序章
1. 緊急時対応
「自己犠牲、50人、最後の防御」
− 不適切な線量測定
− 線量記録の不適切な管理
− 内部被ばく測定の遅れ
− 緊急被ばく限度越え
「被ばく2作業員搬送 足に放射性物質」
− 不適切な呼吸用保護具の使用
− 不適切な保護衣の使用
− 不十分な労働者教育
外部被ばくの低減のために努力する中、次のような問題が生じた。
− 作業時間の管理
− 放射線遮蔽の実用性のある活用
− 十分に準備された作業計画の欠如
−
これら経験と教訓を踏まえ、厚生労働省は、他の原子力発電所において同様の事故が起きた際に被ばくを適切に管理し、線量を低減するために、適切な対策と系統だった備えの必要性を認めた。
「作業員の過労死認定 心筋梗塞の男性」
− 臨時健康診断
− 発電所構内でのトリアージ及び初期治療
− 患者の搬送
− 宿泊施設と食事
− 緊急作業従事者の長期健康管理
これらの教訓を踏まえ、厚生労働省は、同様の事故における医療と健康管理の適切な管理と実施のために、十分な対策と体系立った備えの必要性を認識した。
2. 緊急事態収束後の対応
「作業員の被ばく量上限を引き上げ、国、福島第一で特例」
− 一時的な緊急被ばく限度の引き上げ
− 緊急被ばくと通常被ばくの合算による被ばく管理
− 緊急被ばく限度の100 mSvへの引き下げ
「線量計に鉛板、被ばく隠し 厚労省、法令違反疑い調査」
「作業員被ばく 過小推計か 政府・東電調査に国連委 内部被ばく2割多い可能性」
− 摂取シナリオの選択
− 摂取日の推定
− 短半減期核種からの被ばくの評価
− 内部測定の遅延により検出できなかったヨウ素131の推定
さらに、2014年1月、東京電力は、自社の9人の緊急作業従事者の内部線量が、2013年7月に行われた再評価において定められた標準手法以外の方法で評価されていることが分かった。厚生労働省は、東京電力と元請各社に対して、前回再評価された労働者を除いて、2011年3月から4月に緊急作業に従事した6,245人の全ての内部線量を再評価することを求めた。追加再評価においては、新たな課題の解決が求められた。
3. 除染と復旧作業
「除染講習会に2ヶ月で5000人 首都圏の建設業者ら 教育義務づけで」
2012年4月、日本政府は、従来の警戒区域を、空間線量率に応じて3つの区域に区分した。警戒区域の再編成に伴い、政府は、製造業、営農、病院・福祉の事業、小売業とそれらに関連する保守修繕、運送業務等の事業の再開を認めることにした。このため、厚生労働省では、これら業務に就く労働者の放射線防護のための規制が必要となった。規制の検討における論点は、次の2点に集約された。
− 計画被ばく状況で設定された放射線防護の体系を、現存被ばく状況における建設業や農林業に適用すべきか
− 作業内容の性質に応じ、規制をいかにして簡素化するか
環境省は、2013年度夏から、除染によって除去された汚染土壌と廃棄物の処分を本格化することにした。現状の規制は、大量の放射性廃棄物を取り扱うことは想定しておらず、厚生労働省は、処分業務に就く労働者の放射線防護のため、現行の規制である規則を改正しなければならなかった。この改正では、現存被ばく状況と計画被ばく状況が重なる区域に着目し、それぞれの状況に適用される二つの規則の間の区切りを設定した。
「「国が線量管理を」不安増す除染作業員」
4. 将来のための活動
2012年に行われた緊急作業に従事した労働者の健康診断の結果によると、発電所を所管する富岡労働基準監督署における有所見率は4.21%であり、事故発生前の2010年の0.98%と比較して3.23ポイント上がっていた。厚生労働省は、2010年と2012年の記録は単純に比べられないとした。 2012年の結果を報告した事業場の70%は、2010年の結果を報告した事業場とは異なっていたからである。しかし、厚生労働省は、緊急作業従事者への放射線による健康影響について、包括的な疫学調査を行うことにした。厚生労働省の研究費補助金により研究班が組織され、2014年に先行調査を行い、2015年4月から全面的な調査を始めた。
2015年、日本政府は、今後の原子力緊急事態への備えを確かなものとするため、緊急時の放射線防護と医療・健康管理体制を検討した。緊急被ばく基準の検討にあたっては、国際的な指針との整合を図るとともに、緊急作業従事者の保護と、原子力事故を制御するための危機管理の迅速な実施との間のバランスをとる方法を見いだすことに最大限の努力を尽くした。主要国の緊急被ばく基準が幅広い範囲にばらついているという事実は、緊急被ばく限度を定めるには、社会的な合意が必要であることを示している。厚生労働省は、放射線の健康リスクに対する補償として、緊急作業従事者に生涯に渡る健康管理を提供することや、混乱と無秩序を防ぎ健康リスクの防護水準を向上させるための事前の備えを行うことにより、合意形成を図った。ここから得られた経験から、放射線被ばくの健康リスクの受入れには、科学的根拠だけでなく、利害関係者の幅広い合意が必要であることが明らかとなった。
注記
本書に収録されている各論文で掲載されている情報は、現在入手可能な最新情報とは必ずしも一致しない。これら情報は、それぞれの意思決定が行われた際に参照された、その当時の情報である。例えば、線量分布記録については繰り返し修正が行われているため、各論文で違いがある。
本書の情報開示の方針は、政府事故調査委員会のヒアリング記録の開示方針に準じている
− 東京電力以外の請負企業の法人名
− 民間企業社員の氏名
− 課室長級より低い職位の行政官の氏名
本書と本書に掲載されている論文における見解や結論は、著者個人のものであり、厚生労働省の公式な見解とは必ずしも一致しない。
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