楠正・辻󠄀谷将明・松本哲夫・和田武夫:応用実験計画法

作成日 : 2024-12-24
最終更新日:

概要

「まえがき」から引用する。

(前略)本書は効率の良い実験を計画し,得られたデータを正しく解析する方法を提供するものである.(後略)

感想

要再読である。特に、共分散分析や計数値データに関する実験計画法に関しては、 永田靖:入門実験計画法で紹介されていることもあり、再度読んでみたい。

私のように頭が弱い者にとっては難しい。

「第1章 実験計画法の基礎」にある p.13 以降の「1.3.3 計数値による統計的推測」では、p.14 で[母不良率の検定:二項分布の直接計算]や、[母不良率に関する推測:二項分布の正規分布近似」などの話題がある。 本書では[母不良率の検定]ということばであるが、他の文献では「母比率の検定」と呼ばれているようだ。 もっとも本書の p.12 では、 なお,ここで不良率と表現したが,ここで扱う手法は良品対不良品の問題に限定されず,一般の 2 分類データにおける何らかの事象の発生率に適用してよい.とある。

ムダがない

本書の p.187 以降でときどきムダがないという言い方が出てくる。気になったので少し調べてみた。以下 pp.185-186 まで引用する。

繰返しのない 2 元配置実験のデータの構造は,(中略)一般平均 `mu` と要因効果を表す母数 `alpha_i, beta_j` および誤差 `e_(ij)` の 1 次式

`y_(ij) = mu + alpha_i + beta_j + e_(ij), e_(ij) ~ N(0, sigma^2)`
(6.1.1)
となる。また,データ `y_i` が実験条件を表す連続変数 `x_i` と直線関係にある場合には,`y_i, x_i` を一次式
`y_i = beta_0 + beta_1x_1 + e_i, e_i ~ N(0, sigma^2)`
(6.1.2)
で書くこともある.これは,回帰モデルと呼ばれ(中略)る.(中略)

(6.1.1),(6.1.2) は一般に

`y_i = x_(0i)theta_0 + x_(1i)theta_1 + cdots + x_(pi)theta_p + e_i`
(6.1.3)
と書ける.これを線形モデルと呼ぶ.(中略)

(6.1.1) において,3 × 2 の繰返しのない 2元配置のデータの構造は,

`{(y_(11)=mu,+alpha_1,,,+beta_1,,+e_(11)),(y_(12)=mu,+alpha_1,,,,+beta_2,+e_(12)),(y_(21)=mu,,+alpha_2,,+beta_1,,+e_(21)), (y_(21)=mu,,+alpha_2,,,+beta_2,+e_(22)),(y_(31)=mu,,,+alpha_3,+beta_1,,+e_(31)),(y_(32)=mu,,,+alpha_3,,+beta_2,+e_(32)):}`
(6.1.4)
となる.これは,(6.1.3) において,`p = 5` とし,母数 `mu, alpha_1, alpha_2, alpha_3, beta_1, beta_2` をそれぞれ `theta_0, theta_1, theta_2, cdots, theta_5` とみなし, その係数を `x_(0i), x_(1i), x_(2i), cdots, x_(5i)` とした
`{(y_(11)=x_(01)theta_0,+x_(11)theta_1,+x_(21)theta_2,+x_(31)theta_3,+x_(41)theta_4,+x_(51)theta_5+e_1), (y_(12)=x_(02)theta_0,+x_(12)theta_1,+x_(22)theta_2,+x_(32)theta_3,+x_(42)theta_4,+x_(52)theta_5+e_2), (y_(21)=x_(01)theta_0,+x_(13)theta_1,+x_(23)theta_2,+x_(33)theta_3,+x_(43)theta_4,+x_(53)theta_5+e_3), (y_(21)=x_(04)theta_0,+x_(14)theta_1,+x_(24)theta_2,+x_(34)theta_3,+x_(45)theta_4,+x_(54)theta_5+e_4), (y_(31)=x_(01)theta_0,+x_(15)theta_1,+x_(25)theta_2,+x_(35)theta_3,+x_(45)theta_4,+x_(55)theta_5+e_5), (y_(32)=x_(06)theta_0,+x_(16)theta_1,+x_(26)theta_2,+x_(36)theta_3,+x_(46)theta_4,+x_(56)theta_5+e_6):}`
(6.1.5)
に対応する.

ところが,(6.1.4)と(6.1.5)を比べると,(6.1.5)の係数 `x_(1i), cdots, x_(5i)` の間には,

`{ (x_(1i)+x_(2i)+x_(3i)=1, i=1"," 2"," cdots"," 6 ), (x_(4i)+x_(5i)=1, i=1"," 2"," cdots"," 6 ):}`
(6.1.6)
の関係(1次従属)がある.分散分析における母数に関する制約
`alpha_1 + alpha_2 + alpha_3=0, \quad beta_1 + beta_2 = 0`
(6.1.7)
を用い,
`alpha_3 = -alpha_1 - alpha_2, \quad beta_1 = -beta_2`
を(6.1.4) に代入すると,
`{(y_(11)=mu,+alpha_1,,+beta_1,,+e_(11)),(y_(12)=mu,+alpha_1,,,-beta_1,+e_(12)),(y_(21)=mu,,+alpha_2,+beta_1,,+e_(21)), (y_(21)=mu,,+alpha_2,,-beta_1,+e_(22)),(y_(31)=mu,-alpha_1,-alpha_2,+beta_1,,+e_(31)),(y_(32)=mu,-alpha_1,-alpha_2,,-beta_1,+e_(32)):}`
(6.1.4)
と書き換えられる.(中略)

一般に,(6.1.3)の線形モデルにおいて,`x_(1i),x_(2i),cdots, x_(p i)` が 1 次独立な場合を,母数 `theta_0, theta_1, cdots, theta_p` にムダがないという.

ムダがない、の意味がわかった。またこの方法で、「情報量統計学」にあった分散分析モデルの計算方法も分かった気がする。

例題 6.6 を解いてみよう。次の表 6.20 のデータで解いてみる。

表 6.20 要因の割付けとデータ
ABCD`y_i`
1111`y_1 = 32`
1122`y_2 = 23`
1212`y_3 = 19`
1221`y_4 = 17`
2112`y_5 = 19`
2121`y_6 = 20`
2211欠測
2222`y_8 = 8`

データの構造は p.207 の (6.4.15) の通りである。これを引用する。

`y = mu +- alpha +- beta +- gamma +- delta + e, \quad e ~ N(0, sigma^2)`

デザイン行列は p.207 の 表 6.21 にある。これを転記する。

表 6.21 デザイン行列
`mu``alpha``beta``gamma``delta`≒1
11111`y_1 = 32`
111-1-1`y_2 = 23`
11-11-1`y_3 = 19`
11-1-11`y_4 = 17`
1-111-1`y_5 = 19`
1-11-11`y_6 = 20`
1-1-1-1-1`y_8 = 8`

本書ではこの表から正規方程式を経由して `mu` などを求めているが、私は `QR` 分解を使って求めてみることにした。

`S_e` =
`[mu, alpha, beta, gamma, delta]`=[]

これらの値は、本書の `hat mu = 460//24, hat alpha = 86//24, hat beta = 104//24, hat gamma = 52//24, hat delta = 46 //24` や、 `S_e = 4.333` と誤差を除いて合致する。よかった。

誤植

p.16 で (1.3.21) 式と (1.3.22) 式のあいだにある文に、これに運続修正(Yates の修正)を施すととあるが、正しくは、 《これに連続修正(Yates の修正)を施すと》だろう。

p.122 上から 1 行目、ダグチメソッドとあるが、正しくは、《タグチメソッド》だろう。

p.205 下から 11 行目 で`A` の主果は高度に有意である.とあるが、正しくは、 《`A` の主効果は高度に有意である.》だろう。

数式表現

数式はASCIIMathML を使っている。

書誌情報

書名 応用実験計画法
著者 楠正・辻󠄀谷将明・松本哲夫・和田武夫
発行日 1995 年 9 月 13 日 第1刷
発行元 日科技連出版社
定価 4563 円(税別)
サイズ A5 版
ISBN 4-8171-0381-7
NDC
備考 川口市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi