早池峰山登山

 岩手県に出張する機会があったので、その週末に早池峰山に登ってきた。11月の早池峰はすでに冬だった。


日時  平成12年11月17日(土)〜18日(日)

行先  岩手県大迫町、岳から小田越経由、早池峰山登頂、正面ルートを河原の坊へ下山

日程と記録

17日(土)アプローチ

17:30大迫町 === 18:30 岳 --- 20:00 うすゆき山荘(泊)22:00就寝

 心細い入山だった。雪が舞う真っ暗な岳部落でバスを降りたときには、運転手が心配して民宿への宿泊を勧めてくれた。しかしバスを見送った私はやはり今夜の宿泊予定地であるうすゆき山荘に向けてとぼとぼと歩を進めていたのだった。ヘッドライトもツェルトもある。小屋にたどり着けなくてもどこでだって眠れるだろう。ただ雪はすでに5〜10cmくらい積もっており、今シーズン最初の冬山に向かう緊張感はいや増しに高まっていった。特に今回は単独行なのだ。

 花巻駅で仕事モードから山モードに切り替えるのに手間取ってしまい、ちょうど良い列車に乗れなかったのだが、大迫発14時過ぎのバスならばこんなに遅くならなかっただろう。ここは日に3本程度のバスしかないのだ。後で知ったことだが、冬期は少なくとも1時間に1本程度の便がある北側の門馬から登るのが一般的らしい。また私は下山後遠野を訪れたのだが、遠野市の上附馬牛から薬師岳をこえてアプローチするのも趣があって良かっただろう。が、しかし今回はこのルートを選んでしまったのだ。おかげで時間調整のために立ち寄った石鳥谷の酒作り資料館や大迫山岳博物館でのいい出会いや思い出も出来たが。

 うすゆき山荘はきれいな小屋だった。ストーブがおいてあり、室内は心なしか暖かいような気がした。内部はゆったりしており、30人くらい宿泊できるだろう。外にはトイレが設置されている。花巻で買い求めた地酒をあおりながら夜が更けてゆくのを楽しむ。

18日(日)早池峰山往復

5:00 起床 朝食 7:05 出発 --- 7:35 河原の坊 --- 8:25 小田越 8:50 --- 9:25 標識56(森林限界) --- 9:30 一合目 --- 10:14 三合目 --- 10:37 五合目(強風) 11:20 --- 12:40 頂上 13:07 --- 14:15 御座走り --- 15:34 河原の坊 --- 15:50 うすゆき山荘 16:10 --- 17:25 岳 17:54バス乗車 === 18:20 大迫 21:00 山岳博物館前で幕営就寝

 積雪8cm程度、空には薄青い部分も感じられるが、山腹より上は雲の中だ。小田越に向けて林道を歩き始めるとすぐに水場があった。そうとは知らず、昨夜小屋までの途中で少々危険を冒して川に降りて水筒を満たしたが、その必要がなかったらしい。

 河原の坊で正面ルートを見上げるが、やはり上部はガスっていて早池峰の全貌はつかめない。小田越で小休止し行動食をとったらかなり風が強くて体が冷えきってしまった。ここから山道に入る。

 五合目まで順調に高度を稼ぐ。しかしここは吹きっさらしで体を飛ばされそうになった。それに指や頬が凍傷にやられそうだ。やむをえず少し引き返して、岩陰で行動食や水分をとったりしながらしばらく風の息を伺う。

 少し風が穏やかになったように感じられたので半分匍匐前進のような進み方で出発した。しかししばらく進むと風の威力もそれほどではなくなった。地形の関係で五合目あたりが最も風の集中するところなのかもしれない。これも後で知ったことだが、小田越ルートは冬季は強風のためにあまり利用されないルートであるようだ。そういえばあたりの岩にはエビのシッポがしっかり発達しており、すっかり冬の装いである。

 早池峰は岩の山である。鎖場やハシゴもあり、ルートは岩登り混じりだ。優しげな山名とは裏腹に厳しい姿を見せる山である。心地良い緊張感を持続させながら登っていった。

 山頂は霧の中で寒々としていた。眺望はまったくない。幽玄の趣をもって浮かび上がる岩をいくつか巡り、山名を書いた標注を背後にして記念写真を撮る。ここもエビのシッポがびっしりだ。そして頂上小屋まで戻ってきたときにちょうど門馬から来た一人の登山者が到着した。しばらく話した後、早池峰の登山指導員をしているという彼に勧めに従って、下山はルートの短い正面ルートをたどることにした。

 はじめのうちはやや急な傾斜だったが、15分も下ると少しましになった。やがて河原の坊から登ってくる一人の登山者とすれ違った。65歳は越えていると思われる老人だったが矍鑠として力強い登りだ。彼はアイゼンをつけておらず、このルートがそんなに険しいものではないことが伺えた。私もそろそろアイゼンが邪魔に感じられるようになってきたところだった。それにしてもこんなシーズンの山で2人も登山者に出会うとは、世の中には物好きが多いものだ。

 河原の坊に到着すると既に陽はだいぶ傾きかけていた。陽光は岳樺の尾根を暖かく照らし出しているが、相変わらず早池峰の全貌は伺えない。明日も休暇を取ってはいるのだが、はたしてうすゆき山荘に留まって明日再挑戦すれば今日よりいい結果が得られるだろうか・・・。

 後ろ髪を引かれる気がしたが、結局下山を決める。しかし岳に着いたときにはすっかり日が暮れてしまっていた。最終のバスにはなんとか間に合ったが、まだ6時30分だというのにターミナルである大迫から石鳥谷までのバスが無く、結局この町で足止めを食ってしまった。オーストリアの山小屋を模した山岳博物館前の広場をテン場に選んだが、ここは町中とはいえ丘の上にあってアルペンムードもあり、少なくともほかの場所よりは登山者に対してフレンドリーな場所であるような気がした。ツェルトの細引きを結んだ樹間の幕営地は落ち葉のクッションが心地よく、トイレも近くにあって快適な一夜を与えてくれたのだった。

 明日は柳田国男の著書から興味を抱いていた遠野に足を延ばし、ザシキワラシや河童・オシラサマ・オクナイサマなどの伝説を肌で感じたいものだ。そして早めに神戸に戻ることにする。


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