第1章 怒りっぽい隣人 (15)

 リンド夫人は、不幸にもプリンスエドワード島の外で生まれるか育ったかした人は、すべてろくでもないという目で決めつけていた。ナザレから良い人物があらわれるだろうかと疑うように(19)、外から来る人に良い人物なぞいるはずがないと思っていたのだ。もちろん島の外にも善人はいるだろうが、大事をとってよそ者は疑っておくに越したことはない。リンド夫人は、わけても「アメリカ人ヤンキー)」に偏見があった。以前、夫がアメリカのボストンで働いたとき、雇い主に十ドルだまし取られたからだ。だからといって、すべてのアメリカ人にその責任があるわけではないと夫人に納得させるのは、たとえ天使でも君主でも権力者でも無理だった(20)
「新しい子が少々入ったところで、アヴォンリー校がだめになるとは思わないがね」マリラはそっけなかった。「それにポールという子が父親似なら、いい子だろうよ。だってスティーヴン・アーヴィングはこの辺りで育った中じゃ、いちばんいい子だったじゃないか。もっとも、気位が高いという人もいたがね。孫が帰ってくれば、アーヴィングの奥さんは大喜びだ。旦那さんが亡くなって、ずっと独りぼっちだったから」
「まあ、その子はまずまずかもしれないが、アヴォンリーの子どもらとは何かしら違うよ」リンド夫人は、こうして自分で結論づけてしまった。リンド夫人は、どんな人、場所、事柄を評しようと、こうと決めると意見を変えないのだった。(つづく)
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