えとせとら


紅はこべ
バロネス・オルツィ
創元推理文庫

 ディケンズの「二都物語」はハンカチが必需品で、「スカラムーシュ」はひねりが利いていてにやりとさせられる。そしてこの作品は謎かけ半分&危機をくくり抜ける変装や機転の痛快さと言うべきだろうか。フランス革命を舞台にした物語の一つである。
 今日もドーヴァー海峡を越えてギロチンから逃れたフランス貴族がイギリスの地を踏む。彼らを救い出したのは誰ともしれぬ「紅はこべ」。マルグリートはイギリス貴族と結婚している元フランスの女優、兄の生命と引き替えに紅はこべの謎を探るようにと革命政府よりイギリスへと派遣されたショーブランから突きつけられる。あれかこれかの二者選択、舞踏会で兄を救おうと決心するのだが・・・・・・・・・・。紅はこべが実は○○だったと気付いたマルグリートは危険を知らせようとカレーまで追いかける。
 愚者の仮面をかぶったお金持ちの貴公子という設定は「怪傑ゾロ」などでも見られるが、はらはらしながらもホッと読める物語(ロマン)である。  (2002.02.11記)
創竜伝 7
田中芳樹
講談社文庫

 ついに竜泉郷へ。“黄土のドラゴン”。中国は西安から4人兄弟の旅はまた始まる。収容所に閉じこめられている黄老(黄大人の兄)を救出に向かうのだ。彼だけが竜泉郷の場所を知っている。彼らの行く手に現れた新たな敵。あの4人兄弟の戦意を萎えさせてしまう不気味な笑い声、それは・・・・。
 一方香港で待つ茉理たちの前に姿を見せたランバート・クラーク、彼が四人姉妹のトップに立つという。近親婚の血の凝縮は何を呼ぶのか。竜種と牛種、謎に近づいていく。
 それにしても新キャラの日本人yじょせいの凄まじいまでのすごさに脱帽。   (2001.6.28読了 -6.28記 11.19転記)
創竜伝 6
田中芳樹
講談社文庫

 森林浴をするドラゴンたち。“染血の夢(ブラッディ・ドリーム)”。アメリカの地に降り立った4兄弟と茉理ちゃんグループ。彼らを捕らえようとはりめぐらされた蜘蛛の糸。シカゴとセントルイスの二つのホテルの間にレーザービームが飛ぶ。セントルイスで合流した一行に4兄弟の祖父を知っているという黄大人の救いの手(って、彼らだけだったら救いも何もいらないだろうが^^;)。サンフランシスコに着いた彼らに襲いかかるはアメリカ軍。海軍との海戦を続くんと終くんが竜と化して制す。新しい敵役の『クラーク』なる人物が四姉妹の一員? 舞台はさらに動いていく。   (2001.6.24読了 - 6.24記 11.19転記)
楽園の魔女たち
〜まちがいだらけの一週間〜
樹川さとみ
集英社コバルト文庫
 
 シリーズ第14話。“魔術師の館”に居を構えた4人の魔女。でも現実はきびしい。お客がこない=お金が手に入らない=倹約生活;ダナティア殿下が畑を作る!! を余儀なくされてしまう。そこへ現れた一人の少女、やっとお客が、と思ったのもつかの間の家出少女なのだった。
 そこへ千客万来? 殿下の婚約者候補やらサラにデートを申し込む男の子。ナハトールにごくちゃんにアシャ・ネビィも・・・・・・・。師匠のエイザードは塔でやきもき。何がどうめぐり合わさったのか4人はローカイドの牢屋へ。この牢屋に入ってからのドタバタギャグが秀逸。
 一部ドシリアスでドキッとあわてた、じゃなくて、ますます登場人物の陰翳が深まるのだった。 (2001.7.11読了 - 7.11記 10.15転記)
巨人たちの星
J・P・ホーガン
創元推理文庫

 「ガニメデの優しい巨人」の続編。シリーズ3部最終巻。謎が開かされ閉じる輪。
 「シャピアロン」号に乗ったガニメアンたちが目的地につかないうちに、月の裏側で、地球上で様々な暗躍を繰り広げる人間がいた。彼らのことはガニメアンたちをよく知るハントやダンチェッカー教授らには初めのうち秘密にされていた。
 科学的事柄でなく政治的事柄。実は地球における人類の発達には工作がなされていたのだという。その工作をしていたのは誰なのか、彼らの最終目的は・・・。謎解きの面白さも加わり、新たに登場するテューリアンなど、月の基地から始まったチャーリィの謎は宇宙規模の時空へと広がっていく。
 メビウスの環が回り回る最終場面は圧巻。 (2001. 1.22記)
スカラムーシュ
ラファエル・サバチニ
創元推理文庫
 
 時はフランス革命前夜、一人の農夫が貴族の私有地に入ったと射殺される。こんなことは当時よくあったことで、主人公のアンドレも「法に照らせば仕方がない」とうそぶいていた。まだ物語の始まらない頃のことだ。
 親友を殺され、その敵を討ちたいと願うアンドレが、レーヌからナントへパリへ、暴動を扇動したとして官憲に追われる身となりながらも切り抜け復讐にとむかう。アンドレの動きと平行するようにフランス革命勃発、ついには議員にまでなってしまうアンドレである。
 「スカラムーシュ」とは、古代イタリア喜劇で空威張りする役者の意味とか。旅役者に身を潜め、剣士となり、仇とねらうその相手に向かっていくのだが・・・。冒険冒険、またまた冒険、次から次へと場面が変わり、息を継ぎまもなくテンポよく話が畳みかけられて、何度読んでも痛快である。終局もこれにきわまれり、というところか。一大ロマンスでもある。
 話の中でアンドレの語る言葉・物事のとらえかたが印象的だ。 (2000.12.30記)
巨大生物図鑑
デイビッド=ピーターズ
偕成社

  ≪全イラスト実物の1/22.5に完全縮尺≫とある。監修の小畠郁生氏のメッセージ「この本を目から45cmほど離してみよう。すると、(中略)、実物を10m離れたところから見た大きさになる」につきてしまうのだが、いつ見ても圧倒される。
 ヒトから始まり、動物も魚も昆虫も、現存しているのも絶滅してしまった種も次から次へと約70種。ジャージ姿の男女が駆け抜けていくというアイディア、自分に置き換えて見ることで、よりその巨大性がはっきりしてくるし、中間部の見開き部分とか工夫がいっぱい。
 まさに〈百聞は一見に如かず〉である。 (2000.11.20記)
ざ・ちぇんじ(前・後編)
新釈とりかえばや物語
氷室冴子
集英社コバルト文庫
 
 京の都・平安時代特に何事もなく平和な日々が流れているとある時代のとある家での昼下がり。そこに響くは侍女の悲鳴??  権大納言家の二人の子どもたちの話。綺羅君、綺羅姫の物語。
 題名、サブタイトルどちらからも話の見当はつくだろう。かたや宮廷に出仕、かたや後宮に。綺羅君綺羅姫、性格はまる逆(そう、性格もとりかえばやなのだ)共に顔立ちも似通ったこの二人とそれを取り巻く人々のお話。
 判りきった設定をその期待を裏切らずに書かれていて、軽妙でドタバタで楽しく楽しく読んでしまうのだった。(2000.11.05記)
ガニメデの優しい巨人
J・P・ホーガン
創元推理文庫

 「星を継ぐもの」の続編。木星の衛星ガニメデで発見された2500万年前の宇宙船は探査隊の手によっていろいろな調査が試みられていた。有り得ないはずの酵素、重力パルス、解ききれない謎は深まるばかりだった。
 そこにあらわれたのは過去からの旅人ガニメニアン。二つの種族の出会いと間を結ぶコンピューターのゾラック。謎が解明されていく。
 プロローグとエピローグ、魅力的な会話の数々、なぜ人類がここまできたのか(こられたのか)の遺伝からの説得ある説明。その巧みさにいつ読んでも飽きることのない魅力を感じる。 (2000.11.05記)
銀青色(フィアリーブルー)の伝説
中山星香
双葉文庫[名作シリーズ]
 
 1984年にはすでにコミックになっていた本書の文庫バージョン、連載は1982年の11月号のプリンセスから。懐かしく見かけて購入。文庫で読むことに抵抗あるけれどすでに読めぬコミックを文庫化してもらえるのはありがたいことだと。
 「鳥の民」、銀の都にすみ白鷹をあやつる。「森の民」、その名の通り森にすむ力強き生命力に満ちた人々。両方の血を引くアイオンは森の民の王となる。彼の心をとらえたリン皇女は鳥の民。二つの民の対立。しかし対立などといっていられない迫りくる寒気。両方の民をまとめて南に移動せねばならない。それぞれの民をまとめるには・・・・。
 まっすぐ前を見つめる毅然としたリン皇女の生き様は「妖精国の騎士」のローゼリィを彷彿とさせる。己のを見極めつつ力を尽くす星香さんの描く美しくも哀しい女性がここにいる。そして彼女を見守る男性(アイオン)のまなざしも、また・・・。
 このときすでに原型ができあがっていた星香ワールドを改めて満喫した。彼女の描くFTはどんな時もすてきだった。(2000.10.30記)
一夢庵風流記
隆慶一郎
新潮文庫

  戦国時代から江戸にかけての歴史系はあれこれつまみ食いしているし、なんて思っていたのは完全な間違いだということは読むにつけ知るにつけ、である。この本の主人公前田慶次郎もまたその一人である。
 『かぶき者』あるいは『バサラ』。時の権力にさからうその生き様の美学。滝川一益の従兄弟滝川益氏の子、前田利久(前田利家の兄)の養子、前田慶次郎利益。この人物の魅力が作者の手であますことなく描きだされている。最初の一行からぐいぐいと引き込まれて最後まで読み尽くしてしまう。朝鮮行きの場面とといい秀吉との対決といい、見事な男がここにいる。(2000.10.27記)
暁の娘アリエラ(上)
ひかわ玲子
講談社X文庫
 
 「女戦士エフェラ&ジリオラシリーズ」の外伝ということだが、その辺はなにも知らないまま読んだ。同シリーズ外伝の「青い髪のシリーン」を読んだ勢いで改めてぱらぱら読み直す。
 皇家の血を引くジリオラの娘アリエラの人生が刻まれ始める。ハラーマの世界は正統性を求める我こそはの三公家によっていつ争乱が起こってもおかしくない状況にある。その切り札として必要なのは皇位を投げ出してしまっているはずのジリオラかその娘。魔の手が伸びる。
 さらわれたアリエラが選択したものは・・・。 星が動くという言い方は宿命論的なのだけれど登場する少年少女たちの輝きが星以上かも。(2000.10.27記)
星を継ぐもの
J・P・ホーガン
創元推理文庫

  オールタイムハードSFをあげよといわれたら、まずこの本は欠かせない。ガニメデ3部作(4もあるがそれはそれ)の始まりである。
 月面で宇宙服に身を包んだ死体が発見される。放射性同位元素崩壊の分析からその死体は人類が生まれる以前、5万年も前からそこにあったのだった。最新の技術を駆使していろいろなことがわかってくる。わかってくるが故に謎が深まる。彼はいったいどこからきたのか。
 翻訳出版された20年前、初めてこの本にふれたときの感動。これぞSF、センスオブワンダー!! ミッシングリング、エピローグ。そして月。ネタバレはこの本に関しては絶対にだめ。ぜひ読んで発見してほしい。近年我が子に読ませて「あの、あれが・・・」と共に共感を語り合える醍醐味。時代を超える本である。
 アポロが月に降りてもうずいぶんたつけれど、まだまだわからないこともたくさんある。結果が分かっていても繰り返しこの本を読んでしまうのは、世界の再構築の快感のためだろうか。(2000.10.16記)
『リボン』のふろくと乙女ちっくの時代
大塚英志
ちくま文庫
 
 原題「たそがれ時にみつけたもの」(太田出版)。本書を手にとってぱらぱら見る。序の最初に「大学生も読んだ'70年代の『りぼん』とある。そうそう、読んだよなあ。週間マーガレット、別マ・別コミ。はなゆめにLala。つい最近まで携帯用の薬入れに『りぼん』付録の小箱を使っていた私なのである。さらに別誌付録の「日天(略)」のイラスト付のノートは今も大事にしまってあるのだが・・。
 なつかしくもしかしこの分析された時代とは少しずれている時を過ごした私はうんうんと頷きながら読む。書かれている時代に思いを巡らせ記された付録をきっちり覚えてることに苦笑いをしつつ・・・。消費社会へとうつっていく時代を切るのにこんな視点があったのかと。
 1995年に文庫化されたときに本書に初めて気づいて購読したのだがなぜ原著発刊1991年に気づかなかったかと少々悔やんだ1冊である。 (2000.09.15記)
雑誌を作った編集者たち
塩澤実信
廣松書店

 明治創刊の「中央公論」からダカーポまで。いろいろな雑誌、あの編集者この編集者、最近は読む雑誌も限られてきてしまったが、創刊にかける情熱はすごいなあ、の一言。
 身近で見かける雑誌の裏を覗くようで、ちょっと不思議な、特をしたような気分。  (2000.07.15記)
変奏曲
竹宮恵子
朝日ソノラマ
 
 ウォルフ&エドアルド。二人の少年とそれをとりかこむ人々の物語、なんて書いてしまうと・・・・。手元にあるずしりと重い本書、昭和52年11月30日発行とあるから20年以上も前の作品なのだが、「風と木の歌」の連載と並行した当時、時折雑誌に書かれたこの物語、ジルベールとセルジュとはまた違った魅力を持っていた。どちらかというとよりこちらのウォルフとエドナンが好きだった。
 死の影をかかえたピアニストウォルフと、彼を追いかける生気に満ちた、そう、ときには革命の道にその身を捧げるくらい熱情的なヴァイオリンの弾き手エドアルド。彼らの出会い、生い立ち、それぞれの思いなどがいくつものエピソードを重ね繰り返しながらカノンのように語られる。エピソードが重なるにつれて見えなかった世界が拡がり、想いが永遠を呼ぶ。
 彼らを取り巻く、たとえばウォルフのマネージャー、アダムス。ウォルフの妹で後にエドナンと結ばれるアネット。そして何より二人の出会いのきっかけを作りエドナンの成長を助けたともいえる女嫌いの椿館のホルバート・メチェック。それぞれの物語がまたよい。
 今回あらためて表紙からじっくり見ていると数ページのイラストのあとに「わが友N・Mに捧ぐ」とある。この人誰かな、なんて見落としていたのだけれど、近年明らかになった。参照「ウィーン協奏曲」 (2000.07.15記)
ウィーン協奏曲
竹宮恵子・増山のりえ
創美社コミックス

 いま明かされる創作秘話!と帯にあって、確かこの本に収められている最初の2作はコミックで持っていたはずだし、他も読んでいるから普通なら買わない(たぶん^^;)はずだったのだが・・・。
 表題作及び続編の「ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)」は、ウィーンに渡った若きピアニスト・生島玲との交流の形で書かれている。その他の作品は「ロベルティーノ」「スター!」「ワン・ノート・サンバ」。愛すべき少年たち、哀愁の少年たち。その心に魅せられる。
 そして巻末の「スペシャル対談」。竹宮氏と増山氏。「変奏曲」が二人の共作だった、その他のいくつかの作品も、と語られ、驚く反面妙に納得できるところもあって、なぜ当時「原作」の名がでなかったのか、それなりの事情とはいえ、何か悲しいと同時に「変奏曲」にさりげなく書かれた「〜に捧ぐ」にようやく気づいた次第。
 原作のあるなしに関わらす竹宮氏のすばらしさは変わらない。彼女の作品が原作にさらなる深みを増すことは私のお気に入りの「そばかすの少年」でもその力をあますことなく発揮している。  (2000.07.15記)
丘の家のジェーン
L.M.モンゴメリ
新潮文庫
 
 ランタン丘、というのがその場所の名前なのだが、もちろん(何がモチロン?)プリンス・エドワード島にある。港・砂丘・灯台の揃った魔法のかかった家の切り盛りをジェーンはその夏することになった。
 物語はトロントで始まる。ジェーンは母と一緒にトロントうららか街の祖母の家に住んでいた。パーティなどで飛び歩いている美しい母はしかし幸せそうに見えない。ジェーンもうららか街では幸せでない。4月、1通の手紙が届く。「あの男」(父@ジェーンは最近まで父が生きていること、別居していることをしらなかった)から、PS島にジェーンが夏休みに過ごすように・・・・と。
 初めて知り合う父。心を開きのびのびと明るく日々を送るジェーン。トロントへ帰ってからの生活も以前とは違っていた。父と語るために知りたいことがたくさんある。一方で、ジェーンとさえいればいいという父母それぞれの様子に心いためるジェーン。PS島の友人から1通の手紙が届く。
 丘の家を切り盛りするジェーンの作るお料理読んでいると、きまって何か食べたくなってしまう罪作りな本(きまって冷蔵庫探しをする^^;)でもある。 (2000.07.07記)
かこさとし☆ほしのほん
かこ さとし
偕成社

 「はるのほし」「なつのほし」「あきのほし」「ふゆのほし」の4冊セット。子どもが小さいときは季節が変わるたびに図書館から借りては読んだものだった。絵本で字も大きく読みやすくそしてわかりやすい。とあるときまとめて買ってしまった@生協注文用紙にて。
 初めてふれるほし、星座、星座物語、宇宙の神秘。いつ読んでも飽きがこない。読むと星のきれいな山に行きたくなる。降るような星空は時間を忘れて見入ってしまう。
 今日は七夕。あいにくの台風(3号)だけれど、せめてこの本(今日は「なつのほし」)で夜空に夢を飛ばそう。「なつのほし」に紹介されているのは、<あまのがわ・アンタレス・せきたんのふくろ・なつのだいさんかくけい・けんぎゅうとしょくじょ・そして、七夕祭り> (2000.07.07記)


6月以前の<えとせとら>


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