岡本 久、中村 周:関数解析

作成日:2021-06-02
最終更新日:

概要

著者曰く、 応用家のための入門書を目指して執筆を進めた.

感想

まえがきで、著者らはこう述べている: 関数解析の教科書は実に多いにもかかわらずあえてさらに一書を付け加える必要性を,筆者らはそれほど感じなかった. おいおい、それほど必要性を感じなかったらなんでわざわざ書いたんだよ、と文句を言いたくなった。 そのあとにはこう続く: にもかかわらず執筆を引き受けたのは, 「具体例から学ぶ,ユーザーのための関数解析の教科書」 を書いてみれば少しはものの役には経つかもしれないと考えたからである. 応用家のための入門書を目指して執筆を進めた.

わかった。これ以上引用することは避けるが、 本書に出てくる証明は他の文献を参照するようにという記載が非常に多い。 これは本書を読み進める人があらかじめ覚悟しておかないといけないことである。

本書の話題は幅広い。たとえば、入門的な第1章から第4章においても、 第2章ですでにウェーブレット基底について触れられている。 関数解析からウェーブレットを取り上げているのは、 他の書籍では、 堀内 利郎・下村 勝孝:関数解析の基礎ぐらいだろう。 また、数値解析を取り上げているのも興味深い。 近似関数という意味では、 西白保敏彦: 最良近似理論と関数解析もあるが、 関数解析の立場から数値解析を正面から論じているのは本書ぐらいだろう。

気になった個所

第7章の p.134 の問3が気になった。

次の不等式 (C.Morewetz, Bull. Amer. Math. Soc. 75 (1969), 1299-1302 による ) を証明せよ.`1 lt p lt 2` とする. このとき任意の `f, g in L^p(Omega) ` に対し,
`a(p)norm((f-g)/2)_p^p + norm((f+g)/2)_p^p le 1/2 (norm(f)_p^p + norm(g)_p^p)`
ここで,`a(p) gt 1` は `p` だけに依存する定数である。

この式を見て、何かおかしい、と感じた。a(p) が定数だというが、a(p) が非常に大きな数ならば、 不等式が成り立たないのではないか。

出典にある著者を手がかりに調べてみたが見つからない。雑誌名と巻数も合わせて調べたら、 著者は C.Morawetz だった。モラヴェッツ、と読むのだろうか。イヴァン・モラヴェッツという、 ヤナーチェクを見事に弾くピアニストがいたな。話題がそれた。Moravez の論文の表題は、
TWO `L^p` INEQULITIES
であり、2つの不等式は次を指す。記号は当該論文の通りである。まず、 `L^p (p gt 1)` 上ベクトル値関数空間 `X` について `norm(X)^p = int abs(X)^p d mu` を満たすものとして、次の式が掲げられている。

Ⅰa `(norm(X)^p + norm(Y)^p) / 2 - norm((X+Y)/2)^p le a norm((X-Y)/2)^(p//s) ((norm(X)^p + norm(Y)^p)/2)^(1-1//s)`
where `a = a(p) gt 1, s = 1` for ` p lt 2, s = p // 2` for `p gt 2`
Ⅰb `(norm(X)^p + norm(Y)^p) / 2 le norm((X+Y)/2) (1+b_1(norm(x-y)/norm(x+y))^2 + b_2(norm(x-y)/norm(x+y))^2) `
where `b_1 = b_1(p), s = 2`, vanishes for `p le 2` and `b_2 = b_2(p)`.

本書では `1 lt p lt 2` といっているので、上のⅠa で `s = 1` となる。 そうすると、Ⅰa式からは `s` が消え、こうなる:

`(norm(X)^p + norm(Y)^p) / 2 - norm((X+Y)/2)^p le a norm((X-Y)/2)^p `

そうすると、本書の式は、不等号の向きが逆なだけで、合っているのか。

数式の記述

数式表現は ASCIIMathML を、数式表現はMathJax を用いている。

書誌情報

書 名関数解析
著 者岡本 久、中村 周
発行日2016 年 11 月 10 日 オンデマンド版
発行元岩波書店
定 価4,300円
サイズA5 版
ISBN978-4-00-730534-4
NDC
備考2006 年 1 月 26 日第1刷発行

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MARUYAMA Satosi