最近読んだ本 2000.8〜2001.1


                       
ダーティペア 独裁者の遺産
高千穂 遙
ハヤカワ文庫

  やっと文庫化されたので手がでた本書。お久しぶりのユリとケイ。惑星アムニールに派遣された二人だったが、到着するなり襲撃に。新政府からの依頼を受けて旧独裁政府の残党を排除するのが今回の仕事、だったのだが・・・。そう、確かにそれだけではこの二人のトラコンが派遣された意味はない。
 例のごとく例の調子で飛び回り打ちまくり(^^;)果敢な二人、あれ、でもメンバーが足りないよう。
 クァール族、ムギがいかにして生まれ、ユリとケイの仲間になったのか。ダーティペアのまだまだ新人な頃の話。新人といってもすでに部長泣かせの異名はついていたようで、今回もまた・・・((^^;。(01.25読了 - 2001.01.28記)
聖刻(ワース)1092
千葉 暁
朝日ソノラマ文庫
 
 まとめてどっさり19冊。どんなに1冊にかける時間が少なくてもそれなりに積もるので、2週末丸ごとこの聖刻1092の世界にいた。シリーズ名とそれぞれの書名を以下に上げる。
 ≪聖刻1092聖都編≫「旋風(かぜ)の狩猟機」「熱砂の貴公子」「とらわれの聖王女」「黒衣の練法師」「雷光の秘繰兵」「光風(かぜ)の快男児」「中原の砂塵」「東方の嵐」
 ≪聖刻1092東方編≫「彷徨の三繰兵」「アグの大河」「怨讐の呪繰兵」「朔風(さくふう)の聖騎士」「聖刻協会の陰謀」「反逆の秘繰兵」「邂逅の聖巨人」
 ≪聖刻1092黒き僧正編≫「野望の蒼狼鬼」「咆哮の貴公子」「戦慄の黒太子」「復活の黒僧正」
 運命の担い手フェンと彼を取り巻くあまたの人々、仲間たち。歴史が動き世界が回る。黒と白の対立、それを目覚めさせる力を得るために人間界は何を要求されてしまうのか。封じるための手段は一体誰が担ってる・・・。
 戦闘場面の細かいところなどずいぶんとばしながら読んでしまった。話の流れを追っているうちにそのゲーム的な動き(つうか、元々ゲームのノベライズ的な部分が大きいのかな)を飲み込むとかなりテンポよく流れに沿って世界が見えてくる。(2001.01.21読了 - 01.28記)
タラスタロスの庭
前田珠子
集英社コバルト文庫

  エピローグがプロローグに、プロローグがエピローグに。そしてみんな幸せになりました、めでたしめでたしとはならない話はどこにでも転がってはいるのだがぁ・・・。
 アニエスタの王子カァスタイーンがタラスタロスを訪れて出会ったものは運命とよぶものだったのだろうか。その出会いを忘れた頃彼の人生の歯車がずれていくのだった。再びタラスタロスでの邂逅、血塗られた道を歩き出すカァスタイーン。
 黄昏、別名「逢魔が時」ともいうけれど、ここタラスタロスでは、銀色の月光の射しこむ十三夜だったのだ・・・・(^^;。悲惨に踊らされる主人公たちだが憎みきれずにふうわりと読む。 (01.04読了 - 2001.01.04記)
楽園の魔女たち
〜星が落ちた日〜
樹川さとみ
集英社コバルト文庫
 
 シリーズ第13話。プロローグでまずびっくり。一体何が起きたんだろう。さかのぼって話が始まる。
 楽園に星が落ちて、楽園が破滅状態になってしまう。師匠のエイザードと弟子の4人の少女&ごくちゃんは魔術師組合の本部に行くことになる。エイザードはそこで少女たちの手を離す。どうやら彼の過去の思いに引きずられた様子。しかしそんなことで少女たちが納得するはずはない。加えて本部で彼女たちにこれでもかとぶつけられる嫌がらせの数々。何とかしようと色々試みるのだが・・・。 あわや魔女修行もここまでか。それぞれの国元に返されてしまう少女たち。
 オールキャスト、懐かしの脇キャラ勢揃いの大サービス? エピローグがプロローグに還り落着、それともこれからがいよいよ・・・というところだろうか。本部の普通に(?)魔術の修行を積む少年少女もでてきて、我らが4人の少女たちとの対比がおもしろい。 (12.26読了 - 2000.12.30記)
聖刻群狼伝 1〜4
西方大陸篇
千葉 暁
中央公論社

  仮面が機体を動かす。巨人の繰兵を繰るのは選ばれたる者の印? 西の大陸に君臨した帝国も昔日の面影はない。列国の争いが始まろうとしている。
 ディア@主人公、小国の次男坊。後継者争いの歯牙にもかけられないでいるが、密かに考えることはある、の旅立ちが始まる。替え玉を残し各地を歩き回るディアが巡り会う争乱。その中で成長するディア。
 定めを背負う男たち。狼。ディアもその一人。そしてまた・・・。 
 戦闘場面が詳しく、繰兵の描写も細かでこういうの好きな人にはたまらないだろうなあと思わせる。ディアの周りに集まる人々がそれぞれ個性的で力も魅力もあってよい。次から次へとページを繰り、本のはしご(^^)。  (12.09読了 - 2000.12.18記)
聖刻群龍伝 1〜4
西方大陸篇
千葉 暁
中央公論社

  故国イシュカークに凱旋したディアは、民衆の歓迎は受けるが兄(摂政)に疎まれ派遣されたところは宿敵ナカーダとの国境。ナカーダ軍が侵攻してくる。1回は無事に守った国もかの国に蹂躙されてしまう。
 祖国を再建しようとあれこれ試みるディア。前シリーズ「聖刻群狼伝」で知り合った勇者たちがそれぞれの思いを秘めて続々とディアの下に集まる。周辺諸国との同盟で、苦境を抜けようと試みたりディアの進む道は遙かだ。
 はらはらどきどき、読んでいると目が離せなくなってしまうのは、1話完結のアニメが特番で2時間続きで放映されてしがみついている感じに似ている。話の流れもさることながら、ディアを取り巻く女性陣がいい。鈍感な男に恋するのもたまらないものがあるよね。2シリーズ続けて読んで書名の意味に頷けた。  (12.11読了 - 2000.12.18記)
カルタゴの運命
眉村 卓
新人物往来社

 ポエニ戦争・カルタゴと聞いてすぐに思い浮かぶのはハンニバルのアルプス越えという世界史でちょっとふれたくらいの知識で、これがそのまま主人公の持つ基礎知識と同じくらいだから視点が同位置で語られる物語にすっと入り込む。
 ポエニ戦争前後の時代をカルタゴの側からを中心に書かれたSF。タイムトラベルでもタイムパトロールでもなくゲームとしての歴史への介入を試みるということ。「最顕流」と「潜在流」。歴史の中にはいくつもの流れがあって、いろいろな可能性・組み合わせの中から現れてくるのもを「最顕流」として確定する。その確定するまでの過程の中で2つのチームがローマ側とカルタゴ側に別れて競う。主人公はそのカルタゴ側の正規メンバーに雇われた補助員ということになる。
 文中で、前置きをおいた上で説明されるカルタゴ(ポエニ戦争)の様子。これが事細かに語られれば語られるだけ読者として傍観しているはずはいつの間にか自分も引きずり込まれていく。843ページあったこの本を読んでいる間、夢の中で甲冑を着た戦士たちがどれだけ争っていたことか。挿し絵だってない字ばかりなのに想起されるイメージの豊かさ。主人公と同じチームに補助員として雇われたメンバー(途中でローマ側につく)が第二次大戦直後の日本人で、国家に対する考え方感じ方もまるで違うその存在が効果的に話を深めている。
 歴史を学ぶってものの見方を学ぶことなんだ、というのが私の歴史に対する原点なのだが、この「カルタゴの運命」読みながら、その流れはもっと多義的で変動的なのかもと思うようになった。有り得ないはずの三次元と四次元の間にすむ人々(人といえるかという投げかけは本文でよくなされていたが、あえて人と呼んでおこう)の存在とその彼らが試みるゲームという形を取ることによって書かれた本書、読むことにより広がるものが確かにある。  (12.02読了 - 2000.12.03記)
流血女神伝
砂の覇王3
須賀しのぶ
集英社コバルト文庫

  毒殺犯にされて処刑されようとするカリエ。後宮での生活も、いや生きることもここまでか、って、主人公が死んでしまっては話がつながらない。いじめにいじめられてもたくましく生きるカリエなのである。
 バルアンと対峙し彼がかした賭をクリア(といってもカリエが賭を知っていたわけではないが)し、またまた少年に化けて、小姓としてバルアンに仕えることになる。砂漠での生活。一方ルトヴィア帝国のドミトリアスは彼の信念に従って動き出す。皇后を迎えるという、その相手は・・・。時が流れ、また動き出す。
 直前まで読んでいた本(「カルタゴの運命」)が本だったので、話の構造や細部の描写にくいたりなさを感じたのはこれは完全に読み手の勝手な都合である。そもそも求めているものが違うのだから・・・。軽く気持ちよく紙上で遊ぶには負けず嫌いのカリエのキャラクターはおもしろい。  (12.03読了 - 2000.12.03記)
スカーレット・ウィザード4
茅田砂胡
中央公論新社

 前作の終わり方ではケリーは簡単に脱出できるかと想像していたのだが、なかなかそうはいかなかった。宇宙船の中での戦闘場面、ケリーのストイックなまでの徹底ぶりなど、迫力満点。ダイアナ&ケリーコンビの常識を越えた伝説も頷ける。物語前半はこの脱出と復讐。
 現れてくるケリーの過去、ジャスミンの力の秘密、それに対するそれぞれの反応はやはり似たもの同士ということか、踏み込まず、踏み込ませず。猫かぶっていたケリーの皮がはがれてきたので≪クーア・キングダム≫のメンバーの中にもケリーのことを「もしや?」と思うメンバーも出てきている。
 無事すべてが解決したそのとき、船内に警報が鳴り響く異常事態。例の5人が打って出たのだ。二人の子どもがさらわれ、門は破壊され、≪クーア・キングダム≫は島流しに・・・。そう、ケリーがいなければ。
 荒れくるう「赤ゴジラ&黒ゴジラ named by 作者」(しかしなんてぴったりなんだろう) 続きは次作で、という次第だが、おいしいところで話を切られてしまう読者はたまらない。また数ヶ月あれこれ空想を巡らすことになるのだ。本編最後の、<本文を引用すれば「どちらも世間一般的にはとても微笑ましい台詞である」>ところの、この夫婦の台詞とその意味するところは・・・・。どんな技が現れるか今から楽しみ。
 前作おまけの短編と書いた「十一番目のダイアナ」だが、しっかりこれが本編に生きて、ダイアナが、ケリーが、それぞれが語る言葉を深めている。読み終わるのがもったいなくも先を急ぎページを繰った。   (11.25読了 - 2000.11.26記)
タブーなき闘い!
『噂の真相』編集長日誌2
岡留安則
現代教養文庫

  1984年4月号から1989年3月号までの5年間。昭和の終わりの5年間でもある。【今月の言葉】及び、各号の目次など読み返しながら振り返ること多々。
 ちょうどこの文庫化の直前、右翼による襲撃事件で編集長他が怪我を負ったのは記憶に新しい。その中で「自由な表現活動を撤退するつもりは一切ない」と語る岡留氏にこれからもエールを送る。状況の混沌した時代だからこそ。
 あのXデイの時の各マスコミ対応の総括で目から鱗だったことを思い出しつつ、(森内閣不信任案が提出されて・・・という日なのだ、たまたま今日は)政治を巡るドタバタなどをどこから切り取ってくるか、楽しみなのだ(いつも)。(11.14読了 - 2000.11.20記)
青い髪のシリーン(上下)
ひかわ玲子
講談社X文庫

 実はこの話、実際は3冊の新書版で読んだのだ。うち1と2が大陸書房で3が講談社。現時点では文庫のほうが入手可能なのでそちらをとってある。新書で読むのと文庫で読むのとでは違うのだけれど、また、段組が出版社が変わることで変わってしまったなどということもあるけれど、それはさておき。
 2年以上も前から進められて手元に届いていた本、体力気力知力ともに疲れ果てて何か軽く読めるものをと引っ張り出す。「女戦士エフェラ&ジリオラシリーズ外伝」とのこと。本編を知らずして外伝を読んだのだが、関わりつつも独立していて楽しめた。エフェラの子シリーンが結界で守られていた村から外の世界へと飛び出してしまう。そこで彼のであったのは・・・。3つ目の神、荒ぶる神、あれる大陸。話は広大でテンポもよい。テンポよすぎて1冊30分強で読めてしまって(^^;。
 関係を知らずに過日読んだやはり同シリーズの外伝に当たるであろう「暁の娘アリエラ(上)」を読み直してハラーマの世界がどう動いているのかちょっと惹かれて本編も貸してもらって読んでみようかななどと思うのだった。  (10.26読了 - 2000.10.27記)
西の善き魔女 外伝2
銀の鳥 プラチナの鳥
荻原規子
中央公論新社

 5巻で完結を見た同名の外伝。作者が語るようにこの話が加わってこそ話のつながりが見えてくるといった意味ではシリーズを深めている。
 脇に隠れがちだったアデイルが主人公。東の帝国ブリギオンの侵攻の謎を解くために砂漠に出かけた彼女に・・。
 勝ち気な陰に隠れた女の子ってこうんだよねえ、と読みながら頷くこと多し。このシリーズに登場した少女(及び元少女)たちのそれぞれの個性的でいききした魅力にあふれていることか。 (10.17読了 - 2000.10.22記)
桐原家の人々3
恋愛統計総論
茅田砂胡
中央公論新社
 
  それにしてもこの作者の書く主要登場人物の女性と来たらどうしてここまで逞しいのだろう。副題の恋愛なんたらはシリーズ最初のあとがきに書いてあるように多分に付け足し的なところ。ラブコメなんて甘くはない壮絶さである。
 角川ルビー文庫より出版された同名の本を加筆修正して新たに出されたシリーズ第3作の本書。ようやく家族の真実が明らかになって落ち着いた日々を送り始めた一家の前にロールスロイスが現れた。過去からの亡霊? ご大層な一族はいったい何を零に求めるのか。
 パワフルに動く桐原家の人々。そのむちゃくちゃぶりが何ともいい。そして二人の大円団とそこに至るまでの相変わらずのドタバタ。仕事に行く前に3ページ読んだのが運の尽き(^^;) 、帰宅後何もかも放り出しての一気読み。
 あとがきに「3冊の中で一番手が掛かり削除も多く・・・」とあるのを読みながら、この3冊いぜんルビー文庫で読んでいてその時の印象とどこがどう違うのか、加筆された一部はわかるものの、うーん、気になる。手元にルビー文庫があれば読み比べるのに、と娘と意見が一致して二人で苦笑い。全く享受する読み手というものは・・・(^^;。(9.27読了 - 2000.10.01記)
飛翔せよ、閃光の虚空(そら)へ!
スコーリア戦史
キャサリン・アサロ
ハヤカワ文庫

  遺伝子操作から生まれた二つの種族からなるスコーリア王国とユーブ帝国、そして連合国(地球)。銀河の争いは前の2つの国家の覇権争いでもあった。他者の苦痛のみを快楽としているユーブ貴族の若者とエンパス・ローン系サイオンの王位継承者にしてジャグ戦士たる二人はとある中立惑星でであう。
 相手は敵なのになぜ・・・。宇宙を舞台にロミオとジュリエットもといソースコニーことソズとジェイブリオルは出会い惹かれていく。憎い敵なのに惹かれるのはジェイブリオルに隠された秘密が関係していた。この秘密が明らかになったら・・・
 2つの種族は遺伝子操作から生み出された光と影、裏と表。SFでロマンスでスコーリア王国の人々のつながりも一興。帯の<アメリカ版「星界の紋章」>はちょっと違うぞ、だけど途中でやめられない面白さがぎっしり。 (9.25読了 - 2000.09.30記)
稲妻よ、聖なる星をめざせ!
スコーリア戦史
キャサリン・アサロ
ハヤカワ文庫
 
  舞台の始まりは地球、1987年アメリカ連合国ロサンジェルス。マヤ族の血を引く女の子ティナの一人語り。GIRL MEAT A BOY. 1巻とはまた別の恋物語。
 アップロード・ダウンロード・システムにアクセス、なんていう言葉が恋の告白に使われているのに何の不自然さもない不思議、奇妙な心地よさ。前作のソズよりももっとサイボーグなオルソーとティナの出会いは運命である。
 下町で隠れるように暮らしていたティナが自らの力を知らないままオルソーに触発され、危機に出会い、力を発揮して冒険(戦い)の旅路へと歩み出す。彼女の力はマヤ族直径の力からきていた。スコーリア王国の元となったレイリコン人との遺伝的なつながりも明らかになる。マヤ文明とのつながりもまた同様に。
 ローン系サイオン同士の結びつきの様子などの描写にわくわくさせられる。 (9.26読了 - 2000.09.30記)
制覇せよ、光輝の海を!(上・下)
スコーリア戦史
キャサリン・アサロ
ハヤカワ文庫

  それぞれの世界での第1王位継承者であったにもかかわらず、もしくはだからこそというべきか、恋の逃避行(亡命)を選択したソズとジェイブリオル。未知の惑星で二人の生活が始まる。子どもと共に築くローン系共同体の生活も星間戦争の波に洗われる。
 ソズとジェイブリオルの(偽装の)死後、スコーリア王クージとユーブ皇帝はそれぞれの後継者問題に悩みつつもその対立は深まる一方である。そしてこの二人の相討ち。混乱を重ねる銀河。ソズとジェイブリオルの生きていることも一部の知るところとなり、ジェイブリオルはユーブ帝国にさらわれ傀儡皇帝にさせられる。
 スコーリアに帰還し王に就き復讐と夫を取り戻そうとユーブ帝国に突入するソズ。この切れ味がかっこいいのだ。誰が向かってこようと愛するもののためなら・・・・。
 ユーブ貴族の生活が細かにかかれてますます世界に説得力がついて、それで。それで、どうなるのぉ〜、と、ページを繰る手がさらに早まる。ジェイブリオルの血を引く二つの王国の継承者、ジェイ(=ジェイブリオル3世)のこれからも気にかかる。
 シリーズをまとめてわくわく一気読みしたので、次が待ちきれないほどだ。魅力的な世界のおはなし。 (9.28読了 - 2000.09.30記)
巡洋戦艦〈ナイキ〉出撃
虹の勇者オナー・ハリントン3
デイヴィッド・ウェーバー
ハヤカワ文庫(上・下)
 
 グレイソン攻防戦から1年後、負傷から現場復帰を果たしたハリントンは巡洋戦艦〈ナイキ〉の艦長となる。向かう先はハンコック駐屯地。戦闘訓練のなかで隊の能力も高まっていく。一方の宿敵ヘイヴン人民共和国では内政の不満を外に向けるための侵攻計画が進められていた。それぞれの国・艦隊・指揮官の駆け引きはまさに戦記物ならではの醍醐味である。
 今回の話の中でオナーの内面、過去も描かれ、強い艦長ではない女性としてのオナーの生活が豊かに変わってきたのはうれしい。士官学校以来の仇敵ヤングがまたハリントンと関わってきた。その時の彼女の心の動きとか、興味は尽きない。
 ヘイヴン内部での革命も様子を戦闘との関わりとして読んでいたのだが途中で「あれ? もしかして?」とくすぐりを感じた。(革命側に立つ指導者の名前、サン・ジュスト長官、ロブ・S・ピエール議長。世襲制の議員や大統領を倒して・・・)細部のこだわりもまた楽し。(9.24読了 2000.09.24記)
ハリー・ポッターと秘密の部屋
J.K.ローリング
静山社

 前作は夏休みで叔父の家に帰るところで終わっていたが、そのまま叔父の家で話が始まる。孤立するハリー、誕生日を迎えようとしているが、魔法学校の友達からも何の便りもない。そこに現れたのは・・・
 繰り返すことで話は深まるという児童文学の王道を行く第2作。思いがけない手段で叔父の家から救い出されるハリー、そして学校からの連絡で教科書を買いにダイアゴン横町へ。この最初の部分にでてくる新しいキャラが本書の裏の仕事人か? 『屋敷しもべ妖精・暴れ柳・庭小人』等々出てくる妖精や妖怪も魅力的なくすぐりを読み手に与える。
 魔法使いであることの名門ぶりを鼻にかけて「純血」を尊びそうでない人間を「汚れた血」とあざける一派との対立、石に変えられてしまった人間。なぞを解こうと立ち向かうハリーたち。50年前の扉が開かれる。「例のあの人」の過去もすこーしみえてそこにハグリッドやダンブルドア校長の“その時”も窺える。因果関係から謎解きもでき危機を脱したハリーたちに特別功労賞と200点のポイント、グリフィンドール寮の優勝杯に貢献する。
 脇をかためる妖精や魔法の小物や薬などや悪役のキャラなどがいい。道具立ては承知で、しかも話の展開を追って一気に読んでいうのもあれだが、やはりこの作品はファンタジーではなくて少年の学園物語というべきかと思う。ふ・つ・う(?)の男の子のハリー(プラスその仲間)たちだからこそ共感を呼ぶのだろう。  (9.16読了 - 2000.09.17記)
楽園の魔女たち
〜ハッピー・アイランド〜
樹川さとみ
集英社コバルト文庫
 
 シリーズ第12話。赤いサボテン青いサボテン、食べるといったい何が起こる。
 博士の怪しい島、海辺に打ち上げられたガラスビンの不思議な手紙、救出に向かう4人の魔女とごくちゃん。一方では探偵もその活動を始めた。探偵ルーファスとそのおばあちゃんである。このおばあちゃんがまたかなりとんでいて・・・
 コミカルなテンポで不幸がドタバタに変容されて事件は解決。そして塔には新しい住人が住み着くことになった。
 思わせぶりなエイザードの過去、新たな住人と彼との関わりは? ほとんどふれられてないけれど今後に妄想が脹らむ。 (8.24読了 - 2000.09.01記)
王女グリンダ
茅田砂胡
中央公論新社

  作者のあとがきで何度となく読んで読みたい見たい知りたい!! と願っていた幻の「デルフィニア戦記」がここに。
 大陸書房で出版されていた「王女グリンダ」シリーズ1巻「デルフィニアの姫将軍」2巻「グランディスの白騎士」の合本が本書である。大陸書房が倒産してその後名前を変えて中央公論社(当時)で再スタートした「デルフィニア戦記」は18巻の大長編、お気に入りの再読本でもある。そこでたびたび言及されていたがもう絶対にお目にかかれないと思っていたのに、感動である。『前書きに代えて』の作者の言葉を読むにつけてもその感やつよし。
 別物、別エピソードと茅田さんが述べられるのもしかり、主人公の設定こそ変わらないものの細部の色合いの違いがあって、特に読み始めはくらべてしまいもしたのだが、そこはそれ、仕事にとられる時間ももどかしく最優先で読了。
 読者とは欲張りなものである(自分も含めて)。出版に至る経路を読むにつけ関わったすべての人に、そして出版に同意して下さった作者に感謝。   (8.26読了 - 2000.08.26記)
ウィーン薔薇の騎士物語1
仮面の暗殺者
高野史緒
中央公論新社

  シリーズが3冊並ぶとついつい魔の手がレジに走る。というわけで3冊まとめて買って一気に読んだわけだが(まとめて3冊ある書店を探すのが実は田舎なので苦労した)カバーイラストにも惹かれたのではある。
 世紀末(今から1世紀前の)のウィーン、シュトラウスのオペラ『薔薇の騎士』が下敷きに入っていて音楽ネタの歴史ネタ。
 ヴァイオリンがやりたくて家でした来た少年フランツはジルバーマン楽団に入ることができた。仮面舞踏会で奏でられる左回りのワルツの影には陰謀が潜んでいた。
 恋も政治もごちゃ混ぜにあちこちの世界が混じり合ったコミカルな小品。     (8.20読了 - 2000.08.26記)
ウィーン薔薇の騎士物語2
血の婚礼
高野史緒
中央公論新社

 トランシルヴァニアの吸血鬼伝説というのはオーストリア・ハンガリー2重帝国の中に含まれていたんだぁ。うーん、史実織り交ぜた虚構というのは見抜く知識を要求されるけれど勉強になるなあ。
 ということで、吸血鬼伝説が舞台にのぼる。その血を目覚めさせるのに必要な音楽は?
 楽譜を渡されたフランツはそのジプシー音階の旋法にのめりんでいく。その音楽性に注目したのは1巻のジルバーマンの楽長ばかりではなかった。ブタペシュトの街に降り立ったフランツの消息が途絶えてしまう。彼はどこへ消えたのか。ウィーンではあのときフランツの弾いた楽曲があちこちで演奏されて死人騒ぎが・・・。
 哀愁のある吸血鬼(悪者ではない)というのは好きだなあ。姫川亜由美(「ガラスの仮面」)演じる『吸血鬼カーミラ』を連想したりして。四重奏団のメンバーも揃い彼らの奏でる音楽(プラス生活)がこれからどうなる。  (8.21読了 - 2000.08.26記)
ウィーン薔薇の騎士物語3
虚王の歌劇
高野史緒
中央公論新社

 バイエルン王御前演奏会選抜コンクールなるものに出場することになった「薔薇の騎士団四重奏団」。フランツ・アレクシス・エゴン・トビアス。四者四様に癖がありその紡がれる糸は楽曲にもおとらない。
 そこに現れたるは楽長の『まご』(!)の元気のいい女の子クリスタ。そして若きルートヴィヒ王そっくりの歌い手。振り回され巻き込まれるフランツ。トビアスはオーストリア皇太子@お忍び大好きルドルフとあちこちうろうろ。
 ドイツ統一のスパイ騒動、隠し子、貴賤婚、小間使い@尽くすだけで幸せだけれどいつか私を見てね、私あなたのためならどんなことも・・・・。盛りだくさんのお話の大円団はさて。
 これからどんなふうに成長していくのかな、先が楽しみな四重奏団のメンバー(プラス)ルドルフ皇太子たちである。次作発売が来年1月というのはかなり酷。    (8.21読了 - 2000.08.26記)
三千世界の鴉を殺し3
津守時生
新書館ウィングス文庫

  怪調に飛ばして第3弾。ルシファードは偶発(?)したトラブルを解決するがけがをしてしまう。蓬莱人のサラディンの媚香の威力を感じつつもはねのけてしまうルシファーとはそもそもいったい何者?
 ルシファードの出生の秘密が明らかにされる。なんと!!!  マリリアード王子が・・・・!!。ドキドキの展開。
 軍略もさえてファンも過激に増え、一部女性の発行する雑誌もよりダイナミックに進展し(^^;)ニヤニヤしながらの読了。    (8.13読了 - 2000.08.15記)
異端者シェン1
聖なる矢
三浦真奈美
エンターブレイン

   異端とはなんだろう。誰が決めるのか。権力者? それとも権力を手に入れたい亡者たち? 金の力がものをいうのは教会の中までなのか・・・・。
 異端の宣告を受けハイデラバード藩王が処刑される。新しい王は白い羽の「聖なる矢」をいられた家の息子がなる習わし。しかし矢のささった家にいたのは「シェン」。娘なのだけれど何か違う。友人のダートと共に都に行くシェン、そこには数々の冒険があった。
 張り巡らされる罠をよけながら風変わりなでも心の澄んだシェンは真の味方も増やしていくのだった。この巻の圧巻は「くじ引き」で選ばれた市民の参加のもと行われた王への就任儀式。いわゆる「王」とは違う一歩を踏み出したシェン。
 >だが、この日・・・・  で始まる最後の一行。思わせぶりで次作を待つまであれこれ想像をくゆらそう。 (8.13読了 - 2000.08.15記)
グレイソン攻防戦
虹の勇者オナー・ハリントン2
デイヴィッド・ウェーバー
ハヤカワ文庫(上・下)

  惑星グレイソンと同盟を結ぶためにマンティコアから使節団が派遣された。4隻の護衛船体の旗艦重巡洋艦<フィアレス>の艦長は上級中佐となった我らがオナー・ハリントン。
 グレイソンは宗教的主義のもとに開発された惑星でその教義の一つの特徴が“ 男性は女性よりも上位の存在である”というものだった。そこに女性の指揮官として派遣されたオナー。グレイソンの人々の驚愕と嫌悪のまなざしをいかにはねかえせるだろう。
 グレイソンにはその教義の対立から別に分かれた惑星マサダの脅威が近付いていた。マサダにはヘイヴンがついている。ヘイヴンは、バシリスク駐屯地での一件以来オナーを警戒していた。マサダ・ヘイヴンそれぞれが陰謀を企てそれが一気にグレイソンをおそう。グレイソン航宙軍は壊滅状態になってしまう。提督の死を嘆くまもなく敵に立ち向かうオナー。
 敵側(ヘイヴン)の「ユー宙佐」、グレイソンのヤナコフ元帥など、脇キャラにも魅力的な人物が多い。男性上位の信念で生きてきた人々が、オナーを初めとする女性の活躍にカルチャーショックを受けつつも受け入れていく柔軟さとあくまでも拒絶しようとする頑迷との対立など見どころがたくさん。思いがけないところでペリー准将(黒船来航)の名を見かけニヤリ。   (8.05読了 - 2000.08.06記)


7月以前の<最近読んだ本>


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