◆ 事 故 編 ◆

1. 洗車 2. 夜のドライブ 3. 保土ヶ谷バイパス 4. 3:30 5. とりあえずのその後

1. 洗車

自宅を出発したのは、 6月5日の19時前といったところか。 陽光の微粒子が最後の抵抗を試みている中、 たまプラーザのコイン洗車場に向かう。 でも、 たどり着いたのは8時くらいではなかったか。 なぜなら道に迷ったからである。
気にせず洗車開始。
タイヤ、 ホイール等の下回りから。 ここで洗車の出来具合が左右されると私は密かに思っている。 ブレーキダストで茶色いホイールやタイヤは美観を著しく損ねると信じてやまないのである。
次に高圧水で砂を吹き飛ばす。 私の駐車場は砂利である。 一週間も置いておくと、 それはもう、 悲しくなるほど汚れてしまう。 賽の河原の光景を想起させるが、 それでも毎週洗うのである。 スポーツカーは美しくなければならないからである。
シャンプーは、 依然苦手分野である。 やはり部分洗いをすべきなのであろうが、 後ろにはドレスアップされまくったS-MXやセドグロ系、 BMWなどが控えている。 手際よく行わなければならない。 そこで、 ついつい全体にシャンプーしてしまう。 結果、 乾いてしまう箇所ができてしまう。 これでは汚れを再付着させているようなものであろうが致し方ない。
もう一度高圧水でシャンプーを流して後ろに移動。
拭き取りはかなり上達したほうであろう。 こつは、 "流れるように拭く"、 これである。 きゅっきゅきゅっきゅ拭くのは水分をボディーに返しているようなものである。 一気に拭く。
いつもよりも早い時間に始めたという余裕から、 エンジンルームまで拭く。
幌にコーティング剤を塗ってみる。 若干、 黒に"しまり"が出たような気がする。 いい感じいい感じ。
キイロビンも試す。 キイロビンを初めて使う際には注意が必要である。 これは、 覚えておいたほうがいい。 液体が出口の細い箇所(オリフィス、 とは言わないだろうが)で固化しており、 ぎゅーっと容器を押すとぴゅーっと、 出てくるのだ。 誤ってボディーなどにかけてしまわぬよう、 注意すべきである。←やっちゃった
ガラコも塗る。
窓の内側も拭く。
ワックスもかける。

気が付くと2時くらい?
最低でも6時間はこの洗車場にいたらしい。 ばかである。



2. 夜のドライブ

ボディーの温度が気温よりも下がるとどうなるか。 答えは明白である。
結露が始まるのである。
そして、 それがワックスがけの最中に起こるとどうなるか。 これも答えは明白である。
拭いても拭いてもむらがでるのである。
そこで、 もういいや、 ということにして帰ることにする。

いや、 待てよ、 ちょびっと流して帰ろう、 明日行く予定のLAILEの下見をしておこう。
オープンにして鷺沼? たまプラーザ? あたりから246、 厚木方面へ向かう。 自宅とは正反対である。
Tシャツの上にちょっとしたジャケットを羽織っているだけであるが、 寒さは感じない。 ムースのとれかかった髪を風がわしゃわしゃする。 それもまたよし。
結構飛ばす人もいるなぁ、 などと思いつつ、 流れに合わせて走る。

国道16号だ。 横浜方面へ。



3. 保土ヶ谷バイパス

16号から保土ヶ谷バイパスというのは、 一度来たことがある。
いい道である。
片側3車線? もっとあるところもあるのではなかろうか。

オレンジ色の照明を霧がぼかしてファンタジックである。 Special Stage Route 5のよう。
クルマはまばら。 幻想的にすら思えるトラックの列。 を、 右から追い抜く。
濃紺色の空に白い半月がぶら下がっている。 そろそろ明けるのかな。

宇多田ヒカルが歌っている。

Give me another chance.



4. 3:30

すっ飛ばしてくるクルマは何台かあった。 車線変更をしたり、 しなかったり、 で、 先を急いでもらっていた。

何故気づいたんだろう。
バックミラーに目をやると真後ろにヘッドライトが迫っている、 と思いきやその光が左に流れた。
アコードワゴン?
と思うが早いか、 私のクルマの真横に並んでいきなり幅寄せをかましてくる。

"とろい私(といっても100km/hくらい)に業を煮やし、 ぎりぎりまでつけていたのをすぱーっと左から追い越し、 恣意行為に及んで真ん前に滑り込もうとしている"
と直感が告げる。
ウィンドウ越しなので運転者の顔は見えないが、 頭にタオルを巻いたジャージ姿のヤンキー兄ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。

2回ほどフロントを振ったかと思うと、
“ドン!”
という音と衝撃。 この瞬間、 2つのことを思う。
  1. へたくそ
人間、 とっさの時には、 あ、 としか思えないものである。
第2の思いはもう少し大脳を使用した上でのものである。 恣意行為に至るならそれもよし、 でも、 当てるなよな、 というものである。

ハンドルさばきでクルマの動きを本能的に立て直している私と、 相手のクルマがそのまま左に流れていき、 ガードレールに接触、 壁に乗り上げてクルマの前方が派手に飛び散るさまを目に焼き付けている私がいた。 不思議と、 音、 の記憶はない。

あぁもぉ、 このまま帰っちゃおうか、 という思考すら起こる。
そうもできんだろう。
路側帯にとめ、 ハザードをたく。


すべてはネイビーブルーの夜空と、 オレンジ色の照明の下で。
夢の中のようにも思える色彩に包まれて。



5. とりあえずのその後

80mほど後方だろうか。
オレンジ色で充満したバックミラーの中に、 壁にしなだれかかっているクルマが映っている。
クルマ?
少なくとも右側面と後部は。

クルマを降りる。
後ろにまわる。
もう少し左に寄せとけばよかった。

左のドアはなんともない。
左後ろのタイヤも大丈夫そう。
当てられたのは、 何て呼べばいいんだろう、 って場所。 ホイールハウスの前方、 とでもしておこうか。
左ドアは正常に開くようである。

ワゴンから運転手が出てきた。
こちらに向かってくる。
こちらも歩き出す。
「や」な人だったらどうしよう。 いきなり食ってかかられたらどうしよう。 私は絶対に悪くないから謝っちゃだめだ。 平気で歩いてるみたいだな。 そうだ、 大丈夫かどうか聞こう。 そうしよう。

破片が散乱している。
徐々に距離が縮まっていく。
これもまた、 オレンジ色の光の中で展開していく。


“大丈夫ですか?”
“けがはない?”
こんな感じで見も知らぬおじさんとの関わりがスタート。
“俺のほとんど居眠りだよ。 はっと気づいたら目の前にいてさ、 フルブレーキ踏んだんだけどもう目の前でさ、 ハンドル切ったんだけど、 当たった? あ、 そう。 ABSが付いてるんだけどさ、 滑ってさ。”
“私も気づいたら、 真後ろから左にすぱーっと追い越されて”
“あぁ、 あれ、 よけたの。 そのまま行くとぶっかっちゃったからさ。”

"居眠り寸前の運転で気が付くとロードスターが目の前。 フルブレーキでも間に合いそうになく左に待避。 ロードスターの左に並ぶも、 高速での急制動、 急ハンドルでコントロールを失い蛇行、 右後ろをロードスターの左脇腹にぶつける。 その反動でクルマは一気に左に流れ出し、 ガードレールに激突。" といったところであるようだ。

その後、 警察に連絡してもらったり、 私のクルマの横腹を見てもらったり、 連絡先を交換し合ったりする。
旅行代理店の役員さんだそうである。 クルマはセフィーロワゴンであった。 前はめちゃめちゃ。 ガードレールがぐにゃぐにゃに押し上げられている。 エアバッグが開いている。 “これが開いてさ”とドアを開けて見せてくださる。 すごい煙。 火薬のにおい。
でも、 役員さんはぴんしゃんしておられる。 口を切ったとかそういうことすらなさそうである。
あのスピードで突っ込んでも生きていられるんだ、 と妙なことに感心する。

役員さんは3時半という時刻も気にせず友達に電話をかけておられる。
“やっちゃった。 事故。 ほんと。 横横のさ、 ・・・・・・”。

いつのまにか体が震えている。
何人かの顔と名前が浮かんだが、 電話はやめておくことにする。
これくらい、 自分でなんとかしなきゃ。
いい歳なんだし。

気のせいだろうか、 首のあたりに違和感があったりする。 ん、 背骨にも痛みが?
意識しすぎ?

救急車?
と思ったら公団の事故処理車であった。 発煙筒をたき、 矢印看板を設置し、 パイロンを並べ・・・、 実に手際よく作業をなさる。 われわれ二人のことはほっといて。
やっとパトカーが来る。

書類を持ってパトカーの中へ。
おまわりさんは親切そう。
いつだってそうだけど。
事故の状況を伝える。 役員さんが、 自分が100%悪い、 うちの保険屋から出させる、 と断言されて少しほっとする。
おまわりさんの交代勤務の都合で、 物損と人身の切り分けを6/8午後に行うことになる。
病院に行っておこう。
ディーラーにも行かなきゃ。

あたりはすっかり朝。
一部始終を目撃していたであろう半月はまだ、 公団職員とおまわりさんが片づけ始めた事故現場を見守っている。

レッカーが来た。
私とリンゴスターはほったらかし。 川崎への帰り道をおまわりさんに教えてもらい、 帰途につく。

陽光の微粒子の中を。


2 b continued ->





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