♪あんだんて♪レポート


山下英三郎さん講演会
学校におけるソーシャルワーク活動の独自機能とは?―
スクールカウンセリングとはどう違うのか
9月11日(土)
日本スクールソーシャルワーク(SSW)協会
主催
  
 毎年、日本SSW協会では、全国的な研修(といっても数十人の熱心な会員の集まり)をしているが、今年は滋賀県で開催された。研修プログラムの最初にこの講演会があり、山下さんの本を読んだり、「SSWしが」例会などに参加して興味があったので講演だけ聞かせていただいた。

 山下英三郎さんは、日本で最初にSSWを導入された人なのだが、その経緯を紹介すると、・・・

 1970年代、山下さんは三重県の山奥で家庭的に事情のある子どもたちを預かって暮らしておられた。(当時何で生計を立てていらっしゃたのか分からない、自由な感じのする不思議な人。)その頃、近くの三重県尾鷲市で最初の校内暴力の事件があり、以来またたく間に校内暴力事件は全国に拡大していった。マスコミの論調は(今でもそうだが)子どもたちがおかしい、親のしつけ方の問題というものだった。当時は教育の仕事には何も関わりのなかった山下さんだが、これに対して違和感をもち、ちがうんじゃないか、子どもたちにはなにか事情やそうなる理由があるのではないか、と思われたそうだ。
 そうした事件について何人かの米国人の友だちと話し合うなかに、子どものころ両親の離婚で荒れかかったとき、スクールソーシャルワーカーの助けで立ち直れたという友人の話をきいた。それが、スクールソーシャルワークに興味を持つきっかけになったとか。山下さんのすごいところは、日本ではまだ全然知られていない、そういう職業もなかった時代に、自分の興味に駆られてアメリカの大学まで行って勉強したことだ。当時37歳で、ご結婚して子どもさんもあったらしい。(奥さんもえらい!)

 2年間勉強して日本へ帰るとき、まったく就職のアテもなかったそうだ。予備校の講師をしながらSSWを生かす仕事を探していた時、友人のつてで、所沢市の教育委員会から教育相談員の仕事が入ってきた。活動の内容や肩書きは任されるということなので、スクールソーシャルワーカーという職業を日本に導入するチャンスと思い、月収12万という冷遇にもかかわらず、引き受けられたそうだ。(この待遇を聞き、教委は子どもたちの問題に本当に向き合う気があるのだろうかと疑問を感じた。)

 はじめは、校内暴力やツッパリの子どもが相手と思っていたが、そのころ不登校の急増とともに、引きこもりの子どもも増えていた。山下さんはそんな家庭を一軒ずつ訪問して行かれた。行っても子どもに会えるまでには時間が必要で、母親と話すことが多かった。「お母さん、私に飽きないでください。ゆっくり一緒にやりましょう」と言いながら、子どもと会えるきっかけがつかめるまで辛抱強く通われた。こんな言葉からも山下さんが子どもや親と同じ目線に立っていらっしゃった姿勢が伺える。ツッパリの子に会うために、夜中の2時、3時に出かけたり、時には夜明けに訪問したりということも。子どもといっしょにTVを見るだけで、1年間を費やしたとも以前うかがったことがある。

 所沢市で12年間活動をされ、その後朝日カルチャーセンターで講座を持たれた。そのときの受講生の継続した勉強会から現在の日本SSW協会が設立された。
 日本でも、数少ないがスクールソーシャルワークを学び、仕事に生かしている学校現場も出てきている。学校でソーシャルワークをやりたい「人」と活動できる「場」がマッチングすれば、スクールソーシャルワーカーとして活動できるということだ。 

 現在全国的に配置されているスクールカウンセラーは、校長など管理職の監督の下に置かれており、学校の方針のもとに活動するので、やりたい活動が制限されることも多い。週2回4,5時間の勤務という時間では、子どものニーズが高い学校だと十分対応できない。また、スクールカウンセラーになる資格が臨床心理士資格認定協会という民間の団体に限られており、他の団体は入れないということも問題があるのではないか、ということだ。

 いろいろな制約を取り除き、学校と対等の立場から家庭訪問や適切な行政機関との連携をはかるなど社会福祉的な活動もできれば、スクールカウンセラーもスクールソーシャルワーカーのような仕事ができ、より子どもたちのニーズに合った支援者になるのではないか、山下さんからそんな将来の展望も聞くことができた。

 山下さんは、スクールソーシャルワーカーやスクールソーシャルワークという言葉にこだわっているわけではない。学校なら、特に義務教育であれば、100%の子どもたちが所属しているので、子どもの問題に関われるのに最適な場所といえる。要は、子どもにとって最善のサポートがなされればいい。名称はファミリーサポートでも、地域ソーシャルワークでもなんでもいい、とおっしゃる言葉に肩書きや名称ではなく、本当に子どものために何ができるかを追及する熱い思いを感じた。(フェルマータ)




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