国際社会に対する指針を示す平和憲法 Page.2

2006.03.12

(2)国際民主主義と両立する「平和観」とは

次にアメリカの問題ですが、この問題は根本におきましては、いかなる「平和観」に基づく国際秩序を展望するのかという問題であります。要するに国際民主主義と両立する平和観、平和に関する見方というのは何なのかということであります。実はこれまでの国際関係、国際政治において主流であった考え方は、いわゆる権力政治というものでありまして、要するにそれは私の名前づけでありますけれども、「力による」平和観というものです。要するに力によって平和をもたらす、平和を回復する、平和をもたらすためには武力を使ってもいいのだと、また武力を使わなければ平和は実現できないのだという考え方、これはアメリカが率先して追求している政策であります。

しかし、「力による」平和観は、国家関係の民主化、民主的な国際関係を踏みにじる考え方です。なぜならば、アメリカが気に入らないというだけでイラクを潰してしまう、イランも潰す、北朝鮮も潰す、中国も潰すということになりますから、これは民主的な国際関係とは全く両立しません。要するにアメリカ流の「力による」平和観、今までは権力政治といっていますけれども、そういう考え方は国際民主主義とは両立しない考え方であります。

それでは国際民主主義と両立する平和観というのは何かというと、「力によらない」平和観、脱権力政治の考え方だと私は思います。この「力によらない」平和観を前面に押し出しているのが我が平和憲法、日本国憲法であります。どのようなもめごとが国際関係において起ころうとも、絶対に武力に訴えることはしない、平和的に紛争を解決するということであり、相手の国の主権、独立を尊重し、国家関係は大も小も対等平等であるということを認める立場、これが「力によらない」平和観から出てくる考え方でありますし、それはまさに国際民主主義そのものに通じる考え方ということになります。

(3)平和憲法の先駆性・今日的説得力

私が申し上げたいのは、平和憲法の先駆性、今日的説得力を皆さんに確信を持っていただきたいということであります。国内のレベルだけではなく、国際のレベルでも人権民主主義が実現されなければならないこと、権力政治からの根本的な変換が求められていることを明確にしたのが平和憲法の前文であり、第九条であるということを理解しておいていただきたいと思います。

つけ加えておきたいのは、何ゆえに日本国憲法はこれほど徹底した「力によらない」平和観の立場を打ち出したのかということであります。それは冒頭に述べましたように、憲法の歴史的な位置づけにかかわってきます。侵略戦争を二度と繰り返さないという不戦の誓い、そして核時代において戦争が人類を絶滅に追い込む危険性を持つに至ったことに対する歴史的な認識があるからこそ第九条があるということであり、またそれがゆえに核時代の今日において、憲法、特に第九条は国際社会に対する道しるべとしての輝かしい性格を持っているということであります。

このような核時代の平和憲法という位置づけは、私の頭の想像の産物ではありません。すでに1946年3月27日、当時の保守政治家の指導者である幣原喜重郎氏が、次のような発言をしています。(参照※1)

その大要は、今日われわれは戦争放棄の宣言を掲げる大きな旗をかざして国際政治、政局の非常に広漠とした野原を単独で進み行くのであるけれども、世界は早晩、戦争の惨禍に目を覚まし、結局私たちと同じ旗をかざしてはるか後方についてくる時代が現れるでありましょう、というものです。

こういうことをすでに幣原は1946年の時点で言っています。しかも彼は保守政治家であります。ということは、核時代における平和憲法という意義を幣原が早くも認識していたということです。このような認識は、敗戦直後の2、3年間は広く認識されていたことであるということを、私は最近色々な文献の中に見出しております。たとえば、1947年8月6日に広島で記念式典が行われたときに、当時の広島市長の浜井信三という人も同じような認識を平和宣言の中で示しております。

私たちは、平和憲法の国際的な指導力、影響力ということを考える場合に、単に戦争をしてはならないということだけではなくて、やはり核時代におけるからこそ、人類破滅をもたらす戦争はもうしてはいけないのだという認識に裏付けられているということ、それがゆえに今日的な説得力を増しているのだということを認識する必要があるのではないかと考えます。

2.アメリカの世界戦略のつまずきと平和憲法

(1)ブッシュ政権の先制攻撃戦略

次に、アメリカの世界戦略との関係で平和憲法をどのように見るのかという問題をお話ししたいと思います。

私たちはブッシュ政権の先制攻撃戦略という非常に重大な問題に直面しています。先ほども少し触れましたように、イラクに対して正当な理由もなく戦争を仕掛けた。これは国連憲章が定めた戦争禁止の規定に違反する重大な国際法違反の政策であります。これについてブッシュ政権における先制攻撃戦略があり(参照※2)、その後、イラク戦争は皆さんもよくご承知のように非常な行き詰まり、泥沼の中に入っています。そしてその結果、ブッシュ政権が数年前まで鼻息荒く推し進めてきた先制攻撃戦略そのものが、大きな挫折に見舞われようとする状況になっております。

イラク占領統治は行き詰っています。ブッシュ大統領に対するアメリカ国内の支持率もすでに30%台にまで落ち込んでいます。30%台というのはどういう意味を持つかといいますと、ベトナム戦争のときにアメリカの大統領だったのがジョンソンという人ですが、そのジョンソン大統領が2期目を目指して動いていたのですが、彼が進めていたベトナム戦争に対する国内の批判の高まりによって支持率を低下させた、そのときの数字が30%台後半ということで、その結果ジョンソン大統領は2期目を目指すことを断念することに追い込まれたということがあります。それぐらいにこの30数%台の支持率ということは、アメリカ政治において深刻な意味を持っている。ブッシュ大統領はレイム・ダック、要するにもう動きがとれない政権といわれているはそのゆえであります。しかもアメリカ経済の先行きは予断を許さない。しかもこの前のハリケーンのように、内政上のいろいろな矛盾も噴出しているということで、この先制攻撃戦略は非常に大きなつまずきに直面しているということです。

ブッシュ政権は北朝鮮、中国に対しても先制攻撃戦略による戦争を行うことを考えています。(参照※3)そのために、在日米軍の再編強化の計画が進行するという関係になるわけでありますけれども、この問題に入る前に、朝鮮、中国問題について若干触れておきたいと思います。

ブッシュ政権の政策は、北朝鮮、中国に対しても行き詰まってきております。たとえば北朝鮮に関しましては、イラクで深刻な泥沼に陥っているため、6者会談という北京での会談によって外交的に問題を解決するしかない状況に追い込まれており、先制攻撃戦略を発動する余地は失われていますし、中国問題についても、中国を潜在的には最大の脅威とみなしてはいますけれども、中国と事を荒立てるわけにはいかないということで、最近のブッシュの訪中に見られるように、外交によって関係を修復するという動きが進んでいます。いずれにしてもこの先制攻撃戦略を北朝鮮、中国に対して発動するということは、かなり非現実的な話になってきているということであります。そういう中で在日米軍再編計画だけが進んでいる。

(2)「力による」平和観の飽くなき追及
(イ)在外米軍再編計画の本質

在日米軍再編計画というのは、「力による」平和観、権力政治の飽くことのない追求の例であります。これはどういうことかといえば、あらゆる事態を想定して戦争シナリオを考えなければ気がすまない、そういうアメリカの意図と、アジアを軽蔑する、そしてアジア蔑視に基づいて対中国、対北朝鮮敵視政策をやろうとしている日本との狙いが合致した、その産物であると位置づけることができます。そして、日本がアメリカと一緒になって戦争できる国にならなければ、この在日米軍再編計画の意味は失われます。したがって日本を戦争する国にするためには憲法九条を変えなければならないということになるわけで、これが今の改憲を目指す動きの原動力になっているものと位置づけることが出来ます。もちろんアメリカは、早い時代から憲法九条を邪魔者扱いにしてきましたし、あるいは自民党自身も1955年の結党以来、改憲を常に掲げてきた政党でありますけれども、そういう彼らが今、アメリカの先制攻撃戦略に日本を組み込むというためにも憲法九条の改悪をしなければならない状況になっているというのが今日の状況であると考えておいていただきたいと思います。

なぜ日本の在日米軍基地を再編強化しなければならないのかといいますと、やはりアジア太平洋地域の東端に位置する日本というのは、アメリカにとって太平洋という壁を乗り越える非常に重要な前進基地という位置づけであります。その中でも沖縄は中国に近いということで、アメリカは絶対に沖縄の基地を手放そうとしません。

(ロ)米軍再編「中間報告」

この前(2005年)10月29日に発表されました米軍再編のいわゆる「中間報告」についてその危険な内容を確認しておきたいと思います。一つは今度の報告によって、日米軍事同盟がもはやアジア太平洋、極東だけではなく、世界をにらんだ日米軍事同盟になるということが明確に記されました。日米同盟に基づいた緊密、かつ強力な関係は世界における事態に効果的に対処する上で重要な役割を果たしていると明言しています。そしてさらに、世界安全保障環境の変化に応じて同盟が発展しなければならないと書いています。日米軍事同盟は世界をにらんだ同盟であるということを明確に指摘しています。

それから2番目に重要なポイントは、対中国、対北朝鮮軍事同盟としての性格の強調であります。その点については時間がありませんので詳しく立ち入ることができません。

それから3番目のポイントは、日本全土が米軍の基地になるということであります。皆様は、あるいは米軍の再編強化は金沢には関係がないことだと思われているかもしれません。しかしそうではないのであります。「中間報告」によれば

「日米の検討作業は、空港及び港湾を含む日本の施設を自衛隊及び米軍が使用するための基礎が強化された日本の有事法制を反映するものとなる」

ちょっとわかりにくい文章ですけれども、さらに次のようなことが書いてあります。

「一般及び自衛隊の飛行場及び港湾の詳細な調査を実施し、2国間演習プログラムを強化することを通じて検討作業を確認する」。

要するに、自衛隊の基地だけではなく、一般の空港、港湾も、アメリカが必要だといえば基地にするということなのです。皆さんの周りの港湾だって空港だって、いつ何時米軍基地にさせられるかわからないということがここではっきり書かれているということです。そのように考えますと、今度の「中間報告」なるものによって、いよいよ日本全土をアメリカの基地にする、日米共同で使用する全土基地にするという方針が明確にされたということを私たちは見ておかなければならないと思います。

そうであるからこそ私たちは、在日米軍基地再編問題をそれぞれの移転先の個々の地域的な問題として考えるのではなく、本当に日本の独立と自立が確保できるのかということを考えなければいけない。本当にぎりぎりの段階にきているということを、私としては皆さんに考えていただきたいし、したがって今や個々の基地について受け入れを反対するというような視点に留まっていたのでは、とてもではないけれども権力に対抗できない。むしろ、すべての基地問題についてこれを全面的に拒否するという考え方、国民的な課題として根本的に見直すという視点を持つ必要があると思う。そのときに根本の問題にあるのは、日米軍事同盟があるからそういうことになるということであって、したがって私たちは今回の基地問題を基地問題そのものに矮小化するのではなくて、日米軍事同盟は果たして日本にとって必要なものなのか、そういう観点で見なければいけないと思うし、結論的には日本国憲法の立場、「力によらない」平和観ということを前面に押し出し、この機会にアメリカとの軍事同盟を解消するということを根本に据えた取り組みを行っていく必要があると思います。そのことがとりもなおさず日本国憲法を生かす道につながってくるということを皆さんに考えていただきたいと思います。

(3)平和憲法の先駆性・今日的説得力

最後に、平和憲法の先駆性・今日的説得力について、私が考えていることをお話しします。日本が「力によらない」平和観を根本に据えた外交をする、平和憲法を根底に据えた外交をするという毅然とした決意をするということは、アメリカの「力による」平和観、あるいは権力政治に対して真っ向から対抗する有力な軸を国際的に提供するという意味があります。皆さんはあまり楽しく受け止められないかもしれませんが、日本はアメリカに次ぐ世界第二の経済大国であり、その大国である日本が「力によらない」平和観を根底に据えた外交を展開すれば、私は国際社会のすごい共感と支持を引き寄せることができるし、またそのことがアメリカの「力による」平和観、権力政治に対する非常に大きな牽制力、批判力として働く可能性が客観的にできているということを強調したいのです。ですから、私たち主権者が日本を私たちの手に取り戻すこと、そしてそれに基づいて日本国憲法を生かし切ることが私たちが国際社会に対して果たし得る最大の貢献にもなるということを申し上げたいと思います。

時間の関係でいろいろ端折りましたけれども、結論的に日本国憲法は決して古臭いものではなくて、国際民主主義の立場に立てば、さらに日本国憲法の輝きが増してくるということを申し上げて結びに変えさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

※1 1946年3月27日の幣原喜重郎の発言

「斯くの如き憲法の規定(第9条)は、現在世界各国いずれの憲法にもその例を見ないのでありまして、今尚原子爆弾その他強力なる武器に関する研究が依然続行せられておる今日において、戦争を放棄するということは、夢の理想であると考える人があるかもしれませぬ。併し、将来学術の進歩発達によりまして、原子爆弾の幾十倍、幾百倍にも当る、破壊的新兵器の発見せられないことを何人が保障することができましょう。若し左様なものが発見せられたる暁におきましては、・・・短時間に交戦国の大小都市は悉く灰燼に帰し、数百万の住民は一朝皆殺しになることも想像せられます。今日われわれは戦争放棄の宣言を掲げる大きな旗をかざして国際政治、政局の非常に広漠とした野原を単独で進み行くのでありますけれども、世界は早晩、戦争の惨禍に目を覚まし、結局私たちと同じ旗をかざしてはるか後方についてくる時代が現れるでありましょう。」

※ 2 9.11事件以後の新しい脅威認識:先制攻撃正当化材料

  • * 新しい脅威認識と不可分の「ごろつき国家」論とイラクの標的化
  • * 「イラク後」における「圧政国家」論と「民主化による国際秩序再編」構想への「発展」

※ 3 朝鮮問題

ブッシュ政権の朝鮮半島政策=ネオコン的発想(レジーム・チェインジ)

中国問題

脅威の一番手

  • ◇ 台湾問題
  • ◇ ミサイル防衛における日米協力と先制攻撃戦略

←前のページへ

RSS