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2000年05月の常識

内容:暗い大阪人座談会/不思議な専門店/大阪の占い/これで儲かるのか/痴漢/ナスに参拝/子大阪シゴト/ささ丸まんが/寝屋川便


「西の常識」 (GON!2000年5月号掲載)

大阪は全国的に誤解されている。いわれなき誤解である。こうした大きな誤解を解くため「西の常識」は、「GON!」創刊時より日夜努力を重ねてきた。しかし、その脱力した編集方針が読者の反感を買い、ついには編集長の決断をうながしてしまい突然の休載を余技なくされたのであった。このたび永き冬眠期間から醒め、再び「GON!」誌面に見開きで4ページも登場することになったのは、ま、ミレニアムで喜ばしいことではある。よろしく。 西の常識主筆。

■「暗い大阪人座談会」

大阪に住まう者たちすべてが大阪弁をしゃべるわけではなく、大阪弁ですごめば即ヤクザでもなく、大阪人2人が話せば漫才になるわけでもない。

大阪には「明るい人々」しか住んでいないと広くちまたなどでは信じられているようだが、恐るべきことに「暗い大阪人」も存在するのである。ところが暗い大阪人捜しは難航を極めた。暗い大阪人は目立たないので、どこにいるのか皆目見当がつかないのだ。いつ何時もハイテンションの大阪では、暗い大阪人がどこにいるのか判らないのだ。こう難航するのなら、いっそ南港に行けば、と一時はくだらぬことを考えたりもした主筆だった。

だがこうした人材に困ったときは新世界なのである。近年、大阪の新世界にはカーニバルプラザというビル内遊園地ができたり松方弘樹がテレビコマーシャルしているナントカいうスパができたりと、ヤングな婦女子も安心して闊歩できる大阪の歓楽街などといってはいるが、通りをはさんだ南には国内最大数の未組織労働者が暮らす「あいりん(旧釜ヶ崎)」もあるし、映画のセットのような「飛田遊廓」も現役で営業している関係で、ある意味では人材の宝庫なのであった。

というわけで今回の座談会は、とある日曜日の昼下がり、新世界近辺で「西の常識」主筆が目をつけ声をかけた3人の暗い大阪人に登場していただくことになった。商店街をぶらついていた主筆は、向こうからハエの大群が群がるがごとく黒っぽいかたまりが3ヶこちらへ移動してくるのを見逃さなかったのであった。あっこれ、あくまで比喩的表現ですからね。

 

●出席者(主席+「トリオ・ザ・ダーク」左から、おとなしいAさん+すこし凶暴なBさん+ワケのわからんCさん)

主筆 えー、それでは始めます

B  なんでっか、これ

主筆 座談会です

B  アー、何がー? 

主筆 みなさんで『暗い大阪人』というテーマでお話していただこうと…

B  アー、誰がぁ?

主筆 いや、みなさんがですね、私が知っているなかでとりわけ暗いというわけではないのですが、先程商店街をなかなか暗い表情で歩いていらっしゃったので声をかけさせていただいたようなわけでして。みなさんそれぞれ誰かに『暗い』っていわれたことないですか?

A  ま、それは、ないことはないけど

B  ……… 

C  あッ、アタマ打ってるから、ワシ

主筆 でしょ? みなさん何となく、暗ら〜い雰囲気をお持ちですよ 

B  お、お、お前、オレをバカにしてんのか。シゴトないのんオレのせいか

主筆 いやいや、暗いといってオタクを責めてるわけではないんですぅ。大阪の人間は『明るい』と全国的に誤解されてるんですぅ。大阪出身だというだけで人前でも平気でなんか『芸』ができるとか、大阪人ならいつでも絶対面白いこというとか。かも大阪には芸人しかいないようにおもわれたりしてるらしいんですわ。大阪は大阪やいうだけで、全国からやみくもに『明るい』と信じられているわけです。町を歩いてたらおわかりだとおもいますが。それって全国的誤解以外のなにものでもないわけで、そのためにもここで大阪人の『暗さ』を表現していただこうとこの席をもうけたわけです。さらに大阪の暗い部分といえば即『ヤクザ・暴力団』とか。イメージが貧困でしょ。こんなん完全に誤解なわけで。大阪の人間でもフツウに暗かったり、ときには明るかったり、暗いひとがおって明るいひとがおって…

A  ところでニイチャン、話まだ続くんか?ワシ酒、注文してええかー

B  はー、腹へった。ワシもハラ減ってるデ

C  アッ、アタマ痛なってきた。ウーッ

主筆 あっ、気がつきませんで。皆さん、どうぞ好きなもん注文してください

A  そうでっか、ワタシら暗いですか。他人からも暗いように見えるんか

C  ………………………………

主筆 まま、ここはひとつ冗談みたいなもんですから、深刻に考えず。飲んで喰ってください。気楽に話してもろたらええんです

B  話したら、ホンマにおごってくれるんか

A  それやったら話ぐらいしても減るもんやなし

C  テッ、鉄工所…

B  メシ注文してもええかい? このあとかい?

A  自己紹介て。ワシらそういうの一等苦手でなあ。そんなんするいうてわかってたら昨日の夜考えてきたのにいきなりいわれてもムリでっせ。殺生ですわ

主筆 まあ、そんなせっぱつまった顔せんと。ご自身の出身地とか生い立ちとかを話してもろたらええんですけどね

B  コゥラ。ワシを年よりのド○タやおもてバカにしてたら承知せんぞ。ワシ、背広2着もってんねんぞ

主筆 誰もそんな話してませんがな。まま落ちついて。オタクらかなり暗ら〜い表情でひとりで歩いてはったんですよ。ま、ここら辺りをニコニコしながら歩いてるひと少ないですけどフツウはみんななんか怒った表情してる場合が多いわけですよ。こんな時代ですからね。なかでオタクらお3人は飛び抜けて表情が暗かったとなんかブラックホールのような、周りの明るい光を吸い込んでるかのように。かなり目立ってたんです 

A  そのなんたらホールてどこのパチンコや

主筆 パチンコやのうて。天文学でいう、虚星というかまぁ、かなりオタクらの雰囲気が暗かったんは事実で…

B  アホか。そら、ワシら金もってないからや。まだワシなんか先週なんとかシゴトあったからドヤで寝てるけど、この先はどうなるかわからんのやけ

A  ワシ、サシミ喰うのひさしぶりや

B  食うたら、みなで風呂いこや

C  ガッ、蒲生四丁目

 

というわけで、見た目だけで見込み違いをしてしまったわけだが、病的な「うつ病」ではないがこうした大阪の暗部というべきところに何十年も生活していると、どこからともなく「暗さ」が身についてしまうというのも事実なのである。

 

 

■不思議な専門店

モノゴコロついてから何十年、いやになるほど大阪の街を徘徊している主筆であるが、大阪のすべてを理解しているわけではない。ということでたびたび知らない大阪を探索するのであるが、そうした場所をうろつくにたびに「妙な気分」におそわれる。 少なからず違和感が発生するのである。結論からいうと、大阪の町はどこもかしこもオカシイのである。それぞれに理由やワケはあるのではあろうが、どいつもこいつもが勝手なことをしているという印象をぬぐい去れない。無法地帯だという極端なことをいう気はないが、グルメ用語でいうとキックが強くディープなのだ。

さて、ふるくから大阪は商都、商いの街として知られている。ということで、市内いたるところにさまざまな商店が存在している。庶民としては喜ぶべきことではあるが、なかに「こんなことで良いのだろうか?」と首をひねらざるを得ない不思議な商いも存在する。ここでは、大阪ならではの珍なる(?)商売を御紹介したい。

 

●耳かき専門店/北区扇町「玉こん」

96年10月の開業いらい、いっとき各種マスコミ取材を受けまくっていたので、大阪より全国で有名かも知れない「耳かき屋さん」何でもありの大阪でも「耳かき屋」という商いは一般的ではなく、世界中くまなく調査したわけでもないので断言はできないが、たぶん世界にも類がないユニークな店かもしれぬ。

単に上手に耳垢をとるというだけではなく、医療用のファイバースコープカメラを使用し、自分の耳のアナの奥の奥の奥、鼓膜まぎわまでビデオ画面に撮してもらいながら、耳カスの掃除をしてくれる、というハイテク風味が評判を呼んだわけだ。

だが熱しやすいが冷めやすい大阪。最近では大阪に「耳かき専門店」があることをご存知ない方もおられると聞く。マスコミを通じて興味をいだくお客さんというものは、大阪弁でいうところの「いちびり(お調子者)」なひとが多いのかも知れない。

ご主人の高橋啓夫さん(55)はもとからの大阪人ではなく、山形県のお生まれ。耳かきの前は大阪府豊中市で学習塾を20年ほど経営していたという。当時からいろいろと商売のアイデアを考えたりするのが趣味で、特許もいくつかは取ったそうだが、残念ながら自分で製品化するほど資金が潤沢にはなかった。あまり金持ちではないのだ。

とはいえ現在の耳かき装置一式(ライト付きファイバースコープ+ビデオ映写装)には640万ほどかかり、さらに8年ほど前に思いついてから、何度も試作をくりかえしているので、一千万以上はつぎ込んでいる勘定になる。 主筆も耳かきしていただいたのであるが、プロだけになかなかの腕前。しかも自分の耳の中を自分の目で見るという経験はなにものにも代え難い貴重な体験。聞くとヤルとでは大きな差がある。情報だけで判断すべきではない。

「テレビとか出たもんで、全国からお客さんが、苦労してウチの店まで来てくれてね。感動します。そんなお客さんに30分でハイ、オワリちゅうわけにはいかねえです。一人に2時間ぐらいかかる時もあります。でも、こうして自分の考えたアイデアが世に出ていくのはうれしいことです。キレイにしたあとのお客さんのよろこぶ顔見てると、この店やってホントに良かったって思います。商売的にはむずかしいですけどね(笑)」と、店主は純朴な笑顔で語るのであった。

当初はお客が1日に7、8人来れば、と計画してはいたそうだが、やはり商売となるとなかなかうまくいかず、大繁盛というわけではないようです。特に悪意あるマスコミ取材では少なからず傷ついたりもしたそうで、特に遠くから来てくれるなじみのお客さんには嫌な思いをさせたと反省したりしている。

来年度には装置をクルマに積み込んでの「移動耳かき屋」を計画中なので、全国に何人いるかわからないが、耳かきファンは刮目して待つべき。ちなみに、店名の「玉こん」は山形名産「玉こんにゃく」のこと。「耳の床屋さん・玉こん」06ー6365ー1057

 

●「鉄道わすれもの店・山腰商店」

世間のワスレモノを低価格で販売する、というのが上本町六丁目の『山腰商店』である。今流行りのいわゆる「リサイクルショップ」ではなく、看板に大きく書いてあるように「忘れもの店」なのである。店長のTさん(47)にお話を伺った。

「同業でこうして店かまえてるのは市内に無いのとちがいますか。ここ(上六)に来てからで10年。その前は西成の萩之茶屋です。親父の代からで三十年になりますか。仕入れは大阪府警の公売です。権利期限切れの忘れ物、落とし物を入札で払い下げるわけです。鉄道わすれ物とはいうてますが、すべて鉄道関係というわけではないです。お客さんは若い人からお年寄りまで年齢性別関係ありません。ブームは過ぎたようですが、Gショック目当ての学生なんかもきます。ブランドバッグとかも低価格で出してますから、女性も来ます。腕時計、カサ、カメラ、指輪などの貴金属からバッグ、衣料、外にある自転車、うちのはすべて忘れ物です」

落とし物も世相を反映するのか、バブル期には、何百万もする金ムクの腕時計もあったという。最近は、めっきり少なくはなったとはいえ超高額の落とし物もある。

「カタログ価格で五百万以上の時計も出ます。それは修理に半年以上かかってたいへんでした。ときどきですが値打ちもんも入ります。今の時計は、電池入れ替えしますからけっこう手間はかかります。でも古いのは修理しがいもあります。クォーツの値打ちは正直なところわかりまへんな時計、貴金属はモノ見てからの一品買いですが、他の雑品は何が出てくるかわからんのです。ひと山なんぼ、というかたちで買い取りますから賭け、バクチです。大量の女性下着があったり(笑)。全部ゴミですわ。それを欲しがる人もいてはるとは思いますがうちでは(笑)。位牌、神棚、骨壷なんかの場合はご供養せんといかんのでさらに経費がかかります。この商売、ゴミと売り物になる商品との選別にかかってます」

入札した金は、財政赤字に悩む大阪府の収入として計上される。人が忘れた価値ある物品、いわば捨てたお金をまた社会に還元するという大事なお商売なのです。「鉄道わすれ物店」山腰商店

 

●老人専門ゲームセンター 北区天神橋六丁目「遊楽園」

男女とも平均寿命ではつねに世界ランカーのわが国ではあるが、じっさいは高齢者にとり住み良い環境をそなえているとはいえない。しかし大阪には「五十歳未満は入場お断り!」というシルバー世代専門を謳ったゲームセンターが存在する。

浪速の風情をたっぷり残す天神橋筋商店街六丁目(通称、天六)に、そのシルバー専用ゲームセンター『遊楽園』はある。

ゲームはみんなで楽しむもの、若者だけのもんではない、というのがここの社長のポリシー。とくに最近は、ゲームイコール若者という固定されたイメージになっていることを憂慮していたという。「電車でGO!」という地味ゲームの登場もタイムリーだった。

約三百平米という店内はスペースがたっぷりとられ、年寄りにはもったいないほどの贅沢な空間である。ゲームセンター特有の耳をつんざくようなデジタル音も少なく、有線の演歌がBGMとして十分聞き取れる。機械の音量もかなり小さめに設定し直している。また、お茶などのドリンク、マッサージ機、老眼鏡など、細かいサービスもある。しかし、高齢者の居心地の良さを追求したあまり、それがジジムサイ若者たちに逆に気に入られてしまったようで、二年前の開店いらい客の半数以上はヤングだという。格闘ゲームや派手なシューティング系ゲームは排除してはいるが、若いお客さんを断るわけにもいかないのだろう。また熟年専門!と大きく表示はしていても興味もって店をのぞき込むお年寄を強引に引っぱり込むわけにはいかない。店員はゲーム指導員も兼ねているのでゲーム初心者にも安心の体勢は整えているのに、お年を召した方たちはおとなしいのである現在は少数派とはいえ開店以来の常連、という熟年ゲーマーも少なくはない。年金暮らしでは、近ごろの賭博性の高くなったパチンコにそうそう通うわけにもいかず、居心地のよい「ゲームセンター」に朝から晩までいつづけるわけだ。ご老人であるから、もうすでに叱る親などいないのである。天六「遊楽園」

 

番外●「ハーモニカ人生」

新世界のJR高架下あたりにいつもいるハーモニカのおっちゃんです。リクエストされた一曲をなんと10円で演奏してくれます。ただし知ってる曲でないとダメ。ほんとうは巨人ファンなのだけれど、最近やっと阪神タイガース応援歌「六甲颪」を憶えたそうなので新世界で見かけたらリクエストしましょう。

 

■大阪占いあれこれ

底なしの不景気。こう先行きが不透明だと将来の不安材料は尽きぬ、というわけでか「開運占い」関係のお商売はおさかんである。

もともと大阪には「神のお告げ」の田中佐和に始まる、パフォーマンスをともなうテレビ的娯楽性の強い占いの系譜がある。「こんなん出ましたけど〜」の尼さんや憑りつかれたようにエレクトーンをひく占い師を記憶するひともいるだろう。

最近の大阪では、金キラのド派手なタイ舞踏衣装で歌い踊りながら占う「エスニック占い」の波羅門(ばらもん)さんがよく知られている。波羅門女史はこうしたパフォーマンス占いの元締め的存在でもありまして、今回ご紹介する「豆腐占い」以外にも、アッと驚く占いを各種とりそろえ、大阪の占い界を脱力の笑いに陥れようとしているのである。

 

●豆腐占い

 

「南〜無、トーフー大明神。トーフの神さん百二歳(10と2で豆腐のシャレ?)、教えてたもれー大明神」やや間があって「キェーイッ!」。気合いもろとも積み上げられた8丁の豆腐の山に顔面をダイブするのは愛祈里(あいり)さんであります。本来なら花も恥じらうお年頃が、顔面豆腐だらけで占いをする。高校を卒業した彼女は就職試験にみごとスベリ。就職情報誌で発見した日本開運総本部の面接を軽い気持ちで受けてしまった。出身が波羅門さんと同じ八尾ということで見事に合格してしまい二年間、姓名判断や方位学を勉強した後『豆腐占い』を98年秋から始めることになった。この豆腐占いをオフザケ占いと受け取るご人も多いとおもうが、彼女で三代目になる大阪では由緒ある占い。もとを正せば奈良時代からあったというやんごとなき占いでもある。もっとも、当時の占い師が割烹着にモンペという昔懐かしいお母ちゃんスタイルで顔面ダイブをしてたわけではない。食べて占うコースもあるので豆腐は東淀川区淡路商店街の決まった店で木綿を購入。豆腐はやわらかいが顔面からダイブするには勢いも必要なのでけっこう体力気力がいる。豆腐が鼻の穴につまったり、目に入ったり、乾くとパリパリになるし、見てるほど楽ではないようですね。でもお肌にはいいと断言する愛祈里さんでした。

日本開運総本部ではこの「豆腐占い」に続き、「腹切り占い」、「コンニャク占い」、「洗濯ばさみ占い」、「たわし占い」、「柔道占い」、「金魚占い」などなど、ワケのわからん占いをとりそろえている(出張も可)。なかには「ボディタッチ占い」、「パフパフ占い」、「くすぐり占い」など、男性にはウフフな占いもありますよ。「日本開運総本部」連絡先は、tel.06・6322・1114まで。

 

■儲かりまっか

●「ラーメンが、たったの100円!」

くどいようだが不景気である。この不況下に、100円玉一個で本格的ラーメンが食えるというのが大阪の西成区潮路にある「大阪飯店」である。

聞くと17年前の開店からずーっと百円。まったく値上げはしていない。これは偉い! 店長の田中久夫さん(47)は「平成の偉人」である。その企業努力には頭がさがってメガネがズレるひとも多い。

「昔のほうがいまよりも、安いというイメージは大きかったとおもいます。いまとちがって物価も全体的に上昇傾向にありましたし、なにしろバブルのかなり前ですから。当時から百円でいけるんかよくいわれました。できるからやってるわけで、何とか17年続けさせてもろてます。どこの店も消費控えでお客さんは少なくなって。うちもその例外ではないですから、この値段がこれから先どうなるかはわかりません」

いまどき、カップ麺でも百円はムリ。しかもプロの料理人がつくるラーメンが百円というのは、いくら、くいだおれの大阪でも尋常なことではない。

「こうして長い間やってますと百円ラーメンもあってあたりまえになってます。今の時代あってあたりまえ、無くなると困るもんが多すぎます。あたりまえに安く食べてもらう、これがうちのできるサービスなんですわ」

ラーメンだけでなく、この店はとにかく安い。メニューの最高額が五百円なのである。

「どんな企業でも価格を下げる、安くする、というのはシビアな原価計算が必要です。その上でせめぎ合うわけです。うちは安くして一品でも多くとってもらうという企みなんです(笑)。まあ、正直なところお金もうけが下手なだけかもしれません(笑)。でも、できるからこそやってるという自負もあります。いま、どんな商売でもそうかも知れませんが、なんもかもギリギリでやってます」

肝心のラーメンは、極細麺にたっぷりのもやしとネギ、それに大きなチャーシューが澄んだツユに浮かぶ、本格の中華そば。食べて、じっさいの値段を推測することは全く不可能な高レベルの味なのでした。

 

 

●ゲーム1回10円/浪速区日本橋5丁目「フェラーリVer.1」

客寄せに10円ゲームのコーナーを設けているゲームセンターはときおり見かけるが、だいたいは古いゲーム機である。ところがここは、店内にある最新ゲームの料金すべてが一回10円なのである。口コミか、土日などは京都や奈良、他府県からのゲーマーもやってくる。こうした非常識ともおもえる「爆烈価格」を設定したのはすぐ一軒南隣りに商売敵がオープンした数年前のこと。立地条件の悪さをさまざまな工夫を経てやっと軌道に乗せた矢先のいやがらせのような事件であった。この、コバンザメ的な名古屋商法(名古屋資本だったらしい)に穏和な社長がキレた。「よっしゃ、なにわのド根性見せたろやないかー!」ということで、採算を度外視した攻めの価格で勝負を挑んだわけである。とはいえ「意地」だけで商売を続けることはできない。それぞれのゲーム機の稼働率を細かく管理分析し、売上の少しでも悪い機械は即入れ替えなど、企業努力はハンパではない。客にしたら新しいゲーム機があり、しかもゲーム代は10分の1。流行らないわけがない。また、客の回転効率を第一とする店内は禁煙、ジュース持ち込み禁止、見学のみはお断りなどの「キビシイ掟」もある。というわけで店内は一般のゲームセンターと異なり雰囲気は明るく空気も良い。「タバコも吸えんし、ジュースも飲めん。安いけど居心地はあんまりええことないわ」などと主張するゲーマーもいるが、バチ当たり発言だとおもう。「フェラーリ Ver・1」浪速区日本橋五丁目

  

■痴漢

痴漢の話です。チカンの。悪かったな痴漢のネタで。大阪は痴漢多いですよ。マジで。しかし、やられる側の女性もタダモノではない。あ、オトコの被害者もいるが、今回は全部女性のハナシなのでゲイのアナタには謝っておくよ。この際。てなわけで始めるぞ。

●その1 ビルの死角編

マユミは大阪駅前のビルに勤めるOLだ。このビルでは、ほぼ毎日チンポをほうりだして通路を駆け抜けるオッサンが出没する。しかも相当チンポが小さいのでマユミはよけいにイライラしていた。そしてついに、その目障りなオッサンを懲らしめる瞬間がマユミに訪れたのであった。ある朝、なんと例のオッサンが同じエレベーターに乗っているではターは満員だ。マユミは自分が降りる階でエレベータをあとにすると、おもむろに振り返り、エレベータの中でなにくわぬ顔をしてたたずむオッサンに叫んだ。「こらオッサン。小さいチンポ放り出して走ってんとちゃうで!見苦しいじゃあ!」そして絶妙のタイミングでドアーは閉まり、オッサンは他の乗客の視線とともに上の階に向かうこととなった。しかし、その時マユミは確認した。自分が指さしたオッサンがまったく面識のない人だったのを。

●その2 公衆電話編

カナコは郊外に住む看護婦だ。いつものように仕事を終え、自宅の最寄り駅の公衆電話で実家の母にカエルコールをしてい気になる。きっと自分が長電話をしていたからだ。これはいかんと思い、いそいで電話をおいて立ち去ろうとした。しかし、男は後を追いかけてくる。カナコ逃げる。男が迫る。よく見ると男はズボンのファスナーに手をかけて追いかけてくる。そしてカナコはついに男に追いつかれ路上で転倒してしまった。このままではダメだ!大声を出して人を呼ばなければ。次の瞬間カナコは力のかぎりにこう叫んだ。「すみませえええええん!電話終わりましたからあああああああ。」わけのわからない絶叫でパニックになった

男はファスナーを上げながら走り去った

●その3 道案内編

カオリはアルバイト中華料理屋のバイトを終え終電で帰宅したある日、あと50mで家にたどりつこうかという場所で気の弱そうな男に声をかけられた。「あのお城北病院はどこですか?」なんとその男はチンポをしごきながら道を訪ねてきたのだ。カオリは何もなかったかのように丁寧に道をおしえて立ち去ろうとしたが、男はよくわからないのでもう一度おしえてくれと言う。カオリはさらに丁寧に地面に地図を書いて教えてやり、背を向けて立ち去ろうとしたその瞬間、男は腹の底から響きわたるような声で「うおおおおお」と叫んだ。その時カオリは、なにくわぬ顔で男にこう言った「もいっかい説明しよか?」

 

■ナスに参拝?「北加賀屋 北加賀屋天満宮」

全国いたるところに天満宮は存在する。何をした人物なのか詳しいことは不明だが、歴史上の偉い人物だという菅原道真さんを奉った神社である。菅原さんはよほど受験で苦労した人らしく、入学試験シーズンになるとせっぱ詰まった受験生やその親、親戚などが列をなしたりしている。総じて天満宮の境内には、「○○大学××学部入学祈願」などマジックで書きなぐられた絵馬がいたるところにぶら下げられていたりする。どうでもよいが、学歴社会からはみ出したドロップアウトの主筆などは避けて通る場所でもある。

さて、大阪市港区北加賀屋にある「北加賀屋天満宮」では「なすび」に参拝する風習があると小耳にはさんだので見てきました。ちゃんとありました巨大な「なすび」が。

ところで、何故にこんなところに巨大なナスがころがっているのか、謎はつきない。で、あたりを見回すと小太りの人の良さそうなおじいさんがいたので聞いてみると当神社宮司のHさん(60)であった。お話によると境内はすべてを35年間かけ自分で工夫しながら造り上げたという。形の良い松や巨石なども、帝塚山などのお屋敷から譲り受け配置したり、地下には水琴沓を埋め込んだり、こりに凝った自慢の境内なのだ。主筆はそういう風に自分でなんでもやるひとには興味がある。ついでにご自宅のお庭(これまた自作)まで拝見してしまったのであった。

ところでなぜにナスビなのか? 答えは「なす」は「何事かを成す」ということで設置したものらしい。単なる「シャレ」なのでした。これが大阪です。実物はなかなか感動的なナスなので、何事かを成したい読者はいちど参拝するようにオススメしたい。

 

■大坂シゴト(看板編)

大阪というと「フグ」や「かに」といった巨大な広告看板や、グリコのネオンが取りざたされることが多い。とりあえず目立とう、目立てば客が集まる、そうすれば儲かる! という高級なコンセプトなのである。

こころざしはわるきはないが肝心の大阪の看板はとてもとても「下手」である。大阪にずーっと住んでいると気がつかないが、特に看板の人物がまずい。映画の看板など出演者が一目で判断つかない場合も少なくはない。というよりダレがダレやらワカラナイのが大阪看板の主流である。恥ずかしながら主筆は青年時代、美術を志す画学生していた関係で、デッサンなどという下積み作業をこなしていた影響でよけいに気になる。その手作業が下手などと書くと、看板職人さんたちにドヤされる可能性もあるが、でも事実なのであった。

上の写真はそうした「下手」な看板あれこれ。左、「アンナ」をダレが演じているのか一目で判別できるのは余程の映画ファン。中、この女性は「ベッド」でナニをしているのだろうか?コワイ夢をみているのか。右、「優作」。これは例外。というか。この手の作業は看板関係と業者もギャラも違うので問題にはならない。ということで正当な手当が支払われるのならば職人さんもガンバルのである。

「大阪シゴト」とは、不当なギャランティーの割に、そのシゴト内容の要求が厳しい、で、テキトウに流さざるを得ないシゴトの総称なのである。

 

■ラビットMの寝屋川便

●『パフィー』

 寝屋川市立第一中学校を卒業したパフィーの由美ちゃんは僕の後輩にあたります。

 学年で3つ僕の方が上なので、残念ながら学舎で同じ空気を吸うことはありませんでした。でも由美ちゃんのお姉さんとは中学高校と同級生だったのです。お姉さんもたいへん美しく、そしてヤンキーでした。ヤンキー美人姉妹って言う響きはマゾヒズムを刺激されていいもんです。由美ちゃんをたれ目にした感じのパンダ顔。僕は、どちらかといえばお姉さんの方がタイプです。

 彼女はとても高貴なお方。関西ローカルTV(「わいわいサタデー」「ざまぁKANKAN」など)の美人コンテストに多数出演し、その美貌をを誇っていました。

 だいたいチョットぐらいカワイイだけじゃこの年頃の子は、嫉妬や自負で頭ん中が蠢いているから「なによ、あの子!」てな具合にいじめに遭うのがオチですが、彼女には他を圧倒するほどの美貌と、不良が持つ暴力的な匂い、この二つの才能を兼ね備えていたので、同級生から「さん」付けで呼ばれるほどの羨望を受けておりました。

 そんな訳で僕のような下僕が、おそれ多くて口をきくなんてことは一度もなかったのです。

 由美ちゃんが芸能界へと進んだのは素晴らしいお姉様に対する憧れとコンプレックスからでしよう。

 

●『上原』

 99年プロ野球を湧かしたのは西武・松坂大輔と巨人・上原浩治の二人でしょう。

 上原は僕のご近所の団地出身です。寝屋川からプロ野球選手誕生、ましてや新人ながら八冠奪取 これは奇跡です。同郷の僕にとっては喜ばしい限りなんですが、ちまたのおばちゃん連中はそうはみておりません。

 それは上原のキャッチコピー「雑草魂」が気にくわんらしいです。どうも「雑草魂」の由来が寝屋川出身から来ているものと勘違いしており、被害妄想的に雑草=スラム街=寝屋川という図式が頭に描かれるようで「そんならナニかい、私ら雑草かい!」とうちのおかんなどは言っております(ちなみに母は阪神ファン)

 それともう一つ。上原の両親が書いた「雑草魂の育て方」(ゴマブックス)。この雑草魂ならぬ両親の“商魂”これも気にくわんららしい。

 上原は明徳小学校時代リトルリーグにも入っておらず、第十中学時代は陸上の三段跳び選手(寝屋川市立の中学には野球部がないため)野球を本格的に始めたのは東海大仰星高校に入ってからとあり、「イチローとこみたいに英才教育してへん!、親はなんも力かしてへん!それやのに、たいそうに本なんか出して、いやらしいわ〜」とツッコんでます。それならあんたも本買うなよと僕の方がツッコミたくなります。

 そんなおばちゃん達のもっぱらの話題は契約金の使いみち。ここらの界隈では「芦屋に豪邸建てるらしいで〜」と言うのがもっぱらの噂です。なんか、芦屋=高級住宅地という貧者が描く金持ちに対するイメージが、いかにもおばさんの噂話ぽくて、浅ましく思えてならないのでした。

 

ささ丸マンガ 「阪神世紀末考」

  

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■西の常識

主筆:二階堂茂

協力:阪神高卒公団(NGD)+ひらま+ラビットM+ささ丸


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