天福本千歳本嵯峨本
  1 むかしおとこうゐかうむりしてならの
  2 京かすかの里にしるよししてかりに
  3 いにけりそのさとにいとなまめいたる女
  4 はらからすみけりこのおとこかいまみて
  5 けりおもほえすふるさとにいとはした
  6 なくてありけれは心地まとひにけり
  7 男のきたりけるかりきぬのすそをきりて
  8 うたをかきてやるそのおとこしのふすり
  9 のかりきぬをなむきたりける
 10   かすかのヽわかむらさきのすり衣
 11   しのふのみたれかきりしられす
 12 となむをいつきていひやりけるついて
 13 おもしろき事ともやおもひけん

   (五行相当分余白)



  挿絵−初冠−(略)

 14   みちのくの忍ふもちつりたれゆへに
 15   みたれそめにしわれならなくに
 16 といふうたの心はへなりむかし人はかく
 17 いちはやきみやひをなんしける
天福本千歳本嵯峨本
 18 むかしおとこありけりならの京ははなれ
 19 この京は人のいゑまたさたまらさりける
 20 時に西の京に女ありけりその女世人
 21 にはまされりけりその人かたちよりは心
 22 なむまさりたりけるひとりのみもあらさ
 23 りけらしそれをかのまめおとこうちもの
 24 かたらひてかへりけりいかヽおもひけん
 25 時はやよひのついたち雨そほふるにやり
 26 ける
 27    おきもせすねもせてよるを明しては
 28    春のものとてなかめくらしつ

 (三行相当分余白)

 挿絵−モチーフ不明、順からいえば春の長雨−(略)

天福本千歳本嵯峨本
 29 むかしおとこありけりけさうしける女
 30 のもとにひしきもといふ物をやるとて
 31   思ひあらはむくらの宿にねもしなん
 32   ひしきものにはそてをしつゝも
 33 二条のきさきのまたみかとにもつかう
 34 まつり給はてたゝ人にておはしけるとき
 35 のことなり

 (二行相当分余白)
 挿絵−ひじき藻−(略)

天福本千歳本嵯峨本
 36 むかし東の五条におほきさいの宮お
 37 はしましけるにしのたいにすむひとあり
 38 けりそれをほいにはあらて心さしふかヽり
 39 ける人行とふらひけるをむ月の十
 40 日はかりのほとにほかにかくれにけり
 41 あり所はきけと人のゆきかよふへきところ
 42 にもあらさりけれはなをうしとおもひ
 43 つゝなんありける又のとしのむ月に梅
 44 の花さかりこそをこひていきてたち
 45 てみゐて見ゝれとこそににるへくも
 46 あらすうちなきてあはらなるいたしき
 47 に月のかたふくまてふせりてこそを思ひ
 48 いてゝよめる
 49   月やあらぬ春やむかしのはるならぬ
 50   我身ひとつはもとの身にして
 51 とよみて夜のほの*とあくるに
 52 なく*かへりにけり
 挿絵−月やあらぬ−(略)
天福本千歳本嵯峨本
 53 昔おとこありけりひんかしの五条わたり
 54 にいとしのひていきけりみそかなる
 55 ところなれはかとよりもえいらてわらは
 56 へのふみあけたるついひちのくつれより
 57 かよひけり人しけくもあらねとたひかさ
 58 なりけれはあるしきヽつけてそのかよひ
 59 ちに夜ことに人をすへてまもらせけれは
 60 いけともえあはてかへりたりさてよめる
 61   人しれぬわかかよひちのせきもりは
 62   よひ*ことにうちもねなゝん
 63 とよめりけれはいといたうこゝろやみけ
 64 りあるしゆるしてけり二条のきさきに
 65 しのひてまいりけるを世のきこえあり
 66 けれはせうとたちのまもらせたまひけ
 67 るとそ

 (三行相当分余白)

 挿絵−恋路の関守−(略)

天福本千歳本嵯峨本
 68 昔おとこありけりをんなのえうまし
 69 かりけるを年をへてよはひわたりけるを
 70 からうしてぬすみ出ていとくらきにき
 71 けりあくた河といふかはをゐていきけれ
 72 はくさのうへにをきたりけるつゆをかれ
 73 はなにそとなんおとこにとひける行さ
 74 きおほく夜もふけにけれはおにある所
 75 ともしらてかみさへいといみしうなり
 76 雨もいたうふりけれはあはらなるくらに
 77 女をはおくにをしいれておとこゆみや
 78 なくひをおひてとくちにをりはや夜も
 79 あけなむとおもひつゝゐたりけるにおに
 80 はやひとくちにくひてけりあなやといひ
 81 けれと神なるさはきにえきかさりけり
 82 やう*夜もあけゆくに見れはゐて
 83 こし女もなしあしすりをしてなけとも
 84 かひなし
 85   しら玉かなにそと人のとひしとき
 86   つゆとこたへてきえなましものを
 87 これは二条のきさきのいとこの女御の御
 88 もとにつかうまつるやうにてゐ給へりけ
 89 るをかたちのいとめてたくおはしけれは
 90 ぬすみておひていてたりけるをせう
 91 とほりかはのおとゝたらうくにつねの
 92 大納言また下らうにて内へまいり給ふに
 93 いみしうなくひとあるをきヽつけてとヽ
 94 めてとりかへしたまうてけりそれをかく
 95 おにとはいふ也けりまたいとわかうて
 96 きさきのたゝにおはしけるときとや



(七行分余白)



挿絵−あくた河−(略)

天福本千歳本嵯峨本
 97 むかし男ありけり京にありわひてあ
 98 つまにゆきけるにいせおはりのあはひの
 99 うみつらをゆくになみのいとしろくたつ
100 を見て
101   いとヽしく過行かたの恋しきに
102   うらやましくもかへるなみかな
103 となむよめりける
(二行分余白)

挿絵−かえる浪−(略)

天福本千歳本嵯峨本
104 昔おとこありけり京やすみうかりけん
105 あつまのかたにゆきてすみ所もとむとて
106 ともとする人ひとりふたりしてゆきけり
107 しなのヽくにあさまのたけにけふり
108 のたつを見て
109   しなのなるあさまのたけにたつ煙
110   をちこち人のみやはとかめぬ
(二行分余白)

挿絵−浅間の嶽−(略)

天福本千歳本嵯峨本
111 昔男有けりその男身をえうなき物に思ひ
112 なして京にはあらしあつまのかたにすむ
113 へきくにもとめにとてゆきけりもとより
114 ともとする人ひとりふたりしていきけり
115 みちしれるひともなくてまとひいきけり
116 みかはのくにやつはしといふ所にいたり
117 ぬそこをやつはしといひけるは水行河の
118 くもてなれははしをやつわたせるにより
119 てなむやつはしといひけるそのさはのほ
120 とりの木のかけにおりゐてかれいひくひ
121 けりそのさはにかきつはたいとおもしろ
122 くさきたりそれを見てある人のいはくか
123 きつはたといふいつもしをくのかみにす
124 へてたひの心をよめといひけれはよめる
125   から衣きつゝなれにしつましあれは
126   はる*きぬるたひをしそ思ふ
127 とよめりけれはみな人かれいひのうへに
128 涙おとしてほとひにけり
挿絵−八つ橋−(略)
129 ゆき*てするかのくにゝいたりぬうつの
130 山にいたりてわかいらんとするみちはい
131 とくらうほそきにつたかへてはしけり物
132 心ほそくすヽろなるめを見ることヽ思ふ
133 にす行者あひたりかヽるみちはいかてかいま
134 するといふをみれはみし人なりけり京
135 にその人の御もとにとてふみかきてつく
136   するかなるうつの山へのうつヽにも
137   ゆめにもひとにあはぬなりけり
挿絵−宇津の山辺−(略)
138 ふしの山を見れはさ月のつこもりに
139 雪いとしろうふれり
140   ときしらぬ山はふ士のねいつとてか
141   かのこまたらに雪のふるらん
142 その山はこヽにたとへはひえのやまをは
143 たちはかりかさねあけたらんほとしてなり
144 はしほしろのやうになむありける
(二行分余白)

挿絵−富士の山−(略)

145 猶ゆき*てむさしのくにとしもつふさ
146 のくにとのなかにいとおほきなる河あり
147 それをすみた川といふその川のほとりに
148 むれゐておもひやれはかきりなくとをく
149 もきにけるかなといひあへるにわたしも
150 りはやふねにのれ日もくれぬなといふに
151 のりてわたらんとするにみなひと物わ
152 ひしくて京に思ふ人なきにしもあらす
153 さるおりしもしろき鳥のはしとあしと
154 あかきしきのおほきさなる水のうへに
155 あそひつゝいをヽくふ京にはみえぬとり
156 なれはみな人見しらすわたしもりにとひ
157 けれはこれなん宮こ鳥といふをきゝて
158   名にしおはゝいさことゝはん宮こ鳥
159   わか思ふ人はありやなしやと
160 とよめりけれはふねこそりてなきにけり
(二行分余白)

挿絵−都鳥−(略)

天福本千歳本嵯峨本
161 昔おとこむさしの國まてまとひありき
162 けりさてそのくにゝある女をよはひけり
163 ちゝはこと人にあはせむといひけるを
164 はゝなんあてなるひとに心つけたり
165 けるちゝはなを人にてはヽなむふちはら
166 なりけるさてなむあてなる人にとおもひ
167 けるこのむこかねによみてをこせたり
168 けるすむ所なむいるまのこほりみよし
169 のゝさとなりける
170   みよしのヽたのむのかりもひたふるに
171   君のかたにそよるとなくなる
172 むこかねかへし
173   我かたによるとなくなるみよしのヽ
174   たのむのかりをいつかわすれん
175 となん人のくにヽてもなをかヽる事なむ
176 やまさりける
天福本千歳本嵯峨本
177 むかしおとこあつまへゆきけるにとも
178 たちともにみちよりいひおこせける
179   わするなよほとは雲ゐになりぬとも
180   そら行月のめくりあふまて
天福本千歳本嵯峨本
181 昔おとこありけり人のむすめをぬすみて
182 むさし野へゐてゆくほとにぬす人
183 なりけれはくにのかみにからめられに
184 けり女をはむさむらの中にをきてに
185 けにけりみちくる人この野はむすひとあ
186 なりとて火つけんとすをんなわひて
187   むさし野はけふはなやきそわかくさの
188   つまもこもれり我もこもれり
189 とよみけるをきヽて女をはとりてともに
190 ゐていにけり



(六行分余白)


挿絵−武蔵野−(略)

天福本千歳本嵯峨本
191 昔むさしなるおとこ京なる女のもとに
192 きこゆれははつかしきこえねはくるしと
193 かきてうはかきにむさしあふみととかきて
194 をこせてのちをともせすなりにけれは京
195 よりをんな
196   むさしあふみさすかにかけてたのむには
197   とはぬもつらしとふもうるさし
198 とあるを見てなむたへかたき心地しける
199   とへはいふとはねはうらむむさしあふみ
200   かヽるおりにや人はしぬらん
天福本千歳本嵯峨本
201 むかし男みちのくにヽすヽろに行い
202 たりにけりそこなる女京の人はめつらか
203 にやおほしけんせちにおもへる心なむ
204 ありけるさてかの女
205   中*に恋にしなすは桑子にそ
206   なるへかりける玉のをはかり
207 うたさへそひなひたりけるさすかにあ
208 はれとやおもひけむいきてねにけり夜ふ
209 かくいてにけれは女
210   夜も明はきつにはめなてくたかけの
211   またきになきてせなをやりつる
212 といへるにおとこ京へなむまかるとて
213   くりはらのあれはの松の人ならは
214   宮このつとにいさといはましを
215 といへりけれはよろこほひておもひけら
216 しとそいひをりける
(一行分余白)
挿絵−桑子、家鶏−(略)

天福本千歳本嵯峨本
217 むかしみちのくにヽてなてうことなき人のめ
218 にかよひけるにあやしうさやうにて
219 あるへき女ともあらすみえけれは
220   しのふ山忍てかよふみちもかな
221   人のこヽろのおくも見るへく
222 女かきりなくめてたしと思へとさるさ
223 かなきえひす心を見てはいかヽはせむは
天福本千歳本嵯峨本
224 むかしきのありつねといふひとありけり
225 みよのみかとにつかうまつりてときに
226 あひけれとのちは世かはり時うつりに
227 けれはよのつねの人のこともあらす人から
228 は心うつくしくああてはかなることをこ
229 のみてことに人にもにすまつしくへても
230 なをむかしよかりし時の心なからよの
231 つねのこともしらすとしころあひなれ
232 たるめやう*とこはなれてつゐに
233 あまになりてあねのさきたちてなりたる
234 所へ行をおとこまことにむつまし
235 き事こそなかりけれ今はとゆくをいと
236 あはれと思けれとまつけれはするわ
237 さもなかりけりおもひわひてねんころ
238 にあひかたらひけるともたちのもとに
239 かう*いまはとてまかるをなにこと
240 もいさゝかなることもえせてつかはすこ
241 とヽかきておくに
242   てをおりてあひみしことをかそふれは
243   とおといひつゝよつはへにけり
244 かのともたちこれをみていとあはれと
245 思ひてよるのものまておくりてよめる
246   年たにもとおとてよつはへにけるを
247   いくたひきみをたのみきぬらん
248 かくいひやりけれは
249   これやこのあまのは衣むへしこそ
250   君かみけしとたてまつりけれ
251 よろこひにたへて又
252   秋やくるつゆやまかふと思ふまて
253   あるはなみたのふるにそありける
天福本千歳本嵯峨本
254 としころをとつれさりける人のさくら
255 のさかりにみにきたりけれはあるし
256   あたなると名にこそたてれさくら花
257   としにまれなる人もまちけり
258 返し
259   けふこすはあすは雪とそふりなまし
260   きえすはありとも花とみましや
天福本千歳本嵯峨本
261 むかしなま心ある女ありけり男ちかう有
262 けり女うたよむ人なりけれはこヽろ
263 みむとてきのく花のうつろへるをおりて
264 おとこのもとへやる
265   くれなゐににほふはいつら白雪の
266   えたもとをヽにふるかともみゆ
267 おとこしらすよみによみける
269   紅ににほふかうへのしら菊は
270   おりける人のそてかともみゆ
(一行分余白)
挿絵−白菊−(略)

天福本千歳本嵯峨本
271 むかし男みやつかへしける女のかたにこ
272 たちなりける人をあひしりたりけるほと
273 もなくかれにけりおなし所なれは女の
274 めには見ゆる物からおとこはあるもの
275 かともおもひたらすをんな
276   あまくものよそにも人のなりゆくか
277   さすかにめにはみゆるものから
278 とよめりけれはおとこ返し
279   あま雲のよそにのみしてふることは
280   わかゐる山のかせはやみなり
281 とよめりけるは又おとこある人となんいひける
天福本千歳本嵯峨本
282 むかし男やまとにある女を見てよはひて
283 あひにけりさてほとへて宮つかへする人
284 なりけれはかへりくるみちにやよひはかり
285 にかえてのもみちのいろおもしろきを
286 おりて女のもとにみちよりいひやる
287   君かためたおれるえたははるなから
288   かくこそ秋のもみちしにけれ
289 とてやりけれは返事は京にきつき
290 てなんもてきたりける
291   いつのまにうつろふいろのつきぬ覧
292   きみかさとには春なかるらし

(四行分余白)


挿絵−春の楓−(略)

天福本千歳本嵯峨本
293 むかし男女いとかしこくおもひかはしてこと
294 心なかりけりさるをいかなることかあり
295 けんいさヽかなることにつけてよのなか
296 をうしと思ていてヽいなんと思ひてかヽる
297 うたをなむよみてものにかきつけける
298   いてヽいなは心かるしいひやせむ
299   世のありさまをひとはしらねは
300 とよみをきていてヽいにけりこの女かく
301 かきをきたるをけしう心をくへきことも
302 おほえぬをなにヽよりてかかヽらんと
303 いといたうなきていつかたにもとめゆ
304 かんとかとにいてヽとみかう見ヽけれ
305 といつこをはかりともおほえさりけれは
306 かへりいりて
307   おもふかひなき世なりけりとし月を
308   あたにちきりてわれやすまひし
309 といひてなかめをり
310   ひとはいさおもひやすらんたまかつら
311   おもかけにのみいとヽみえつヽ
312 この女いとひさしくありてねむしわひて
313 にやありけむいひをこせたる
314   今はとてわするヽくさのたねをたに
315   人の心にまかせすもかな
316 かへし
317   わすれくさうふとたにきく物ならは
318   おもひけりとはしりもしなまし
319 又*ありしよりけにいひかはして男
320   わするらんと思心のうたかひに
320   ありしよりけに物そかなしき
321 返し
322   なか空にたちゐる雲のあともなく
323   身のはかなくもなりにけるかな
324 とはいひけれとをのか世ヽになりに
325 けれはうとくなりにけり
天福本千歳本嵯峨本
326 昔はかなくてたえにけるなかなをやわ
327 すれさりけむ女のもとより
328   うきなから人をはえしもわすれねは
329   かつうらみつヽ猶そ恋しき
330 といへりけれはされはよといひておとこ
331   あひ見ては心ひとつをかはしまの
332   水のなかれてたえしとそ思ふ
333 とはいひけれとその夜いにけりいに
334 しへ行さきのことヽもなといひて
335   秋の夜のちよをひとよになすらへて
336   やちよしねはやあくときのあらん
337 返し
338   あきのよのちよを一夜になせりとも
339   ことはのこりてとりやなきなむ
340 いにしへよりもあはれにてなんかよひける

(四行分余白)


挿絵−千夜を一夜に−(略)

天福本千歳本嵯峨本
341 昔ゐなかわたらひしける人のことも井
342 のもとにいてヽあそひけるをおとなに
343 なりにけれはおとこも女もはちかはして
344 ありけれはおとこはこの女をこそえめと
345 思ふ女はこの男をと思ひつヽおやのあは
346 すれともきかてなむありけるさてこのと
347 なりのおとこのもとよりかくなん
348   つヽゐつの井つヽにかけしまろかたけ
349   すきにけらしないもみさるまに
350 返し
351   くらへこしふりわけかみもかたすきぬ
352   きみならすしてたれかあくへき
353 なといひ*てつゐにほいのことく
354 あひにけり

(四行分余白)


挿絵−筒井筒−(略)

355 さてとしころふるほとに女おやなくた
356 よりなくなるまヽにもろともにいふかひ
357 なくてあらんやはとてかうちのくにた
358 かうすのこほりにいきかよふ所いてき
359 にけりさりけれとこのもとの女あしと思
310 へるけしきもなくていたしやりけれは
361 男こと心ありてかヽるやあらむとおもひ
362 うたかひてせむさいのなかにかくれ
363 ゐてかうちへいぬるかほにて見れはこの
364 女いとようけさうしてうちなかめて
365   風ふけはおきつしらなみたつた山
366   よはにやきみかひとりこゆらん
367 とよみけるをきヽてかきりなくかなしと
368 おもひてかうちへもいかすなりにけり

(四行分余白)


挿絵−沖つしら波−(略)

369 まれ*かのたかやすにきてみれははし
370 めこそこヽろにくもつくりけれいまは
371 うちとけれヽつからいゐかひとりてけ
372 このうつは物にもりけるを見て心う
373 かりていかすなりにけりさりけれはかの
374 女やまとのかたを見やりて
375   きみかあたりみつヽをヽらん伊駒山
376   くもなかくしそ雨はふるとも
377 といひてみいたすにからうしてやまと
378 ひとこんといへりよろこひてまつに
379 たひ*過ぬれは
380   君こむといひし夜ことにすきぬれは
381   たのはむものヽこひつヽそふる
382 といひいけれとすますなりにけり

(四行分余白)


挿絵−高安の郡にて−(略)

天福本千歳本嵯峨本
383 むかし男かたゐなかにすみけり男宮つか
384 へしにとてわかれおしみてゆきにける
385 まヽに三とせこさりけれは待わひたりけ
386 るにいとねむことにいひける人にこよひ
387 あはんとちきりたりけるにこの男きた
388 りけりこのとあけたまへとたヽきけれと
389 あけてうたをなんよみていたしたりける
390   あら玉の年の三とせをまちわひて
391   たヽこよひこそにゐまくらすれ
挿絵−梓弓−(略)
392 といひいたしたりけれは
393   あつさ弓まゆみつきゆみとしをへて
394   わかせしことうるはしみせよ
395 といひていなんとしけれは女
396   あつさ弓ひけとひかねとむかしより
397   こヽろはきみによりにし物を
398 といひつれとおとこかへりにけり女いと
399 かなしくてしりにたちてをひゆけと
400 えをひつかてし水のある所にふしに
401 けりそこなりけるいはにおよひのちして
402 かきつけける
403   あひおもはてかけぬる人をとヽめかね
404   わか身はいまそきえはてぬめる
405 とかきてそこにいたつらになりにけり
天福本千歳本嵯峨本
406 昔おとこありけりあはしともいはさり
407 けるをんなのさすかなりけるかもとに
408 いひやりける
409   秋の野にさヽわけしあさの袖よりも
410   あはてぬるよそひちまさりける
411 いろこのみなる女かへし
412   見るめなき我身をうらとしらねはや
413   かれなてあまのあしたゆくくる
天福本千歳本嵯峨本
414 むかし男五条わたりなりける女をえヽす
415 なりけることヽわひたりける人の返事に
416   おもほへす袖にみなとのさはくかな
417   もろこし舟のよりしはかりに
天福本千歳本嵯峨本
418 昔おとこ女のもとにひと夜いきて又もい
419 かすなりにけれは女のてあらふ所に
420 ぬきすをうちやりてたらひのかけに見え
421 けるをみつから
422   われはかり物思ふ人はまたもあらし
423   とおもへは水のしたにもありけり
424 とよむをこさりけるおとこたちきヽて
425   みなくちに我や見ゆらむかはつさへ
426   水のしたにてもろこゑになく
挿絵−水の下−(略)
天福本千歳本嵯峨本
427 昔いろこのみなりける女いてヽいにけれは
428 なとてかくあふこかたみになりにけん
429 水もらさしとむすひしものを
天福本千歳本嵯峨本
430 むかし春宮の女御の御かたのはな賀に
431 めしあつけられたりけるに
432   花にあかぬなけきはいつもせしかとも
433   けふのこよひにヽるときはなし
(二行分余白)

挿絵−花の賀−(略)

天福本千歳本嵯峨本
434 昔おとこはつかなりける女のもとに
435   あふ事はたまのをはかりおもほへす
436   つらき心のなかくみゆらん
天福本千歳本嵯峨本
437 むかし宮のうちにてあるこたちのつ
438 ほねのまへをわたりけるになにのあた
439 にかおもひけんよしやくさはよな
440 らんさかみむといふおとこ
441   つみもなき人をうけへはわすれくさ
442   をのかうへにそおもふといふなる
天福本千歳本嵯峨本
443 むかし物いひける女のとしころありて
444   いにしへのしつのをたまきくり返し
445   むかしをいまになすよしもかな
446 といへりけれとなにとも思はすや有けむ
天福本千歳本嵯峨本
447 むかし男つのくにむはらのこほりにかよ
448 ひける女このたひいきては又はこしと
449 おもへるけしきなれはおとこ
450   あしへよりみちくるしほのいやましに
451   きみにこゝろをおもひますかな
452 返し
453   こもり江に思ふこゝろをいかてかは
454   舟さすさほのさしてしるへき
455 ゐなか人のことにてはよしやあしや
天福本千歳本嵯峨本
456 むかしおとこつれなかりけるひとのもとに
457   いへはへにいはねはむねにさはかれて
458   心ひとつになけくころかな
459 おもなくていへるなるへし
天福本千歳本嵯峨本
460 昔心にもあらてたえたる人のもとに
461   玉のをヽあはをによりてむすへれは
462   たえてのちもあはんとそ思ふ
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