森毅:線型代数

2026-02-27

概要

副題は「生態と意味」。

本書は、 1980 年 11 月 10 日、日本評論社より刊行された。という記述が本書終わりにある。

感想

要再読である。

pp.007-008 にある、旧制高校の学生の進路に関する、次のさわりは本書を読んだ時からずっと頭の片隅に残っていた。

だいたいは,カタギで物を作るのが好きな奴が工学部,本を読むのが好きな奴が理学部,山川草木の好きな奴が農学部,人間の好きな奴が医学部に行く傾向があったと思う.

この最後の一節の人間の好きな奴が…という句が何とも好きだ。 私が高校生だった時、クラスの何人かは医学部や歯学部に進んだが、そいつらがみんな人間の好きな奴だったのかどうかと考えることがある。 確かにこいつなら人間の好きな奴だ、と言える奴もいたが、ひょっとしたら、と思う奴もいた。今はどうしているのか、私はしらない。

高校での履修

「1 多次元量の乗法」という章では、のっけから、ベクトルも行列も,近頃では高校で教わる.とある。確かに、本書が日本評論社から刊行されたころはそうだった。その後、行列は高校で教えられなくなった。 まあ、この辺りはいろいろ変わるからどうこういうことではないだろう。 そして著者は嘆く。しかし,それには限定があって,ベクトルは主として2次元ベクトル,行列も2行2列の行列ばかりだ。とくに行列を,正方行列しか考えないのがよくない.これは指導要領上仕方がないのだろう。 ここで長方行列を、「バターケーキとカップケーキを作るのに原料のメリケン粉と砂糖、バターを必要とする」例から始める。メリケン粉、というところが時代がかっていていい(メリケン粉とは小麦粉のこと)。 完成品のケーキ2種類を頭文字からバカと名付け、原料3種をやはり頭文字からメサバと名付け、行列論を展開している。

線型写像の標準分解

「2. 直線と平面」では、「線型写像の標準分解」という項がある。ここでは、p.053 に図が書かれていて、どうやら次元定理の図のようだ。どうやらとか、ようだとか、よくわからないボンヤリしたことを書いているのだが、 よくわからない。そんな私の心を見透かしたかのように、著者はp.054 でこう締めくくっている。

しかし,こうした部分空間だの商空間だのを,形式的にやられると,部分的には少しも難しいところがないのに,用語と概念の洪水にやりきれないと思う方が普通だ. 一般的抽象形式はそのカッコヨサにつきあう程度で,3次元空間の中の直線や平面の方でフィーリングをつかむ方がよいと思う.(後略)

ということで、私もフィーリングをつかむだけにする。

円周角

「11. 複素数」の終わり近く、シムソン線の解説後すぐに次の記述がある。

その昔,「初等幾何」はなやかなりしころは,円周角定理を使う名所旧蹟だった(中学校のときの円周角定理について,腕に覚えのある人は,「初等幾何」で証明してみよ).

確かに、小平邦彦の「幾何のおもしろさ」には、初等幾何をごりごり使ったシムソン線の証明がある。

さて、円周角定理を初等幾何で証明すべく、森先生の挑発に乗ってみることにした。私は全然腕に覚えがないのだが、3種類の図を書いてみた。というのは、円周上の同一の弧に対する円周角が等しいことをいうのには、 まず弧の中心角が円周率の2倍であることを証明するのが先だったような覚えたがあって、その中心角と円周角の線分の位置関係をみると3種類に場合分けしないといけないのではないか、 と思ったからだった。

さて、第3の図で証明しよう。`/_ OAP = alpha, /_ APB = beta` とおく。また、線分 `OP` を延長した直線と円周が交わる点で `P` でない点を `Q` とする。 すると、`/_ OAP = /_ OPA` だから、`/_ OPB = alpha + beta` である。 また `/_OPB = /_ OBP ` だから `/_OBP = alpha + beta` である。よって、`/_ BOP = 2pi - 2a(alpha + beta) ` である。 一方、`/_AOB = /_QOP - /_QOA - /_POB` であり、`/_AOB = 2pi - 2alpha - (2pi - 2(alpha+beta))` であるが、これを計算すると、`/_AOB = 2beta` が得られる。 これは、この第3の図では円周角の2倍が中心角であることを示している。

スペクトル分解

「13 固有値」という章に「スペクトル分解」という節がある。しかし、この節を読んでも、この式をスペクトル分解と言う、とはどこにも書かれていない。困った。p.237 にある次のあたりが、 スペクトル分解のことだと思われる。

このことから,`varphi_f` の異なる根を \[ \lambda_1, \dots, \lambda_s \] とすると \[ \boldsymbol{V} = \boldsymbol{U}_{\lambda_1} \oplus \boldsymbol{U}_{\lambda_2} \oplus \dots \oplus \boldsymbol{U}_{\lambda_s} \] と分解できることになる.これは
\[ \varphi_f (\lambda) = (\lambda - \lambda_1)^{r_1}(\lambda - \lambda_2)^{r_2} \dots (\lambda - \lambda_s)^{r_s} \] という因数分解に対応するわけで, \[ r_i = \mathrm{dim} \boldsymbol{U}_{\lambda_i} \] が `lambda_i` の重複度である.

さて、それぞれの式をたどっていく。まず、p.234 から、 \[ \varphi_\boldsymbol{f}(\lambda) = \mathrm{det} (\lambda- \boldsymbol{f}) \] がわかる。そして、 p.230 から、\( \boldsymbol{V} \) は複素係数の `n` 次元線型空間であることがわかる。では \( \boldsymbol{U} \) は何か。もうわからない。いったんあきらめよう。

数式・図の記述

数式はASCIIMathML および MathJax4 を用いている。

図は ASCIIsvg-IM を用いている

書名線型代数
著者森毅
発行日2010-05-10 第1刷
発行元筑摩書房
定価1300 円(税別)
サイズ文庫本サイズ
ISBN978-4-480-09288-5
NDC
その他ちくま学芸文庫、川口市立図書館にて借りて読む