第1章 怒りっぽい隣人 (2)

 なるほど、厳しい現実にぶつかれば――これは言っておかなければならないが、アンは現実を直視しなければならなくなるまで滅多に見なかった――アヴォンリーの学校から、名士になるような将来有望な人材が続々と出るなんてことは、ありそうもなかった。しかし、教師がすばらしい影響をおよぼしたら、何が起きるか誰にもわからないのだ。もしうまく教えたら、教師はどんなことがなしとげられるか、アンには薔薇色の理想がいくつもあった。空想は、ちょうど晴れやかな場面の真っ最中だった。今から四十年後、ある有名人が――といっても何で有名なのかは都合よくモヤがかかってはっきりしなかったが、大学総長かカナダの首相だといいなとアンは思った――とにかくそうした人物が、アンの老いて皺(しわ)のよった手にむかって低く腰をかがめ、語るのである。「私の野心に最初に火をともし、意欲をたきつけて下さったのは、先生でした。わが生涯における成功はすべて、遠い昔、アヴォンリーの学校で、先生が一つ一つ手に取るように教えて下さった授業のたまものです」と。しかし、この幸せな夢は、不愉快きわまりない邪魔が入って壊れてしまった。(つづく)
黎次へ 麗戻る
驪目次 戀トップ