室堂から奥大日岳往復

 この時期に立山に入ると、ひときわ白く目を引くのが大日連峰だ。その一角である奥大日岳をスキーで往復することにした。


日時  2001年5月4(金)

行先  室堂から室堂乗越、奥大日岳往復

日程と記録

  9:00 雷鳥荘出発 --- 9:05 称名川 --- 9:35 2390mピーク --- 9:40 室堂乗越 --- 12:00 奥大日岳 12:15 --- 14:30 称名川 15:30 --- 16:00 雷鳥荘

 昨夜1時頃立山駅に到着し、駐車スペースを探してテントを張り、2時頃に寝袋に入った身としては、5時起きはつらいものがあったが、その甲斐あって6時10分発という割と早い便のチケットを手に入れることが出来た。ただ今回は家族旅行を兼ねており、あまり混雑に対する危機感のないカミさんや子供達の準備が手間取ってこれに遅れてしまった。朝からいきなり冷や汗をかいたが、なんとか一便遅い6時20分のケーブルカーに乗せてもらい、美女平での高原バスの乗り継ぎも比較的スムーズで、室堂に着いたのは7時30分頃だった。

 昨日は荒れ模様の天気だったようだが、今日はドピーカンの素晴らしい天気。予定を一日ずらして入山した甲斐があった。高原道路の途中で鍬崎山が雲海の上に浮かんでいるのが見えたが、下界は相変わらずの曇りなのだろう。ここは別世界だ。

 雪道に慣れない子供の手を引き、幼児を背負ったカミさんが滑って転ばないか気遣いながら、今日の宿である雷鳥荘に向かう。一面真っ白の室堂平は強烈な春のエネルギーを感じさせた。朝の慌ただしさの中でサングラスを車に忘れてきたことが悔やまれた。

 宿でチェックインを済ます。早速2段ベッドのあるこぢんまりした部屋に案内され、子供たちは大はしゃぎ。そこはうちの家族だけで、子供が泣いたり騒いだりしても他の客の迷惑にならないのが有り難かった。部屋番号は無かったので、本来は従業員用の部屋かも知れない。しばらくくつろいでから地獄谷の散策などに出掛けるというカミさんにトランシーバを一つ預ける。

 雷鳥荘の前に掛かったTバーリフトを利用してスキーやボードに興じる若者を尻目に、私は一人いい具合に雪がゆるみかけたその斜面を一気に滑り、ロッジ立山連峰脇を抜けて浄土川の右岸に降り立った。ここでスキーをザックに着け、ツボ足で2390mピークへの斜面を直登する。

 あまり雪面がまぶしくてゴーグルをつけるが、大汗をかいていて眼鏡がすぐに曇ってしまうので、結局額に上げておくことにした。上部はかなりの傾斜になった。しかし高度差は150mあまりで、ほどなくピークに到着。息を整えるとスキーを履いて室堂乗越まで滑る。途中で帽子を飛ばされてしまい、少し戻る羽目になったが、このときゴーグルをいつのまにか失っていることに気づいた。

 尾根筋はおおむね急斜面で狭く、下山してくる登山者が、スキーを担いだ私がどこを滑るのかいぶかしがっていた。「山頂には山岳救助隊の人たちが居たので、危険な行為は止められるかも知れませんよ。気を付けてください。」と言ってくれた人もいた。

 2430mピークから向こうの鞍部へ滑る。2511mピークからは少し痩せており、スキーを担いだまま下り、2611mのピークの南面を巻いて奥大日岳2605mに到着した。まぶしすぎるからか頭痛がしている。

 雪庇の踏み抜きが怖いのであまり北側に寄れないが、剣がこれまであまり拝まなかったアングルでそそり立っている。厳めしさよりも2等辺3角形の端正な姿だ。南側に目をやると称名川に切れ落ちた側壁の鋭さが見事だ。写真を数枚撮るが、5枚ほど撮ったところでカメラが壊れてフィルムが巻かなくなってしまった。

 それにしてもこれから降りようとするルートを眺めると脚がすくんでくる。南斜面は下ほど急になっており迂闊に高度を下げられそうにない。とりあえずは登りのトラバースルートを忠実にたどるのが良さそうだ。その後もしばらくは横滑りで下るべきだろう。雪質が比較的素直なのが救いだが。

 しばらくくつろいで脚に力が戻るとスキーを履いた。だが胸の動悸が収まらない。ゆっくりと斜滑降を始める。狭すぎる夏道は避けて這松帯を隔てた西側を横滑りするが、斜度は幾分急だ。鞍部近くになって夏道沿いが少し広くなっており4〜5回のターンで降りることが出来た。

 2511mピークまでスキーを担ぎ、南側の斜面が比較的広くて斜度が緩いのでここを滑って高度を下げ、鞍部までトラバースする。

 2430mピークまでまた担ぎだ。ゆっくり休憩して、ここも登りのルートに沿って南側を滑る。室堂乗越からスキーを担いで、2390mピークまでゴーグルが落ちていないか探しながら登るが、結局何も見つけることは出来なかった。

 いよいよ称名川に向かって広い雪面の滑降だ。ここは結構急だがライン取りは自由に出来そうだ。一つ一つ慎重にターンを繰り返す。5センチ程の深さに弱層があるのか、足下で切った雪が次々にゆっくり流れてゆく。その落ちてゆく雪との競争となった。数十回のターンで谷の底に着く。そのスピードの余力で対岸の途中まで登り、スキーが止まったところにザックをおろして一息ついた。今自分が滑った斜面からザーッという音が相変わらず続いている。いくつかのターンの跡からの雪崩が一定のスピードで落ちながらシュプールの形を崩してゆくのが眺められた。しばらくすると雪崩は突然ぴたりと止まって、それとともに深い静寂がやってきた。

 その切った雪が足元で崩れてゆく感触が面白かったので、カミさんにトランシーバで帰りを一時間程遅らせることを伝えて、ザックをそこに置いたまま再び斜面を登り返して滑った。期待どおりの滑り心地だったが、脚がずいぶんヨレているのに気付いた。今日はもう十分だ。

 2度目の雪崩の音を聞きながら、稜線ではついに飲む気にならなかった缶ビールを空けて、今日のツアーに乾杯した。


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