副題は《理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬》。
Amazon の書評を見てみると、おおむね好意的な書評である。 もっとも、別のページでは特にコメントなしとしていたところもあった。 こればかりはわかりませんね。
この本を見て「もっと早く読んでおくのだった」という後悔めいた述懐を披露するかたも多い。 がしかし、出版されたのは、私が理工系の学部を卒業したあとだった。どうしようもない。 せめて学生時代にこの本ぐらいのことが書けるような理解をしておけばよかった、 ということだ。
同書は10章からなり、最後は「解析力学」に当てられている。 私は解析力学を習った覚えがない(ひょっとしたら習ったのかもしれないがそうだとしたら習ったという事実まで忘れている)。 かつての物理学徒としてはこれは非常に恥ずかしいことなので、いつかは自習したい。
私の学生時代はベクトル解析に苦労した。ベクトル解析では 3 次元のベクトルに div やら grad やら rot やらがうるさく付きまとってきたし、それにからんでガウスの定理とストークスの定理が追い打ちを浴びせるものだから、 電磁気学そのもののわからなさと合わせてダブルパンチを食らってノックアウトされるのだった。
さて、同書では rot の意味について短めの一章をとっている。ここはわかりやすい。そのまとめで、
p.73 でここまで理解できれば,それをもとにストークスの定理のイメージを描くことは
(ちょうどガウスの定理の場合と同様に)十分可能だろう。それゆえ本書ではそれは省略し,
電磁気学の中に登場する rot について述べておくことにする。
と記されている。
では、同書ではガウスの定理のイメージは解説されているのだろうか。さくいんをみると、ガウスの定理は 72 とあるが、 72 ページにはガウスの定理は見当たらず、その隣の 73 ページに上記のとおり触れられているだけである。 一方、ストークスの定理についてさくいんで見ると、66, 150 とある。66 ページは 73 ページのストークスの定理の前振りとして名前だけ出ている。 では、150 ページはどうか。ここは、引用文にある「ストークスの定理のイメージ」そのものがある(省略しと書かれているのに!)。
同書では、ストークスの定理を次のように述べている。
`int int_S "rot" vec A * d vecs = int_C vecA * d vecr`
`S` はある二次元上の平面領域で、`C` は領域 `S` の境界である。ここでこの式について解説すると、 同書の無断引用と取られかねないので省略するが、「ストークスの定理のイメージ」である。 では、同書にはなかった「ガウスの定理のイメージ」はどのようなものだろうか。 同書のストークスの定理の記号に似せて書くと、次のようになるはずだ。
`int int_S "div" vec A * ds = int_C vecA * d vecn`
なお、ここでお断りするが、上記の二式とも二次元での公式である。通常は三次元で論じる。
左辺の `"div" vecA` とは、閉曲線 `C` の内側にある湧き出し・吸い込みの強さであり、その面積分 `int int_S` は、 閉曲線の内部に(あれば、その複数個の)湧き出し・吸い込みを合計することを意味する。 一方、右辺についていえば、`vecA * dvecn` というのは、湧き出し・吸い込みによって生じた水流 `vecA` の閉曲線 `C` との垂直成分(法線成分)である。 つまり、水流が閉曲線 `C` の接線方向を向いている場合、この値はゼロである。 そして積分 `int_C` は、閉曲線全体でこの総和をとることである。したがって、この定理の意味は、 水流の湧き出し・吸い込みを閉曲線上から検出した値と内部の湧き出し・吸い込みの口から生じた値が一致する、ということである。
なお、同じ著者の経済数学の直観的方法 マクロ経済学編もおもしろかった。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | 物理数学の直観的方法 |
著者 | 長沼 伸一郎 |
発行日 | 2011 年 10 月 7 日(第2刷) |
発行元 | 講談社(ブルーバックス) |
定価 | 1040円(本体) |
サイズ | 新書判300ページ、18cm |
NDC | 421.5 |
ISBN | 978-4-06-257738-0 |
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