もどる<新「西の常識」00/06>次号を読む


特集「大阪変博 第一回」/今月の気ぃわるい物件/大阪のひと/謎のパチンコ台/ペット無人販売/ささ丸マンガ/あとがき


「西の常識」 (ミリオン出版GON!2000年6月号掲載)

(3D-CG by NGD)

何年前だか忘れたが、大阪を「たんつぼ(唾や痰を吐く壷:汚い場所のたとえ)」呼ばわりし、各方面からきついお叱りを受けたはずの政治家が総理大臣にまで登りつめた記念に、我が「西の常識」では、タンツボというより「こえたんご(田畑に肥料として撒く下肥貯蔵用の桶、または小さいコンクリート製プールなどを指す:たんつぼより汚い場所のたとえ)」ではないかともいわれたりもする大阪のエリア特集を組むことにした。

 

■大阪変博 第一回

「天王寺界隈」

さて、大阪は希にみる「変」な都市である。トローリと濃ゆーい「大阪人のエキス」というものが街中にあふれているのである。ヘンな人物、物品もそこかしこに存在し、建築物もキている。いわば大阪では年がら年中「変モノ(者・物・建物)博覧会」が開催されているといっても過言ではない。武士に二言はない。

銀行で、ちょっとまとまった現金を引き出したりすると、それを見ていた関係のまったくないはずの、タコ糸で編まれた買い物カゴをぶらさげてたりするおばはんは決まって「ニイチャン金持ちやねぇ」と口をはさんでくる。こうしたアケスケな人物が多いとされる大阪でも一二を争う、精神が「ムキ出し状態」の方々がしばしば見受けられることが日常的な(あー、かったるい文章!)、アウトサイダーたちの都が「天王寺・あべの」である。第一回「変モノ博覧会(略称『変博(へんぱく)』」ではこの「天王寺・あべの」エリアを特集する。

 

●天王寺・あべの

その名のとおり天王寺界隈は「四天王寺」、通称「天王寺さん」の下で発展してきた、寺社町である。

天王寺はその四天王寺を中心にJR「天王寺駅」から北側の地域を指し、あべのは近鉄「あべの橋駅」から南のエリアを指す。ミナミの繁華街「なんば」と並び、交通ターミナルの要所として、奈良、王寺、和歌山、吉野、古市、河内長野、各方面への玄関口になっている。

付近には前述した四天王寺をはじめとした寺院があり、大阪市立美術館、同市立植物園、天王寺動物園、天王寺公園、さらに慶沢園などの庭園、茶臼山古墳などもエリア内にある。

また近年、NHKの連ドラ「二人っ子」、映画「ビリケン」、巨大なフグ看板の「ずぼらや」などで知られるようになった新世界周辺も、そのシンボルである通天閣とともにディープな下町情緒色濃く残る町、として全国的になっている。 

と観光ガイドには書いてあったりするが、そのつもりで訪れる地方出身者はドギモを抜かれることになる。

天王寺・あべのエリアには大阪の暗部ともいわれている「あいりん地区」、「飛田新地」が、すぐ隣接していることを忘れてはならないのである。

あいりん地区とは「愛隣」と書き、旧「釜ヶ崎」のことであり、「飛田新地」は大正ロマンあふるる風俗、異空間地帯である。風俗関係に強い興味のある良い子たちは本誌増刊「おとこGON!パワーズ4号(99年12月発売)」を参考しましょう。そちらに詳しくルポがあります。ということで、今回「飛田新地」についてはパスします。

 

●土方のまち釜ヶ崎(あいりん地区)

日本最大規模の未組織労働者のまち。住民登録をしない方々も少なくない関係でその数が明らかになったことはなく、またここ数年の不況、労働者の高年齢化で減少傾向にはあるが、現在も約数万人が基本的にはその日暮らしで生活しているという。昭和40年代までは、500円あれば一日暮らせる、ともいわれていたが、バブル前後にインフレが急速に進行し、いまや4〜5000円ないと一日の衣食住は賄えない。何らかのシゴト(現金収入)はあるがドヤ(木賃宿)代が支払えず、やもおえずアオカン(野宿)し、ホームレスしている方々も多い。

余談だが現在、大阪市内の野宿者は約一万数千人余。夜が過ごしやすいこれからの季節に向かい増加傾向にある。その野宿者の数がとびぬけて多いのが天王寺・あべの界隈なのである。

昼間は家族連れでにぎわう天王寺動物園の入場口などは、上空に阪神高速の高架道路があり夜露がしのげるのアオカンの一等地となり、丑三時には大阪のダンボーラー(段ボールで眠るひと)たちのメッカと化すのである。

 

●天王寺公園と青空カラオケ

ひろく市民に親しまれていた公園であったが、いまは有料公園となっている。10年前ここで「天王寺博覧会」という行政主導のイベントが開催されたのを期に、公園は高いアクリル製透明フェンスに囲まれた有料公園となった。こうしていぢわるな行政はフラフラと迷い込む労務者(浮浪者)たちを公園から追い出したのである。

だが現在、彼らは公園の内部からは追い出されたかたちをとってはいるが、しっかり外部から公園へくい込んでいる。それが「青空カラオケ」である。

おりしも取材当日、公園内の市立美術館で「フェルメール展」が開催されていた。しかし、大阪市が世界に誇る文化の殿堂の真ん前では90ホン以上の大音量で「青空カラオケ」が敢行されているのであった。

●あべの界隈

あべのは「なにわの風情」を残す飲食街として知られていた。過去形になったのは、区画整理と名付けられた戦後処理、行政用語でいうと「阿倍野第二種市街地再開発」が終わりに近づき、現在の街並みは映画の「書き割り」と同様、深みのない、表側のみの街並みしかないのだ。過去には串かつ、天麩羅、うなぎ、中華、和食などの名店が軒を並べていた時期もあったのだが、いま残っている店は10年はもたないであろう。かろうじて賑わいをみせている店もあるのだが、今回の取材の感触では、諦念がつのるばかりであった。

 

●残存する「あべの名店」

居酒屋「明治屋」 

酒飲みなら死ぬ前に一度はいっておかないとおはなしにはならない名店。

純喫茶「田園」 往年の純喫茶がどのようなものだったかメニュー、ウェイトレスともども完全に保存されている名店。ちなみに大阪では酒を出さない喫茶店を純喫茶と呼ぶ。

洋食「マルヨシ」路地裏の小さな名店。エスカルゴを大阪ではじめてメニューに出したことでも知られる。

 

おしなべて大阪は重層的な都市といわれている。いや、いたと過去形で述べるべきかもしれない。「天王寺・あべの」を探索してそう思った。特に「あべの」は今すぐ行かないと無くなるので、見物するひとは急ぐべし。

 

■今月の気ぃわるい物件

淀川堤にきれいに揃えて置いてある松葉杖

 

■大阪のひと

「ちょっとまてニイチャン。なんでオレみたいな身障者の写真とんねん。どーゆーつもりや、こぅらぁ、ワッレーッ! なんや、帽子とったらおっさんやないかい。ほんでもなんでワシら撮るねん。なにぃシゴト? あんたプロのカメラマンか? セミ・プロ? プロにセミが付いたらどうなんねん。あ、困っとる困っとる。ジョーダンやがな。ワシ朝からかなり飲んどるからな。スマンスマン。おっさんも飲むか? 酒でええやろ。ジュースか? オーイ、こいつにジュース飲ましたってー! (ややあって、缶コーヒーが来る)。 ここはよう来てるで。週に2度は来るかな。少々の雨でも屋根つけてやりよるからね。ワシあんまり唄はうまいほうとちがうので、歌うのが目的やない。いまはかなり飲んでるけど、ふだん家では飲めへん。ここ来たら顔見知りがおるでしょ。安心するんかなぁ。フェルメール? ここの展覧会に行く? そんなんいつでも行けるやろ。それよりワシのはなし聞け。しょーむない絵ぇみるより勉強になるはずや。ここら(天王寺あたり)に住んでたら、なんぼか人間できてるんや。あんたシゴトうまいこといってんのんか? ヨメハンと仲良うしてるか? ヨメハン年いってもアッチの方は欠かしたらいかん。ワシみたいになったらホンマにツライで。若いモンもワシらみたいなオッチャンらともっと話なさないかん。ココはすごいまちやねんで。ところで写真何枚撮った?えっ、2、3枚てか。もっと撮らんかい。ええ表情撮れたか? 自信あるんか。よし、こんどここへもってこい。だいたいワシおるから。写真、千円でええか?ちゃんと受け取れ! こういうもんは受け取るもんや。何にも知らんやっちゃなぁ。あっ次、ワシの番や。この唄知ってるか? フランク永井や。ワシ大好きなんや」天王寺公園内、青空カラオケ「フレンド」前で出会ったPさん。昭和19年5月15日生まれ。

 

■謎のパチンコ台 発見!

パチンコはわが国では手軽なバクチとして人気を集めている。主筆にはバクチをする根性はないが、ピンボールやスマートボールなどパチンコに類するボールゲーム盤はすきなので、珍しいボールゲームを見つけるとだいたい200円ぐらいは使うのである。さて、パチンコ系のゲームは18世紀英国で盛んだったコリント盤に端を発するというが、そのコリントゲーム盤らしきものを大阪の九条市場で発見した。「グランプリ」「サーカス」「ブラックパンサー」とそれぞれ名付けられた3台のゲーム盤のうち、現役は2台。デザインや雰囲気から60年代後半の遊びモノと推測できる。盤面デザインがほぼ18世紀そのままというブラックパンサーを試したかったのだが残念ながら、料金口がガムテープで塞いであった。上から落ちてくる玉を、連動するバランス板にのせ左にあるチューリップに放り込むというサーカスにはハマった。かなり高等テクニックを要する台であった。また「グランプリ」は何度やってもやり方がよくわからなかった。近所の小学生に聞くと、素人は300円ぐらい突っ込まないと楽しめない台だそうだ。料金一回10円。ただし100円玉も可。

 

■ワシントン条約とかエコロジーとかふかく考えないで読んでみよう?

先日、春の陽気に誘われるまま奈良県の桜の名所吉野山までドライブに行った時のこと。車を降りて桜を見ながらぶらついていると、何やら民家の前にガラスケースの列が。近づいてみるとそこにはアヒル、ウサギ、ハムスターに始まりカメや文鳥、それにあのオオクワガタの幼虫と書かれた瓶までが、特設台のようなものにズラリと並んでいるではないか。しかも驚くことにこれらは無人販売! 代金を入れる木箱がちゃんと取付けられている。それにしてもこんなにバラエティに富んだ“無人ペットショップ”があるとは…、恐るべし吉野山。買った人のためにビニール袋、紙箱も用意されてはいるが、ウサギなんかは1万円なんて値が。ということは木箱に大枚を入れるのか。この金額でありがとうございましたの一言もないのはチト寂しいやん。地元の人にこの商売の情報を聞こうと思ったが誰ひとり通りかからず、もよりの民家に声をかけても無反応。謎は深まるまま帰路についたが、アヒルのエサがなくなっていたのが気がかりだった。

 

■ささ丸マンガ「蛸vsアイアイちゃん」

「ささ丸マンガ館」はこちら

 

あとがき

●久しぶりの「西の常識」いかがでしたでしょうか? 脱力が主眼のページではありますが、3年間というブランクはいかんともしがたく、何かと肩に力のはいったハイテンションなページになってしまった、ような気がしています。えっ、そうは思えないって。

●さらに今後の展開ですが基本的なポリシーはありません。世間に大声で叫ぶべき主張はないのであります。日々、できれば楽に生きていきたい、という程度の希望はありますが。

●さて次号予告であります。次回は、「大阪変博『大阪建物』」「大阪DJ列伝」「大阪のひと数人に聞きました『なんでもランキング!』」「謎の郵便ポスト」などを予定しています(変更もあります)。とにかく刮目して待て!!

●また近い将来、本ページはネット上で展開される予定もあります。過去の「西の常識」はもちろん、取材時のこぼれネタ、などもそちらにアップするつもりでおます。

■主筆:二階堂茂

■協力:NGD、ひらま、上田耕司ささ丸

(3D-CG by NGD)

※なお、たんつぼクンは実在の人物とは、一切関係ありません。


もどる新「西の常識」00/06次号を読む
ご意見はこちらまで