平成16年(ワ)第373号 受動喫煙防止義務懈怠による損害賠償請求事件 原 告 野 田 順 一 被 告 財団法人 日本相撲協会 /// H16年8月12日直送済み 平成16年8月12日 横浜地方裁判所小田原支部民事部 D係 御中 原 告 野 田 順 一 上記当事者間の頭書事件について、原告は次のとおり陳述します。 第1 主張の整理 1 請求原因第2項の主張の要旨は、国技館の管理者であり且つ大相撲興行主である被告は、 次の管理責任があることを一般論として主張しているのである。 1) まず(2)では入場者において興行場法第4条第2項の要件に該当するような行為があったと きは、管理者である被告には管理責任が負わされていることを確認する意味で指摘したのである。 2) (3)の箇所では、健康増進法25条の規定のうえから被告は管理者として受動喫煙防止措置 を講ずべきことが法律の上からも求められていることを指摘している。 3) 同項(4)の主張は、(2)と(3)の主張をまとめ、被告には興行場法4条に定められた公衆衛生の 観点と健康増進法第25条の観点の、その両面から管理責任が求められていることを指摘した主張 部分である。 4) 同項(5)では、被告には、(4)で指摘した両面の管理責任があるので、もし被告において管理責 任の任務懈怠があり、それによって他人に損害を与えた場合には、その任務懈怠は、民法第709条 の不法行為の要件に該当することになるとの法律上の主張をしているのである。 またこの任務懈怠は、同時に、有償双務契約に基づく被告の役務内容についての債務不履行の要件に も該当するとの法律上の主張を併せて行っているのである。なお、この債務不履行責任については、 ここで直接表記している訳ではないが、訴状請求原因第6項(2)、(3) の箇所で、そのことを引用し て主張している。 まず@においては、興行場法第4条第2項の観点から、Aにおいては、健康増進法第25条の観点から、 それぞれ不法行為若しくは債務不履行の要件に該当することとなる具体例を例示的に主張しているので ある。 すなわち、@の主張の例示としては、 ア.喫煙による副流煙には人体に有害な物質が多く含まれていること イ.副流煙に含まれる有害物質には発ガン性もあることが広く知られていること を指摘し、これら喫煙行為による副流煙の弊害は、興行場法第4条第2項で定められた「公衆衛生に害 を及ぼす虞のある行為」に該当することは明らかであるので、そのことを例示的に主張しているのである。 したがって、ここでは原告は、被告が答弁書第2、2(5)の反論で主張しているように副流煙に含まれる 個々の物質が個別具体的に発ガン性を有しているなどとは主張していない。 受動喫煙による弊害は、健康増進法第25条が立法化された経緯と趣旨(甲第4号証)に鑑みても、人の 健康に悪影響を及ぼすことは顕著な事実であり、さらにその曝露は、非喫煙者に身体的、精神的苦痛感を 与えることも顕著な事実であるので、本訴訟においてタバコに含まれる個々の有害物質が科学的に人の健 康に悪影響を及ぼすことまで立証する責任を負う必要はないというべきである。 ところが、被告は、答弁書第2、2(5)の後段の箇所で、副流煙に含まれる個々の有害物質であるニコチンや タールなどを想定してか、「煙草の副流煙に含まれる物質によって、受動喫煙をした人にガンが生じること 等健康に影響があることは科学的に立証されていない。同様の理由から、喫煙行為が公衆衛生に害を及ぼす おそれがあるとは言えない。また科学的立証がない以上、そのことが広く一般に知られているという事実も 存在しない。」などと、原告主張の論旨をすり替えて反論を展開している。 次に、Aにおいては、健康増進法25条の規定のうえからは、受動喫煙措置を講ずべきところ、その防止措置 を故意若しくは過失によって怠ることによって、利用者に副流煙などの被害によって受動喫煙を余儀なくさ せ損害を与えた場合には、それ自体、不法行為若しくは債務不履行の要件に該当するとの主張しているので ある。 本件の場合、原告は、被告が管理者として受動喫煙防止措置を講じないで、つまり管理懈怠によって原告ら入 場者に受動喫煙の被害を生じさせた事実があったと主張(訴状請求原因第6項、(1)、(2) )しているのであ る。なお、この被告の管理懈怠が不法行為の要件若しくは債務不履行の要件に該当するか否かは、本訴訟の 最大の争点となっていることを改めて指摘しておきたい。 なお、このAの主張に対しては、被告は、まだその認否を行っていない。 2 「3 請求原因3の事実及び主張は否認ないし争う」の答弁に対し 1) 被告は、原告主張の請求原因第3項(1)、Bにおける「興行が開始された以降にあっても、チケット保有者が 観戦につき不快感や健康に害を及ぼすことがないよう必要な配慮と措置を講ずべき善管注意義務」の主張と同 項(2)の「大相撲を楽しく支障なく観戦すること請求できる債権契約上の地位」の主張について、極めて曖昧か つ抽象的であり、要するに(それらは)原告の主観的な期待の主張に過ぎず、法的権利義務とは到底言えないと 反論している。 更に、ここで被告が主張(反論)している被告自身の役務内容としては、単に”客に相撲興行を観戦させるという 債務を負担しているだけで、それ以外の債務は一切ない”との立場を取っている。つまり被告は、原告が主張する ような興行法場法4条や健康増進法25条などの法律理念や遵守義務は無関係であり、また私人間の契約関係の 基本原理である民法第1条2項の信義則の精神は、大相撲観戦契約に基づく役務内容には一切含まれていないと の立場をとっているのである。 2) 原告の反論 @ 被告の右反論の中身とその発想は、公益法人としての自覚がないばかりか、被告自身が社会的な存在であるこ との認識と視点が欠落している様子が良く現れている。更に、この自覚の欠如と視点の狂いは、同時に大相撲観戦 のお客に対する配慮の欠如と客のニーズの本質を全く理解していない暴論となっている。 A そもそも、大相撲観戦のお客のニーズの中核は、もともと相撲観戦を主観的に楽しみたいとの期待感が動機と なっていて、高額なチケット代金を支払い入場しているのである。この十分楽しみたいという主観的ニーズがあるか らこそ、より条件の良い席を確保する必要性が生じてくるのである。このように、チケットを有償で確保したお客の ニーズと立場には、相撲観戦は環境条件の良い中で主観的に楽しみたいという期待感(つまり被告に求める役務内容) が当然に含まれており、被告は、客の主観的な期待感を裏切ってはならないというべきである。 よって、この主観的な期待感は、正に法的保護の対象となっているというべきである。 それ故に、有償でチケットを入手した債権者(お客)に対しては、その役務内容に、少なくも相撲観戦に不快感・苦 痛感を伴ったり、或いは人の健康や公衆衛生に悪影響を及ぼす虞となる受動喫煙の被害にさらすことなど、最初から マイナスの要因や弊害があってはならないのは、民法第1条第2項の信義則に照らしてみても当然のことである。原 告が「大相撲を楽しく支障なく観戦すること」を請求できる債権契約上の地位を有すると主張しているのは、正にこ の部分である。 第2 被告の答弁書「第3 被告の反論」に対する原告の認否及び反論 1 「1 事実関係」について 1) 認否について。 認める。 2) 被告の右主張は、原告が受動喫煙の耐え難い被害を受けたと認識した時点で、被告にその申し出を行えば、何 らかの防止策やヘビースモーカーの喫煙者らに喫煙行為の制止措置を取るシステムになっていたとの趣旨で主張し ているのかについて、釈明を求める。 3) 原告の反論 原告は、過去に2度ほど国技館で観戦したことがある。1度は桝席Cで、時々どこからかタバコ臭が漂ってきて不 快感を感じたものの、今回のように耐え難い受動喫煙の被害を受けたとの印象はない。もう一度は招待され土俵際 で観戦したが、その時は周囲に喫煙する者は皆無であった。 原告が今回のように耐え難い受動喫煙の被害を受けたのは初めてである。原告は長時間に渡って受動喫煙の被害 を受けたのであるが、その苦痛を国技館のどの窓口にその苦情を持ち込めばよいのか、予めその情報は知らされて おらず、館内放送も案内書きにも記されていない状態であった。仮にそのような窓口が設置されていたとしても、 被告は土俵際を除く1階の全ての席に灰皿を設置して、喫煙者の喫煙行為を野放図に放置していたので、はじめか ら受動喫煙防止措置を取るなどの対策やお客への配慮、姿勢は毛頭なかったというべきである。 本件訴訟の意義は、このような被告の管理懈怠そのものによって原告が耐え難い受動喫煙の被害を受けたので、 被告の管理のあり方そのものが最大の争点となっているのである。 2 「2 原告の主張の整理」の箇所について 1) 「被告の債務不履行責任の主張」について 大筋では合致しているが、原告の次の主張が一部脱落している。 脱落している部分 「被告の役務内容には、興行場法、健康増進法などの法律遵守義務が内包されていること(ちなみに、これらを遵守 しないことは公序良俗に反する)」との主張部分 2) 原告の釈明事項 原告は、訴状請求原因第3項(2)の箇所で、チケット保有者は、「相撲観戦を楽しく支障なく観戦することを請求で きる債権契約上の地位」を有する旨の主張を行っているが、この「支障なく観戦する」ことの中身について、ここで 釈明しておきたい。 「支障なく観戦する」という意味は、対価を支払い有償でチケットを確保して相撲観戦をする以上、その確保した席は、 最初から意に反して受動喫煙に曝されたり苦痛感や不快感を味わうようなマイナス面の”弊害のおまけ付き”があっ はならないという意味で、支障があってはならないのである。 したがって、大相撲開催場所の国技館において、このようなマイナスの弊害の発生が予め予想されるなら、その管理 主体である被告には、チケット保有者に対して、最低限そのようなことが最初から起こらないよう種々対策を施して配 慮すべき法律上の義務が生じており、他方、チケット保有者は、そのようなマイナス面の弊害の無い環境のもとで相撲 を観戦することができる地位を指して「支障なく観戦する」ことを請求できる債権契約上の地位があることをそこで指 摘しているのである。 なお、この地位について、被告は、チケット購入時において、被告との間で特段の合意が無ければ成立しないとの主 張をしている(答弁書第3被告の反論、3、(1)、(@)の箇所)が、その主張は、明らかに条理に反している。 受動喫煙の被害を受けないで支障なく観戦する地位を求めることは、被告が右主張するような別個独立の特殊な 役務内容と解すべきでなく、信義誠実の基本原理に基づいた双務契約自体から演繹的に導き出される常識の範疇 属する役務内容というべきである。 よって、もしこれが破られ本件のように支障が生じれば、当然権利保護の対象になるというべきである。 3 「3 被告に債務不履行責任がないこと」について (1)、(@)の主張について @ 被告がここで主張している役務内容は、単に「座席を提供し相撲興行を観戦させることだけで、それに尽きる」 と言い放っている。 このような、公益法人としての社会的使命を忘却し、且つ相撲ファンに対するお粗末な基本的姿勢は、社会的な非難 を浴びることはあっても、決して賛同や賞賛を受けるものでないことを指摘しておきたい。 健康増進法第25条が施行されて1年以上経過するも、その改善措置を講じようとしないとしない被告・公益法人自 体の、反社会的とも言える運営のあり方そのものによって本件受動喫煙による原告の被害が発生したのである。 A 相撲観戦につき受動喫煙の防止策を受ける権利は、別個独立の特殊な役務内容ではなく、チケット購入時にお いて、被告との間で特別な合意が無ければ成立しない契約関係ではないことは、前項で主張した(第2、2、 2) 「原 告の釈明事項」の後段部分)とおりである。 (1)、(A)の主張について 被告は、そもそも公益法人としての目的・責務を全く認識しておらず、且つ公益法人は、もともと社会的存在であ ることの自覚・認識に欠けているので、原告の法的主張が理解できないのである。被告の社会的責務については、後 述する。 (1)、(B)の主張について 受動喫煙防止措置問題に対する被告の主張に対する反論 喫煙行為に対する被告の認識は、正に時代錯誤の認識であり、公益法人として国技館という1万1000人規模を 収容する管理者としての社会的責務を全く理解していない暴論である。 今や、不特定多数の人々が集まる施設や場所で喫煙行為をすることは、社会ルールに背くというひとつの社 会常識になっており、文化面でも成熟した立派な社会規範にもなっている。健康増進法第25条が立法化された 法律制度の趣旨・理念は、正にこの社会常識と社会規範に沿ったものである。 被告が(B)の箇所で、同法施行後1年以上経過した現在においてもなお、国技館内での喫煙行為は、社会的に 是認された個人の嗜好の問題で、喫煙行為は自由に許されるとの観点から、被告には管理責任を負わないなどと その主張を堂々と展開し、健康増進法第25条を歪曲した文理解釈は、唖然とするほどの時代錯誤の主張である。 今回の原告が受けた受動喫煙による被害は、被告の右時代錯誤の認識に基づいて、起こるべくして起きたという ほかない。 (1)、(C)の主張について 原告の反論 本件は、安全配慮義務の理論を持ち出すまでもないと思料するが、被告の右答弁では、安全配慮義務は、継続的 関係に限られるなどと主張しているが数時間も同じ席で観戦している中で受動喫煙に曝され続けるのであるから、 そこに継続的関係がないとは言えない。充分な継続的関係がある。 (2)の主張について 原告の反論 被告は、受動喫煙防止措置を図る義務が生じる場合は、チケット購入時に原被告間に特段の合意がある場合に限 られるとの論を展開しているが、チケット購入時に被告との間で特別な合意が無ければ成立しない契約関係では ないことは、既に第2、2、 2) 「原告の釈明事項」の後段部分で主張したとおりである。 (3)の主張について 原告の反論 健康増進法第25条が立法化された趣旨に鑑みれば、喫煙行為による主流煙、副流煙など受動喫煙による被害 ・弊害は、公衆衛生の面からも人の健康に悪影響を及ぼす虞があることは顕著な事実であるところ、被告におい ては、国技館内の全ての桝席に灰皿を設置して喫煙行為を野放図に許す管理運営をしていた結果、桝席のいたる 所から発生するそれら喫煙行為による主流煙、副流煙による受動喫煙による被害・弊害は、十分過ぎるほど興行 場法第4条第2項で定められた「公衆衛生に害を及ぼす虞のある行為」に該当していたことは明らかである。 よって、被告にはそれら喫煙行為を制止させるべき義務があった。被告は、その制止義務を履行しないばかりか 右指摘のとおりニコチン中毒となっている喫煙者らの喫煙行為を野放図に許していたので、その管理行為には故意 若しくは重大な過失がある。 なお、被告には公益法人としてのより責務の重い管理責任があることについては、第3原告の主張のとおり。 (4)の主張について 1) 被告の法的主張、解釈論について、争う。 2) 原告の反論 @ 被告は、健康増進法第25条の規定は罰則が設けられておらず努力義務に過ぎず、且つ同法と私法の趣旨、 目的が異なるので健康増進法25条と被告に対する民事責任とは、元々何ら関連するものではない、などと主張 しているが、それは誤りである。 法律で求められている対策を罰則がないから放置して良いという理屈にはならないし、努力義務規定だから管理 責任との関係で社会規範としての基準にもならないとは言えない。 行政法規が求めている水準や基準が私法関係の判断基準になることは、いくらでもある。例えば、建築技術の最 低限の基準を定めた建築基準法のケースなどにおいても、同法の基準を満たしていない建設工事を巡って、ある工 事が債務不履行に該当するか否かを判断する基準になっている。 本件の場合にあっても同様で、法律が求められている基準を無視した管理運営によって被害が生じた場合には、 行政法規である社会的規範に照らして不法行為責任や債務不履行責任の要件を判断する場合の基準となるべきで ある。そしてこの場合における社会規範の基準時は、法律が施行された時点をもって判断されるべきである 本件の場合は、健康増進法25条の施行後1年以上経過した後も何らの対策を施さなかったという観点においても、 また被告が公益法人という社会的存在であるという観点からみても、被告には明らかに管理懈怠が認められると 裁判所によって判断が下されるべきである。 A 被告は後段において健康増進法の解釈論を展開しているが、その主張は、行政法規だけの枠内を想定して、 それを本件を当てはめ、歪曲した文理解釈を行っているに過ぎないものである。 行政法規の基準が私法関係の権利義務を判断する基準となり得ることは、前号において指摘したとおりである。 4 「被告に不法行為責任がないこと」について 被告に不法行為責任があることについては、訴状のとおり 5 「原告に損害ない」ことについて 原告に損害が発生したことは、訴状のとおり 第3 原告の主張 1 被告の管理責任について 相撲協会には、興行場法第4条第2項に基づく管理責任と健康増進法第25条に基づく受動喫煙防止措置を 講ずべき管理責任は、他の中小などの施設に比べてより重い管理責任が求められていると言うべきである。その 理由は次のとおり。 1) 被告は、公益法人である。つまり社会的な存在である。さらに、被告・財団法人日本相撲協会の事業目的 の中には「相撲道の維持発展と国民の心身の向上を目的と」する旨の崇高な存立目的が掲げられており、中小 の企業とは比較にならない程の社会的責務を負っている立場にある。 2) 相撲という国技は、他の興行主が入る余地がなく、被告(相撲協会)が独占興行している状態で運営管理 がなされている。つまり、観戦者希望者は、受動喫煙が嫌だから他の興行主が行う大相撲観戦を選ぶという選 択肢が無い状態に置かれている。 3) 現在、国技館内においてタバコの主流煙、副流煙による受動喫煙の被害を受けないで観戦できる場所は、 土俵際(砂かぶり)と、2階のイス席しかない。それ以外の1階の全部の席は、喫煙天国となっている。 ところが、土俵際の砂かぶりは、席数が僅かであり相撲茶屋のごく限られた常連客だけが入手でき、一般人が チケットを入手する余地は殆どない。他方、2階のイス席は、土俵から30〜50mも遠く離れ、観戦するには双 眼鏡が必要な程で桝席に比べると臨場感がない。 結局、国技館の桝席全席の中で受動喫煙防止措置を取っている一角はどこにもない。つまり高価な対価を支払 っても、受動喫煙を受けないで観戦したいという選択の余地がなく、非喫煙者は、否応なく一方的に主流煙、副 流煙による受動喫煙被害にさらされる喫煙天国になっているのである。 4) 以上、被告には、一般人以上の公益法人としての社会的責務を担っている立場があり、しかも国技である 大相撲の独占興行主の立場に鑑みれば、遅くも健康増進法第25条が施行された平成15年4月1日以降、受 動喫煙防止措置を直ちに講ずべき管理責任が生じていたというべきである。 2 公益法人としての被告の社会的責務について 1) 被告が答弁書(第3 被告の反論、4,5)の箇所で主張している喫煙行為に対する認識や、健康増進法 第25条が施行され1年以上経った現在でも受動喫煙防止措置を改善しようとしない被告・相撲協会の後ろ向き な姿勢は、そもそも公益法人たる自らの事業目的に照らして、一体どのように整合性を持つと言えるのかについ て、釈明を求めたい。 2) 被告(相撲協会)の設立目的には、「相撲道の発展維持と”国民の心身の向上に寄与することを目的”」 とする旨の崇高な精神が謳われている。ところが、被告は、受動喫煙防止措置を定めた健康増進法第25条 が施行されて1年以上経過した今もなお、桝席での喫煙行為を野放図に放任している結果、桝席の現場では 非喫煙者の求める”汚れていないきれいな空気”を吸う権利が侵害され、主流煙、副流煙による受動喫煙の 被害が桝席のいたる所で発生して、桝席観戦者の健康に害を及ぼす虞のある喫煙行為が、非喫煙者の犠牲の うえで堂々とまかり通っている状況にある。 これら喫煙行為による主流煙、副流煙の防止措置を講じようとしない被告の運営のあり方は、およそ「国民の 心身の向上に寄与することを目的」に掲げる公益法人の社会的責務とは整合性を有しないのみならず、むしろ 崇高な設立(事業)目的とは全く正反対の、社会悪を垂れ流しているに等しい反社会的行為であると評価される べきである。 したがって、右防止措置を講じようとしない被告の管理・運営のあり方は、相撲協会自体の設立(事業)目的 にも反し、公益法人の権利義務の範囲を定めた民法第43条の規定に照らしても妥当性を欠き、その意味で違 法状態となっていると評価されるべきである。 3) 以上指摘したとおり、被告が受動喫煙防止措置を講じないことは、すなわち自らの設立(事業)目的と 自己矛盾をもたらす結果になるのみならず、それは同時に、対内的には相撲協会の理事各位が自分たちの組織 が社会的(公益的)存在であることの自覚と視点が欠落している証左であり、対外的には公益法人が社会悪を垂 れ流していることと同義であることに、いち早く気付くべきある。 その意味で、相撲協会の役員である理事者や横綱審議委員会の責任は重大である。また、横綱審議委員の一 部の委員は、朝青龍が左手で手刀を切る所作を捉えて、「まだ心の部分に問題がある。ボクシングで例えるなら 暫定チャンピオンでしょう」などと的を射ていない非難をしたとの報道が過去にあったが、そのようなナンセ ンスな非難をするまえに、相撲協会自体の存立基盤に悪影響を及ぼしかねない現在の、受動喫煙防止対策につ いての運営のあり方にこそ、的を射た意見の進言をすべきである。 以上 訴状へ戻る 相撲協会(被告)の答弁書に戻る |