♪あんだんて♪レポート


芹沢俊介氏講演会「少年事件を考える」 7月31日(土)
ユースケアネット京都主催
    
 以前からお話を伺いたいと思っていた芹沢俊介さんが、少年事件について話されると知り、参加した。
 話は6月以降多発してる事件(東京板橋の両親殺害、山口県、高知県の高校の事件など)から始まった。 芹沢さんはこれらの事件を「内向爆発型」と名付け、その原因となる「いじめ」のことを話された。
 芹沢さんは「いじめとは特定の対象、標的に、反復継続的に暴力をふるうこと」という警視庁保安課の定義を評価されている。
 「いじめ」はいつ終わるかわからない「反復継続性」があり、また多くの場合「特定の対象」は一人であるのに対し、いじめに参加する側は不特定であるが故に報復の機会が少ない。そのためにいじめられた子が抱く報復衝動は、いじめに関わりのない親や兄弟などに向いたり、自傷行為に至ってしまうことがある。いじめとの因果関係がわからないために、親は子どもを責めてしまいがちになり、子どもを抱きしめることが難しくなる。こうして子どもの中に蓄積された「内向」が爆発したのが、最近の事件である。芹沢さんは内向が蓄積する時間が短くなり、爆発するのが早まったのではないか、と懸念される。そして、いじめの事実にたいしては、「いじめた側」と「いじめられた側」の2つの見方に分かれるが、必ずいじめの「標的になった側」の主観を大切にしてほしい、いじめを甘く見ないでほしいと主張された。

 昨年、水戸と土浦で起こった両親殺害事件は「ニートが起こした事件」として注目された。
が、芹沢さんは「背景にどんな家族があったか」というところに視点を置いてみると、「内向爆発型」の事件であるとして、

@学校価値に対して従順であれと子どもに求め、学校的なところを通ることでのみ、将来の展望がより広がるという考え方の「教育家族」
A親の意向に従っていい子を生きてきた子が、エネルギーを使い果たして親の思うように生きられなくなる「いい子のパラドックス」

というキーワードで話をされた。

 「教育家族」では、その親の意向を生きるために自分を殺したエネルギーで「いい子」を生きてきた子どもたち。殺す自分がある間は親に評価される結果を得ることができるが、殺すべき自分がなくなり、いい子を生きるエネルギーが枯渇すると、危機感を感じ始め不安になる。その表れが、不登校や家庭内暴力である。
 この状態は「今までの子どもへの接し方を見直すチャンス」であるが、「教育家族」はそれを「怠け」ととらえ、叱咤激励するので子どもの居場所がなくなってしまう。家庭に居場所がなくなって初めて、子どもは親の接し方に原因があると気づく(「いい子のパラドックス」)が、親の方は自分の対応が間違っていることに気づかないので、「いい子でなければ我が子でない」と精神的に子どもを見捨てることになる。このことが事件に繋がっていくのである。
 親自身がどこかで立ち止まることができれば、事件は起こらない。「ひきこもり」、「ニート」が起こした事件と報道されると、親は自分の子どもの今の状態だけを見てパニックになるが、事件を起こした少年が追い込まれていくプロセスを見れば、事件が起こるか起こらないかは明瞭にわかる。
 芹沢さんの話から、子どもが不登校になったり、サインを出したとき、とにかく立ち止まって子どもと向きあっていくことの大切さや、どう接したらいいかというヒントを得、少し安堵した。

 また、寝屋川の事件もやはり、「教育家族」で起こった事件と芹沢さんは見る。ここで注目されたのが、小学校時代にさみだれ型の不登校をしていた少年への、頻繁な家庭訪問である。この少年自身はクラスの中に居場所がないと感じながらも、頻繁な家庭訪問により登校せざるをえなくなっていたのではないか。「不登校をしているとき、学校からのアプローチは子どもたちにとってはつらい。特に、大変なエネルギーを使っていじめの事実を先生に訴えても、受け止めてもらえない時、その先生に失望感を抱いているのに、頻繁に家庭訪問をされるとなおさらつらかっただろう」、というのが芹沢さんの見方だ。私たちも常々同じことを感じ、この事件の報道を見たときにこの点に注目していた。
 「教育家族」では、「不登校していても不登校していない状態」になっていることが多いという。つまり家が学校の延長になっているのである。学校でやるようなことを家でもしないと、子どもは家に居場所がないのだ。芹沢さんの昼夜逆転もOK、「ちゃんと不登校しようよ」、「不登校をした、意味のある生活をしようよ」というメッセージは、ぜひとも子どもたちに伝えたいと思った。

 芹沢さんは、これらの事件には「いじめ」と「教育家族」が事件に加担していたという。このことに対し会場から、親自身が自分の親にたいして「いい子」でいるといった、前世代からの連鎖の上に「教育家族」があるとき、どう対応すればいいかとの質問が出た。
 芹沢さんは「突破口はお母さん。お母さんが変わっていく可能性が高い」とお話しされた。
 長い間「いい子」でいた親が変わるのは、確かに難しいことも多い。しかし、何らかの形で親が支援機関に繋がれば、何かが変わってくるのではないかと思う。私たち自身が、親の会や相談機関に繋がることで変化したことは確かだし、♪あんだんて♪に来られる方々を見ていてもそう思う。だからあきらめずに、できることをやっていきたいと思った。

 最後に「国家が教育を家庭から奪ってきている、今こそ母親が教育を自分の手元に取り戻すべき。そうすることで何かが見えてくるのでは」と締めくくられ、親子ともに不安定な今、母親を支える支援が必要だと話された。
 数々の事件が報道される度に出てくる、「不登校」、「ひきこもり」、「ニート」という言葉に、ややもすれば過剰反応していた私だが、今日のお話を聞いて、気持ちが随分楽になった。(さくら)



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