当てはまる人を、ハローワークまたは民間の職業紹介事業者などの紹介により正規雇用労働者として新たに雇用する事業主に助成金を支給します。
(1) 雇入れ日時点の満年齢が35歳以上55歳未満の人
(2) 雇入れの日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下であり、雇入れの日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない人
(3) ハローワークなどの紹介の時点で失業しているまたは非正規雇用労働者である人でかつ、ハローワークなどにおいて、個別支援等の就労に向けた支援を受けている人
(4) 正規雇用労働者として雇用されることを希望している人
●支給総額
大企業/50万円、中小企業/60万円
【解説】いわゆる就職氷河期に正規雇用の機会を逃したこと等により、十分なキャリア形成がなされず、正規雇用に就くことが困難な人をハローワーク等の紹介により、正規雇用労働者として雇い入れる事業主に対して助成されます。特定求職者雇用開発助成金は、条件が整えば比較的受給しやすい助成金と言われています。
(詳細)厚労省のサイト
2024年11月施行の「フリーランス・事業者間取引適正化等法」
○ 2024.11.1施行
この法律は、業務委託事業者と「個人」として業務委託を受けるフリーランス間の「業務委託」に係る取引に適用されます。なお、業務委託をする発注事業者は次の3つに区分され、その区分に応じ義務項目が異なります。
○ 発注事業者
1 フリーランスに業務委託をする事業者+従業員を使用していない⇒@
2 フリーランスに業務委託をする事業者+従業員を使用している⇒@ACE
3 フリーランスに業務委託をする事業者+従業員を使用している+定の期間以上行う業務委託である⇒@からF全て
【注】「一定の期間」は、Bは1か月、DFは6か月です。 契約の更新により「一定の期間」以上継続して行うこととなる業務委託も含みます。
○ 義務項目
@ 書面等による取引条件の明示
業務委託をした際、直ちに「業務の内容」「報酬の額」「支払期日」「発注事業者・フリーランスの名称」「業務委託をした日」「給付を受領/役務提供を受ける日」「給付を受領/役務提供を受ける場所」「(検査を
行う場合)検査完了日」「(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項」を明示すること
A 報酬支払期日の設定・期日内の支払
発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払うこと
B 禁止行為
フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、●受領拒否 ●報酬の減額 ●返品 ●買いたたき ●購入・利用強制 ●不当な経済上の利益の提供要請
●不当な給付内容の変更・やり直しをしてはな らないこと
C 募集情報の的確表示
広告などにフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に ? 虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならないこと ? 内容を正確かつ最新のものに保たなければならないこと
D 育児介護等と業務の 両立に対する配慮
6か月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければならないこと
E ハラスメント対策に 係る体制整備
フリーランスに対するハラスメント行為に関し、 @ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発、A相談や苦情に応じ、 適切に対応するために必要な体制の整備、Bハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
などの措置を講じること
F 中途解除等の 事前予告・理由開示
6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、 ・原則として30日前までに予告しなければならないこと ・予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合には理 由の開示を行わなければならないこと
(詳細)説明資料 リーフレット
・パンフレット「ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法」