ワンダーフォーゲル部夏合宿


 私の勤務する高校のワンゲルの夏合宿。初心者に相応しい山域としてアルペンルートで行ける立山連峰を選んだが、生徒の希望で剣岳にも登ることになった。岩登り的な要素が加わるので実は若干不安だったが・・・。


日程

8月1日(火)

8:15兵庫出発 === 15:15立山駅 === 17:50室堂−−19:00雷鳥平

 渋滞と高原バスの待ち合わせで3時間遅れで室堂に着く。小雨が降る中を雷鳥平に移動。

8月2日(水)

7:00雷鳥平出発−−8:45一の越9:05−−10:40雄山11:15−−13:00真砂岳13:30−−15:10剣沢幕営地

 雷鳥平の幕営地から一の越に向かうルートを偵察する。地形図によると前方の尾根を手前から登るようであるが、あまり利用されていないのか、そこへ行くトレースが判然としない。特に浄土川の渡渉ポイントがどこなのかが問題だったが、室堂側から張り出した壁の下に積もったスノーブリッジを渡るしかないように思われた。生徒を連れていることもあり、見込みで危険な行動をするわけにはいかなかったが、他にルートは考えられず結局ここを通過した。まず間違いはなかっただろう。

 尾根の登りははじめのうちブッシュが深く陰鬱だったが、やがて明るく乾いた道となり、雄山側の斜面をへつるように登って、一の越直前で室堂からのルートと合流した。

 朝のうちは晴れていたが、一ノ越ではガス、雄山では土砂降りとなった。社務所で雨宿りを兼ねて行動食を取り、雨具を着て真砂岳に向かう。

 1年生の生徒は重荷に耐えかねて度々休憩を要求する。富士の折立を少し降りたところで遥か向こうに見える別山を目指して行かなければいけないことを知ると、ついに「駄目です。もう体力の限界です。」と言ってふらつきはじめた。仕方がないので、雨が小止みになったのを幸いに真砂岳で大休止を取り、温かいスープとオープンサンドで腹を満たす。

 だがそうこうするうちに再び雨が降りだし、風がいろんな物を吹き飛ばしはじめた。そしてついに雷まで鳴り出したのである。あわててパッキングし、別山に向かって高度を下げる。稜線近くにいる間にも、何度かすぐ横の方で雷鳴が轟き、その標的になるのではないかと気が気ではなかった。ただ心なしか生徒の足どりが軽くなったように感じられた。別山を巻き分岐点から剣沢へ下降する。面白いことに、立山の方から始まった雷鳴は、別山尾根を経由して剣岳まで順次轟きながら旋回してゆくのに気がついた。これはこだまのせいなのであろうか?剣沢までの中間地点あたりで一瞬霧が晴れて剣岳が幻想的に浮かび上がるのが見えた。

 剣沢では早々にテントを張り、明日に備えて早く休むことにした。

8月3日(木)

4:30剣沢−−5:00剣山荘−−5:30一服剣−−6:12前剣−−8:05剣岳8:40−−9:55前剣−−10:50一服剣−−11:20剣山荘−−12:00剣沢14:00−−14:40剣御前小屋−−16:10雷鳥平


 剣岳の混雑を避けるため3時に起き、早々に食事を済ませて4時半にテント出発した。美しい朝だ。剣山荘あたりでは朝日があたって金色に輝く山々が美しかった。

 昨日重荷にあえいでいた生徒もデイパックで往復する今日の登山は比較的楽そうだ。それに毎日筋力トレーニングをしているという彼の腕力は岩場での安定した動きにつながっている。ほぼ予定したタイム通りに一服剣・前剣とルートを進め、8時ごろ剣岳の頂上に到着した。ただ時々去来していた霧が、頂上付近に達したときにはほとんど視界を奪うようになっていた。

 生徒の要望にこたえて30分ばかり休憩したが、時々前剣が見えるくらいで、霧がすっかり晴れることはなかった。

 眺望は断念して下山にかかる。このルートの難所であるカニのタテバイやヨコバイにはしっかりした鎖がついており、あまり不安を感じることはなかった。剣岳のルートは大体においてホールドがしっかりしており気持ちの良い登下降が楽しめる。

 剣沢に着くとグレープフルーツと桃のの缶詰を食べ、ラーメンを作って腹ごしらえをした。テントを撤収し再び重荷を担ぐ。生徒の体調は良く、剣御前の小屋を通過したのは出発してわずか35分後のことで、またそこから雷鳥沢への下りも予定よりも大幅に早く、70分で到着した。ここでも周囲の山々はガスがかかっている。しかし立山に当たった夕陽がガスの切れ間から覗くのが美しい。

 ひととき私は持参したウクレレの演奏に興ずる。マーチンバックパッカーというスリムなモデルである。こうした登山の携帯に最適の楽器だろう。少なくともギターよりは。

 夕食後は生徒とポーカーを楽しんだ。

8月4日(金)

6:40雷鳥平−−7:10地獄谷−−8:10天狗平 === 9:50立山駅 === 10:25称名滝 === 18:00兵庫着

 ゆっくり起きてテントを撤収する。パッキングしてウクレレをザックサイドに付けようとしていると、隣のテントの白髪混じりの男性が「夕べ弾いておられたのはこれですか」と言いながら寄ってこられた。ギターだと思ってたらウクレレだったので驚いたとのこと。「いい音がしますね」と言ってくれた。

 地獄谷を経由して天狗平に向かう。生徒はガス中毒を極端に恐れていたが、朝日に輝く噴気が美しい。

 道は大きく迂回し、谷を隔てて眼前に見える天狗平がまた遠ざかって行く。そして再び天狗平の小屋が近づいてくると、あたりは一面のお花畑になった。今年は雪解けが遅かったのか、チングルマも花盛りだ。イワイチョウはまだ開花していないがつやつやとした葉が美しい。背後に剣岳が頭を覗かせ、のどかな高原風景がそこにあった。下山するには惜しいような日であった。


ホームページに戻る

[ホーム\登山\CG\絵画\徒然\プロフィール\カミさん\リンク\メール]