♪あんだんて♪レポート


府民開放講座「子どものこころセミナーT」  

「子どもの成長を願う親と教師たちへ」
    京都大学大学院助教授 桑原知子さん

6月3日(土)
京都府総合教育センター主催

  
 府総合教育センターが年2回開催している(1回は北部研修所で)講座に参加した。講師の桑原先生は京大で臨床心理士の育成や相談にたずさわりながら、学校現場や家庭裁判所などの現場で多くの子どもたちと関わりをお持ちだ。
非行傾向のある子やしんどい思いをしている多くの子どもたちに接しながらも、その子たちにこそ「成長の可能性を感じる」、「子どもはすごい」とおっしゃる先生。教師とカウンセラーは遠い存在だし、生徒を評価する立場の教師が、カウンセラーのようなことをするのは難しいことだが、「教師の立場で、カウンセリングのエッセンス、ものの考え方、人間観を使うことができるのではないか」というところからお話が始まった。

 「何か問題が起こる」というのは、悪いことが起こっているのではなくて、子育てや教育をもっとよくするためのヒントをもらっている。人間がともすれば人工物のように扱われている世の中で、そのヒントを活かすためには、「相手を人間として接する」ということを強調された。ならばものとは違って「人間ならではの特徴」とは何か。
 1つは「自己変容性(自己治癒力)」。自分が変わろうとする力、この力を利用することだ。それは園芸と同じ、「種の力を信じ」「見守る」ということ。見守るとは、関心を持ちつつ、手を出さないこと。こうすることによって子どものこころが育つ。
 2つ目は「多様性」。多様性を認めることは、甘くすることではなく、大目に見ること。自分の価値観を少し広くして、許容範囲を広げることだという。子どもは大人に対して、困ることを突きつけてエネルギーを使わせようとする、心のエネルギーを使うことを求めてくる。その子のことを受容することはしんどいことだが、悩んで、迷いながら一生懸命にやることが大切だと先生は言う。それが子どもに伝わるのだ。
 3つ目は「関係性」。相手の存在を感じて、相手によって自分も生かされていると感じること。人を変えることはほとんど不可能だけれど、相手に対して理想を持つ。そのことによって人を変えることはできないけれど、関係を持ち続けることは大事だ。例えば親と教師は「子ども」を介してともに存在するのだ。怒鳴り込んでくる親も関わろうとしているのだから、その時点で関係性がついている。相手を変えることはできないけれど、自分を変えることはできる、相手のことを想像しながら、自分を変える努力をしていくことが必要なのだと。

 『変える』と『変わる』は違う。関係性がついた時に『変わる』のだが、下心のある関係性は子どもに見抜かれる。期待しない時に『変わる』のだと答えられた。これは私の経験の中で、あるいはたくさんのお話を聴く中で実感している。

 後半は前半の話を元に、会場からの質問に答えられた。様々な質問に答えられたが、印象に残ったものをいくつか。
「別室から教室へと促したいが、そのポイントは」
『出ていく』『離す』という行動を促したい時は、まずくっつかせて、その場での関係をきちんと作る。そうして、あとは本人に任せる。時間はかかるが、それが『生き物のの時間』だということだと答えられた。別室という安心な空間にいるから、そこから出て行けない、などと言われることがまだまだ多いようだが、私たちは、安心できる空間で充分エネルギーが貯まれば自然にそこから出ていくと思っている。安心できる空間に、安心していられるよう、もっと理解が深まればと思う。

 「悩み、迷い続けて心のエネルギーが切れそうな時はどうすればいいのか」
まず大切なことは『知識』を持つこと。例えば不登校を経験した子どもたちがどう過ごしているのかを知っておくこと。ほとんどの子どもたちが、それぞれ自分のペースで自分のやり方で歩んでいることを知れば、気持ちに余裕ができる。そして『私が何とかしたい』と思わない。何かが変わる時、きっかけはあってもそれだけではない、それまでの布石がある。これしかないという考えで自分を縛り付けないで、未来について信じてほしい。しんどいことはない方がいいけれど、真っ暗ではない。今は動きのないように見える子どもも、その子なりの何らかの道を見つける。もうダメだと思った時に、何故かハプニングが起こる、未来はわからない。だからこそ「生きていてほしい」と。
日々の暮らしの中での不安は、相談機関などを利用して、共に歩いてくれる人を見つけることで、少しでも軽減してほしいとも語られた。

 お話を聞いていて、私が日々考えていること、感じていることをあらためて整理することができた。現場にかかわってこられた先生だからこそ、子どもの力を信じつつ、教師や親のしんどさも理解されているのだと感じた。ただ、一般市民、学校関係者、保護者と多方面の人を対象とした講演会ゆえに、どうしても話が抽象的なものになり、今渦中にいられる方にはちょっと物足りない話だったかもしれないし、現場の教師にはややもすれば理想論に聞こえたかもしれない。でも、桑原先生の子ども、そしてその子どもを支えている親や教師への温かいまなざしを感じ、心和み、何かのヒントを得られるひとときだったのではと思う。(さくら)


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