企業診断を読む(2001年1月号)


作成日: 2000-12-26
最終更新日:

表紙の意匠

今までのどこか冷めていて垢が抜けきれていないコラージュにくらべると、 ずいぶん油っぽくなった。なんだかアルクかどこかの出す 「英語力をつけよう!海外留学のためのお役立ちガイド」という匂いもする。 これから、この表紙に似合う中身になっていくのだろうか。楽しみだ。

ニュースの探検術

著者は次のようにいっている。 「診断士なら、相手企業の社長の顔つきからいろいろなことが読み取れるはずである。 これができない人は、まだ一人前の診断士とはいえないのではなかろうか。」 ずいぶんな暴論である。著者は他にも、検査ばかりしていて患者をみない医者の例もあげている。 そして、昔は患者の顔色を眺めただけで病気の原因をピタリとあてて治療する名医を懐かしんでいる。 今はそんなことができる時代ではない。医学の進歩はすさまじく、 昔のような悠長なことはできなくなった。医師が覚えないといけないことがらは、 確か戦後直後に要求されていた程度の30倍と聞いている。 自分の直感が冴えない医師でも、検査機器の助けを借りれば、 ある一定の水準での医療はできるようになった。 喜んで素直に検査機器を使えばいい。

著者のいいたいことを忖度していえば、検査機器から得られるデータ以外から得られる情報を 整理せよ、ということなのだろう。自分の直感を育てよ、とも言える。これでも、 直感を得る情報は必ずしも静的な顔色、顔つきだけではない。顔の動き・表情、動作・しぐさ、 そして、声色とイントネーション、こちらの問いかけとその反応、物理的な匂い、 そのようなものを総合した五感を磨く、ということであれば、私も納得できる。 そうして、そのような五感から得られた情報を具体的な証拠をもって、 自分の直感の正しさを裏付けたり、自分の思い込みの過ちを直したりすればいい。

そのほか、「日本軍は台湾に対して本当に善政を施したのか」とか、 「“闘う男”という表現は適切か」など他にも言いたいことはあるが、 この著者はけっこういいお年の方だから、これ以上いうこともなかろう。

日本システムアナリスト協会の設立

情報処理技術者という試験が日本にある。その中で、システムアナリストの位置付けは大きい。 著者はシステムアナリスト協会設立の旗振り役として活躍してきた方と聞いている。 (実は数回お話をしたことがある。元気な方である)。 熱意のこもった解説は、その設立の熱気を伝えてあまりある。 私のように、世の中に対して醒めた目でしか見られない者には敷居が高い協会のようだ。 第一、システムアナリスト試験には一度挑戦して見事に落ちたので、 受けるのは面倒だと思っているほどなのだ。 私はせいぜい元気ある方々の邪魔をしないように生きるだけで精一杯である。

本当に下らないことを書くが、 この協会の会長さんの発想にある「情報技術関連団体連合会(情団連)構想」 の文字の並びを見て、声を上げて笑ってしまった。 一つには、経団連と同じように、 圧力団体やロビイストとして政治への関与を始めるのかという勘ぐりをもったこと、 もう一つはこれを「冗談連」と読んで、 徳島(か高円寺か越谷か)の阿波踊りにでも参加するというおふざけでもするのかと思ったこと、 この二つだった。 この「システムアナリスト宣言」を見ても、シュールレアリズム宣言とは違うから、 後者ではありえない。 それにしても下らないことを書いてしまった。関係者の方々が気を悪くされないことを祈る。


回帰分析による売上予測の方法

Excel を使った統計手法の紹介である。 すでに「データマイニング」の講座もあるので重複しているのではないかと思うのだが、 おそらく需要があるからさらに出てきたのだろう。

需要と聞いて思い出したのだが、現役診断士の方に聞いてみると、 やはり統計と聞くとしり込みするのだそうだ。その方も商店街のアンケートをまとめるために、 データを統計的にまとめる仕事をしないといけないが苦手だと語った。 その方は S を使ってみようかなと言っていた(註:S というのは、実名を隠蔽したものではない。 データ解析言語 S のことである。)確かに S は多くのことができる処理系だが、 そこまでするほどのデータ解析を伴うのか、私には疑問もあった。 しかし、そのことは深くはつっこまなかった。いかんせん相手は診断士、わたしはぺいぺい、格が違う。

さて、この記事の5.節に「グラフを使った回帰分析」がある。 ここで、「曲線による近似がよくあてはまる場合がある」ということであり、その例として INS ネット契約回線の推移を 3 次曲線を使ってあてはめている。 確かに、この例ではよくあてはまっている。なぜか。うなぎのぼりであるからだ。 うなぎのぼりであれば、実は 2 次曲線だってあてはまる。もっといえば、n が 2 以上なら、 n 次曲線でもあてはまる。おまけに、決定係数 R は n をあげればあげるほど多くなる、 すなわちより当てはまるという結果が得られる。

しかし、n を増やしたからといって、統計的なモデルとして意味があるかというと、そうではない。 問題は、誤差に対する頑強性も評価しなければならないことだ。これについての議論は、 統計の適当な本に書いてある。では最適な n はどのようにきめればいいか、ということであれば、 それは私のページのあちこちで紹介している AIC を使うのが一つの便法である。

もう一つ、あてはめの対象として多項式モデルを用いることの限界がある。 なんでも、INS ネット契約回線の推移は次の式で表されるという。

y = 1.0878 x3 - 10.192 x2 + 30.653 x - 21.167

実際にこの式を計算できるようにしてみた。x の欄に西暦から1988を引いた値を入れ、 y の欄にマウスカーソルを動かせば、 y の欄に予測回線(単位:万回線)が出る。

x: y:

最初に私が検算しようとして、x に西暦の値をそのまま入れたらyにとんでもなく大きな数字が 表示されてしまった。x は上記で説明した意味である。本文または脚注にこの旨注記のないのは 不親切である。

ともあれ、この予測によれば2010年には(x = 22)、予測がおよそ7300万回線となる。 非常に怪しい数字だ。頭打ちの効果が入っていないのがその理由である。 3 次式に限らず、一般に、多項式近似は頭打ちの効果が入らない。 しかるべきモデル(簡単にはロジスティックモデル、より正確には他のモデルもある)に あてはめるのが、次のステップであろう。

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