天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
1
むかしおとこうゐかうむりしてならの京か
2
すかのさとにしるよしゝてかりにいにけりそ
3
のさとにいとなまめいたるをむなはらからすみ
4
けりこのおとこかいまみてけりおもほえす
5
ふるさとにいとはしたなくてありけれは心地
6
まとひにけりおとこのきたりけるかりきぬの
7
すそをきりてうたをかきてやるそのおとこし
8
のふすりのかりきぬをきたりける
9
かすかのゝわかむらさきのすり衣
10
しのふのみたれかきりしられす となむ
11
をいつきていひやりけるついておもしろきこ
12
とヽもやおもひけむ
13
みちのくのしのふもちすりたれゆへに
14
みたれそめにし我ならなくに
15
といふ哥のこヽろはへ也むかし人はかくいちはや
16
きみやひをなむしける
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
17
むかしおとこありけりならの京はヽなれこの京
18
は人のいゑまたさたまらさりける時にヽしの
19
京に女ありけりその女世人にはまされりけり
20
その人かたちよりはこヽろなむまさりたりける
21
ひとりのみもあらさりけらしそれをかのまめ
22
おとこうちものかたらひてかへりきていかヽおも
23
ひけむ時はやよひのついたちあめそほふるに
24
やりける
25
おきもせすねもせてよるをあかしては
26
はるのものとてなかめくらしつ
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
27
むかしおとこありけりけさうしける女のもと
28
にひしきもといふ物をやるとて
29
おもひあらはむくらのやとにねもしなむ
30
ひしきものにはそてをしつヽも
31
二条のきさきのまたみかとにもつかうまつり
32
たまはてたヽ人にておはしましける時のこと
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
(次段への改行ナシ)
33
なりむかしひむかしの五条におほきさいの宮
35
おはしましけるにしのたいにすむ人ありけりそ
36
れをほいにはあらて心さしふかヽりける人ゆき
37
とふらひけるをむ月の十日許のほとにかヽ
38
くれにけりありところはきけと人のゆきかよ
39
ふへき所にもあらさりけれはなをうしとお
40
もひつヽなむ有ける又の年のむ月にむめ
41
のはなさかりにこそをこひていきてたちて
42
見ゐて見ヽれとこそにヽるへくもあらすうちなき
43
てあはらなるいたしきに月のかたふくまてふ
44
せりてこそを思いてヽよめる
45
月やあらぬはるやむかしのはるならぬ
46
わか身ひとつはもとの身にして
47
とよみてよのほの*とあくるになく*かへりにけり
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
48
むかしおとこ有けりひむかしの五条わたりに
49
いとしのひていきけりみそかなるところなれは
50
かとよりもえいらてわらはへのふみあけたる
51
ついひちのくつれよりかよひけりひとしけ
52
くもあらねとたひかさなりけれはあるしきヽつ
53
けてそのかよひちに夜ことに人をすへてまも
54
らせけれはいけとえあはてかへりけりさてよめる
55
ひとしれぬわかヽよひちのせきもりは
56
よひ*ことにうちもねなゝむ
57
とよめりけれはいといたくこゝろやみけりある
58
しゆるしてけり二条のきさきにしのひて
59
まいりけるを世のきこえありけれはせうと
60
たちのまもらせたまひけるとそ
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
61
昔おとこありけり女のえうましかりけるをとし
62
をへてよはひわたりけるをからうしてぬすみい
63
てヽいちおくらきにきけりあくた河といふか
64
はをゐていきけれはくさのうへにをきたり
65
けるゆつをかれはなにそとなむおとこにとひ
66
けるゆくさきおほく夜もふけにけれはおに
67
ある所ともしらて神さへいといみしうなりあめも
68
あたうふりけれはあはらなるくらに女ををはおく
69
にをしいれておとこゆみやなくひをおひてと
70
くちにをりはや夜もあけなむと思つヽゐたり
71
けるにおにはやひとくちにくひてけりあなやと
72
いひけれと神なるさはきにえきかさりけりやう*
73
夜もあけゆくに見れはゐてこし女もなし
74
しらたまかなにそと人のとひし時
75
つゆとこたへてきえなましものを
76
これは二条のきさきのいとこの女御の御もとに
77
つかうまつるやうにてゐたまへりけるをかたちのいと
78
めてたくおはしけれはぬすみておひていてたりける
79
を御せうとほちかはのおとヽたらうくにつねの
80
大納言また下らうにて内へまいりたまふに
81
いみしうなく人あるをきヽつけてとかめてとり
82
かへしたまうてけりそれをかくおにとはいふなり
83
けりまたいとわかうてきさきのたヽにおはしける時とかや
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
84
むかしおとこありけり京にありわひてあつ
85
まにいきけるに伊勢おはりのあはひのうみ
86
つらをゆくになみのいとしろうたつを見て
87
いとヽしくすきゆき方のこひしきに
88
うらやましくもかへるなみ哉
89
となむよめりける
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
90
むかしおとこありけり京やすみうかりけむあつ
91
まのかたにゆきてすみ所もとむとてともとする
92
人ひとりふたりしてゆきけりしなのヽくにあさ
93
まのたけにけふりのたつを見て
94
しなのなるあさまのたけにたつけむり
95
をちこちひとの見やはとかめぬ
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
96
むかしおとこありけりそのおとこ身をえうなき
97
ものに思なして京にはあらしあつまの方にす
98
むへきくにもとめにとてゆきけりもとより
99
ともとする人ひとりふたりしていきけりみち
100
しれる人もなくてまとひいきけるみかはのくに
101
やつはしといふ所にいたりぬそこをやつはしと
102
いひけるは水ゆく河のくもてなれははしを
103
やつわたせるによりてなむやつはしとはいひ
104
けるそのさとのほとりの木のかけにおりゐて
105
かれいひくひけりそのさはにかきつはたいと
みてある人のいはくかきつはたといふいつもしを
106
おもしろくさきたりそれをくのかみにすへて
106
たひのこヽろををよめといひけれはよめる
107
から衣きつヽなれにしつましあれは
108
はる*きぬるたひをしそ思
109
とよめりけれはみなひとかれいひのうへにな
110
みたおとしてほとひにけり
111
ゆき*てするかのくにヽいたりぬうつの山に
112
いたりてわかいらむとするみちはいとくらうほ
113
そきにつたかえてはしけりものこヽろほそ
114
くすヽろなるめを見ることヽおもふす行者あ
115
ひたりかヽるみちはいかてかいまするといふを見れ
116
は見し人なりけり京にその人の御もとにとて
117
ふみかきてつく
118
するかなるうつの山へのうつヽにも
119
ゆめにもひとにあはぬなりけり
120
ふしの山を見れはさ月のつこもりに雪い
121
としろうふれり
122
時しらぬ山はふしのねいつとてか
123
かのこまたらに雪のふるらむ
124
その山はこヽにたとへはひえの山をはたち許
125
かさねあけたらむほとしてなりはしほしり
126
のやうになむありける
127
なをゆき*てむさしのくにとしもつふさの
128
くにとの中にいとおほきなる河ありそれを
129
すみた河といふその河のほとりにむれゐて
130
おもひやれはかきりなくとをくもきにけるかな
131
とわひあへるにわたしもりはやふねのれ日も
132
くれぬといふにのりてわたらむとするにみなひと
133
ものわひしくて京におもふ人なきにしもあらす
134
さるおりしもしろきとりのはしとあしとあか
135
きしきのおほきさなる水のうへにあそひつヽ
136
いをヽくふ京には見えぬとりなれはみな人見
137
しらすわたしもりにとひけれはこれなむ宮こ
138
とりといふをきヽて
139
名にしおはヽいさことヽはむ宮ことり
140
わかおもふ人はありやなしやとヽよめり
141
けれはふねこそりてなきにけり
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
142
むかしおとこむさしのくにまてまとひありき
143
けりさてそのくにヽある女をよはひけりちヽは
144
こと人にあはせむといひけるをはヽなむあてなる
145
人に心つけたりけるちヽはなお人にてはヽなむ
146
ふちはらなりけるさてなむあてなる人にとおも
147
ひけるこのむこかねによみてをこせたりけるすむ
148
ところなむいるかのこほりみよしのさとなりける
149
みよしのヽたのむのかりもひたふるに
150
きみのヽたにそよるとなくなる
151
むこかねかへし
152
わか方によるとなくなるみよし野ゝ
153
たのむのかりをいつかわすれむとなむ人の
154
くにゝても猶かゝる事なむやまさりける
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
155
昔おとこあつまへゆきけるにともたちともに
156
みちよりいひをこせける
157
わするなよほとはくもゐになりぬとも
158
そら行月のめくりあふまて
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
159
むかしおとこ有けり人のむすめをぬすみて
160
武蔵野へゐてゆくほとにぬす人なりけれは
161
くにのかみにからめられにけり女をはくさむらの
162
中にをきてにけにけりみちくる人このヽは
163
ぬす人あなりとて火つけむとす女わひて
164
むさしのはけふはなやきそわかくさの
165
つまもこもれり我もこもれりとよみ
166
けるをきヽて女をはとりてともにゐていにけり
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
167
昔武蔵なるおとこ京なる女のもとにきこゆれ
168
はヽつかしきこえねはくるしとかきてうはかき
169
にむさしあふみとかきてをこせてのちをともせす
170
なりにけれは京より女
171
むさしあふみさすかにかけてたのむには
172
とはぬもつらしとふもうるさしとあるを見
173
てなむたへかたき心地しける
174
とへはいふとはねはうらむむさしあふみ
175
かヽるおりにや人はしぬらむ
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
176
むかしおとこみちのくにヽすヽろにゆきいたりに
177
けりそこなる女京の人はめつらかにやおほえけむ
178
せちにおもへる心なむありけるさてその女
179
なか*にこひにしなすはくはこにそ
180
なるへかりけるたまのをはかり
181
うたさへそひなひたりけるさすかにあはれとや
182
おもひけむいきてねにけり夜ふかくいてに
183
けれは女
184
夜もあけはきつにはめなてくたかけの
185
またきになきてせなをやりつる
186
といへるにおとこ京へなむまかるとて
187
くりはらのあれは松の人ならは
188
宮このつとにいさといはましを といへり
189
けれはよろこほひておもひけらしとそいひ
190
をりける
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
191
昔みちのくにてなてうことなき人のめにかよ
192
ひけるにあやしうさやうにてあるへき女ともあら
193
す見えけれは
194
忍山しのひてかよふみちもかな
195
ひとの心のおくも見るへく
196
女かきりなくめてたしとおもへとさるさかなき
197
えひす心を見てはいかヽはせむは
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
198
むかしきのありつねといふ人ありけりみよのみかとに
199
つかうまつりて時にあひけれとのちは世かはり
200
時うつりにけれは世のつねの人のこともあらす人
201
にからは心うつくしうあてはかなることをこのみて
202
ことに人にもにす、あつしくへても猶昔よかり
203
し時の心なから世のつねのこともしらすとしころ
204
あひなれたつめやう*とこはなれてつゐにあま
205
になりてあねのさきたちてなりたるところへ
206
ゆくをおとこまことにむつましき事にこそ
207
なかりけれいまはとゆくをいとあはれと思け
208
れとまつしけれはするわさもなかりけりおもひ
209
わひてねむころにあひかたらひけるともたちの
210
もとにかう*いまはとてまかるをなにこともい
211
さヽかなることもえせてつかはすことヽかきて
212
おくに
213
手をヽりてあひ見しことをかそふれは
214
とおといひつヽよつはへにけり
215
かのともたちこれを見ていとあはれとおもひて
216
よるのものまてをくりてよめる
217
年たにもとおとてよつはへにけるを
218
いくたひきみをたのみきぬらむ
219
かくいひやりたりけれは
220
これやこのあまのは衣むへしこそ
221
きみかみけしとたてまつりけれ
222
よろこひにたへて又
223
秋やくるつゆやまかふとおもふまて
224
あるはなみたのふるにそありける
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
225
としころをとつれたりける人のさくらのさ
226
かりに見にきたりけれはあるし
227
あたなりと名にこそたてれさくら花
228
としにもまれなる人もまちけり
229
返し
230
けふこすはあすは雪とそふりなまし
231
きえすは有とも花と見ましや
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
232
むかしなま心ある女ありけりおとこたかうあり
233
けり女うたよむ人なりけれは心見むとてきく
234
の花のうつろへるをみておとこのもとへやる
235
くれなゐにヽほふはいつらしらゆきの
236
えたもとをヽにふるかとも見ゆ
237
おとこしらすよみによみける
238
くれなゐにヽにほふかうへのしらきくは
239
折ける人のそてかとも見ゆ
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
240
むかしおとこみやつかへしける女のかたにこたち
241
なりける人をあひしりたりけるほともなく
242
かれにけりおなし所なれは女のめには見ゆるもの
243
からおとこはある物かとも思たらす女
244
あまくものよそにも人のなりゆくか
245
さすかにめには見ゆる物から
246
とよめりけれはおとこ返し
247
あまくものよそにのみしてふることは
248
わかゐる山の風はやみなり
249
とよめりけるはまたおとこある人となむいひける
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
250
むかしおとこやまとにある女を見てよはひて
251
あひにけりさてほとへて宮つかへする人なり
252
けれはかへりくるみちにやよひはかりにかえて
253
のもみちのいとおもしろきをヽりて女のもとに
254
みちよりいひやる
255
きみかためたをれるえたははるなから
256
かくこそ秋のもみちしにけれ
257
とてやりたりけれは返事は京にきつきて
258
なむもてきたりける
259
いつのまにうつろふいろのつきぬらむ
260
きみかさとにはゝるなかるへし
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
261
むかしおとこ女いとかしこくおもひかはしてこと
262
心なかりけりさるをいかなる事かありけむい
263
さヽかなることにつけて世中をうしと思いてヽ
264
いなむと思てかヽる哥をなむよみてものに
265
かきつけヽる
266
いてヽいなは心かるしといひやせむ
267
世のありさまを人はしらねは
269
とよみをきていてヽいにけりこの女かくかきを
270
きたるをけしう心をくへきこともおほえぬを
271
なにヽよりてかからむといといたうなきていつ
272
方にもとめゆかむとかとにいてヽと見かう見ヽ
273
けれといつこをはかりともおほえさりけれは
274
かへりいりて
といひてなかめをり
人はいさとひやすらむ玉かつらおもかけにのみいとヽみえつヽ
275
おもふかひなき世なりけりとし月を
276
あたにちきりてわれやすまひし
277
この女いとひさしくありてねむしわひてにや
278
ありけむいひをこせたる
279
いまはとてわするヽくさのたねをたに
280
人の心にまかせすもかな
281
返し
282
わすれ草うふとたにきく物ならは
283
おもひけりとはしりもしなまし
284
又*ありしよりけにいひかはしておとこ
285
わする覧と思心のうたかひに
286
ありしよりけに物そかなしき
287
返し
288
なかそらにたちゐるくものあともなく
289
見のはかなくもなりにける哉
290
とそいひけれとをのか世ヽになりにけれはうとく
291
なりにけり
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
292
むかしはかなくてたえにけるなか猶やわすれ
293
さりけむ女のもとより
294
うきなから人をはえしもわすれねは
295
かつうらみつヽ猶そこひしき
296
といへりけれはされはよといひておとこ
297
あひ見ても心ひとつをかはしまの
298
水のなかれてたえしとそ思
299
とはいひけれとそのよいにけりいにしへゆくさき
300
のことヽもなといひて
301
秋の夜のちよをひと夜になすらへて
302
やちよしねはやあく時のあらむ
303
返し
304
あきの夜のちよをひとよになせりとも
305
ことはのこりてとりやなきなむ
306
いにしへよりもあはれにてかよひける
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
307
昔ゐなかわたらひしける人のことも井のもとに
308
いてヽあしひけるをおとなになりにけれはおとこ
309
も女もはちかはしてありけれとおとこはこの女
310
をこそえめとおもふ女はこのおとこをとおもひ
311
つヽおやのあはすれともきかてなむありけるさて
312
このとなりのおとこのもとよりかくなん
313
つヽゐつの井つヽにかけしまろかたけ
314
すきにけらしもいも見さるまに
315
をむな返し
316
くらへこしふりわけ神もかたすきぬ
317
きみならすしてたれかあくへき
318
なといひ*てつゐにほいのことくあひにけりさて
319
としころふるほとに女おやなくたよりなくなる
320
まヽにもとろもにいふかひなくてあらむやはとて
320
かうちのくにたかやすのこひりにいきかよふ
321
所いてきにけりさりけれとこのもとの女あし
322
とおもへるけしきもなくていたしやりけれは
323
おとこヽと心ありてかヽるにやあらむと思ひうた
324
かひてせんさいのなかにかくれゐてかうちへい
325
ぬるかほにて見れはこの女いとようけさうして
326
うちなかめて
327
風ふけはおきつしらなみたつた山
328
夜はにやきみかひとりこゆらむ
329
とよみけるをきヽてかきりなくかなしと思ひて
330
かうちへもいかすなりにけりまれ*かのたかやす
331
にきてみれははしめこそ心にくヽもつくり
332
けれいまはうちとけてヽつからいゐかひとりて
333
けこのうつはものにもりけるをみて心うかりて
334
いかすなりにけりさりけれはかの女やまとの方を
335
見やりて
336
きみかあたり見つヽをヽらむいこま山
337
雲なかくしそ雨はふるとも
338
といひて見いたすにからうしてやまと人こむと
339
いへりよろこひてまつにたひ*すきぬれは
340
きみこむといひし夜ことにすきぬれは
341
たのまぬものヽこひつヽそぬる
342
といひけれはおとこすますなりにけり
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
343
昔おとこかたゐなかにすみけりおとこ宮つか
344
へしにとてわかれおしみてゆきにけるまに三と
345
せこさりけれはまちわひたりけるにいとねむ
346
ことにいひける人にこよひあはむとちきりたり
347
けるにこのおとこきたりけりこのとあけたまへ
348
とたヽきけれとあけてうたをなむよみていたし
349
たりける
350
あらたまのとしの三とせをまちわひて
351
たヽこよひこそにゐまくらすれ
352
といひいたしたりけれは
353
あつさゆみまゆみつきゆみとしをへて
354
わかせしことにうるはしみせよ
355
といひていなむとしけれは女
356
あつさゆみひけとひかねとむかしより
357
心はきみによりにしものを
358
といひけれとおとこかへりにけり女いとかなしくて
359
しりにたちてをひゆけとえをひつかてし水
310
のある所にふしにけりそこなりけるいはにおよ
361
ひのちしてかきつける
362
あひおもはてかれぬる人をとヽめかね
363
わか身はいまそきえはてぬめる
364
とかきてそこにいたつらになりにけり
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
365
むかしおとこありけりあはしともいはさりける
366
女のさすかなりけるかもとにいひやりける
367
秋のヽにさヽわけしあさのそてよりも
368
あはてぬるよそひちまさりける
369
いろこのみなる女返し
370
見るめなきわか見をうらとしらねはや
371
かれなてあまのあしたゆくヽる
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
372
むかしおとこ五条わたりなりける女をえヽす
373
なりけることヽわひたりける人の返ことに
374
おもほえすそてにみなとのさはくかな
375
もろこしふねのよりし許に
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
376
むかしおとこ女のもとにひとよいきて又もいかす
377
なりにけれは女のてあらふところにぬきすを
378
うちやりてたらひのかけに見えけるをみつから
379
我許物思人は又もあらし
380
とおもへは水のしたにもありけり
381
とよむをかのこさりけるおとこたちきヽて
382
みなくちにわれや見ゆらむかはつさへ
383
水のしたにてもろこゑになく
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
384
むかしいろこのみなりける女いてヽいにけれは
385
なとてかくあふこかたみになりにけむ
386
水もらさしとむすひしものを
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
387
むかし春宮の女御の御方の花の賀にめしあつ
388
けられたりけるに
389
花にあかぬなけきはいつもせしかとも
390
けふのこよひににる時はなし
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
391
むかしおとこはつかなりける女のもとに
392
あふことは玉のをはかりおもえて
393
つらき心のなかく見ゆらむ
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
394
昔宮のうちにてあるこたちのつほねのまへを
395
わたりけるになにのあたにかおもひけむよし
396
やくさはにならむさか見むといふおとこ
397
つみもなき人をうけへはわすれくさ
398
をのかうへにそおふといふなる
399
といふをねたむ女もありけり
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
400
むかしものいひける女にとしころありて
401
いにしへのしつのをたまきくりかへし
402
むかしをいまになすよしもかな
403
といへりけれとなにともおもはすやありけむ
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
404
昔おとこつのくにむはらのこほりにかよひける女こ
405
のたひいきて又はこしと思へるけしきなれはおとこ
406
あしへよりみちくるしほのいやましに
407
きみに心を思ますかな 返し
408
こもり江におもふ心をいかてかは
409
舟さすさほのさしてしるへき
410
ゐなか人の事にてはよしやあしや
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
411
むかしおとこつれなかりける人のもとに
412
いへはえにいはねはむねにさはかれて
413
こヽろひとつになけくころかな
414
おもなくていへるなるへし
天福本
/
千歳本
/
嵯峨本
415
昔心にもあらてたえたる人のもとに
416
たまのをヽあはおによりてむすへれは
417
たえてのヽちもあはむとそ思
418
419
420
421
422
423
424
425
426
427
428
429
430
431
432
433
434
435
436
437
438
439
440
441
442
443
444
445
446
447
448
449
450
451
452
453
454
455
456
457
458
459
460
461
462
463
464
465
466
467
469
470
471
472
473
474
475
476
477
478
479
480
481
482
483
484
485
486
487
488
489
490
491
492
493
494
495
496
497
498
499
400
501
502
503
504
505
506
507
508
509
510
511
512
513
514
515
516
517
518
519
520
521
522
523
524
525
526
527
528
529
530
531
532
533
534
535
536
537
538
539
540
541
542
543
544
545
546
547
548
549
550
551
552
553
554
555
556
557
558
559
560
561
562
563
564
565
566
567
569
570
571
572
573
574
575
576
577
578
579
580
581
582
583
584
585
586
587
588
589
590
591
592
593
594
595
596
597
598
599
600
601
602
603
604
605
606
607
608
609
610
611
612
613
614
615
616
617
618
619
620
621
622
623
624
625
626
627
628
629
630
631
632
633
634
635
636
637
638
639
640
641
642
643
644
645
646
647
648
649
650
651
652
653
654
655
656
657
658
659
660
661
662
663
664
665
666
667
669
670
671
672
673
674
675
676
677
678
679
680
681
682
683
684
685
686
687
688
689
690
691
692
693
694
695
696
697
698
699
600
701
702
703
704
705
706
707
708
709
710
711
712
713
714
715
716
717
718
719
720
721
722
723
724
725
726
727
728
729
730
731
732
733
734
735
736
737
738
739
740
741
742
743
744
745
746
747
748
749
750
751
752
753
754
755
756
757
758
759
760
761
762
763
764
765
766
767
769
770
771
772
773
774
775
776
777
778
779
780
781
782
783
784
785
786
787
788
789
790
791
792
793
794
795
796
797
798
799
800
801
802
803
804
805
806
807
808
809
810
811
812
813
814
815
816
817
818
819
820
821
822
823
824
825
826
827
828
829
830
831
832
833
834
835
836
837
838
839
840
841
842
843
844
845
846
847
848
849
850
851
852
853
854
855
856
857
858
859
860
861
862
863
864
865
866
867
869
870
871
872
873
874
875
876
877
878
879
880
881
882
883
884
885
886
887
888
889
890
891
892
893
894
895
896
897
898
899
900
901
902
903
904
905
906
907
908
909
910
911