第1章 怒りっぽい隣人 (3)

 若いジャージー乳牛(4)がとりすました顔をして、家に続く小径をとっとこかけおりてきたかと思うと、五秒ほど遅れてハリソン氏がやってきた。もっとも、「やってきた」などという言い方は、彼が庭にかけこんできたありさまを表すには穏当すぎるかもしれない。
 ハリソン氏は、門の木戸を開けるのももどかしげに、垣根を飛びこえて入ってきた。そして怒りもあらわに、アンの前に立ちはだかった。この乱入に驚いて飛びあがったアンは、いささか困惑しながら、つっ立ったままハリソン氏を見つめた。ハリソン氏は、右どなりに新しく越してきた人物だった。挨拶(あいさつ)したことはなかったが、一、二度、姿は見かけていた。
 四月の初め、まだアンがクィーン学院に行っていた頃、カスバート家の西どなりにいたロバート・ベルさんが農場を売り払い、シャーロットタウンへ引っ越していった。農場は、J・A・ハリソンという人物が買ったということだった。その買い主については、名前と、ニュー・ブランズウィック州(5)から来たということしかわからなかった。しかしアヴォンリーに来てひと月もたたないうちに、変わり者だと評判がたったのだ。「あれは変人ですよ」と、レイチェル・リンド夫人は言った。この夫人をご存じの読者のみなさんは、思ったことをずばずば口にするご婦人だと憶えておいででしょう。たしかにハリソン氏は、他の人とは違っていた。そして周知の通り、人と違っているということこそが、変わり者の変わり者たる所以(ゆえん)なのである。(つづく)
黎次へ 麗戻る
驪目次 戀トップ