経済の立場からみた関数解析の教科書。
この本はボリュームが多い。記述の多い宮島静雄氏の本が 554 ページであるのに対し、本書は 622ページもある。 目次を示そう。
第1章 位相空間(Ⅰ) 第2章 位相空間(Ⅱ) 第3章 線形位相空間 第4章 有界線形作用素 第5章 弱収束と*弱収束 第6章 積分・凸解析および変分問題 第7章 Banach 代数
この本はがりがりの数学書といってもよい。
第1章の位相空間(Ⅰ)では、関数解析における基本的な空間の定義がされている。 ベールのカテゴリー定理はこの章で論じられている。 また、コンパクト、局所コンパクトの概念もこの章にある。 今でもコンパクトの定義などはわからないが、そのなかで、私が大学に入って全くわからなかった概念である「1 の分解」だった。本書では、p.93 以降に定理 1.47 として出てきている。
第2章の位相空間(Ⅱ)では、位相群論の基本について解説されている。とくに、経済学に関する話題がちらほら出てくる。 たとえば経済学者ドブリューの業績に端を発する効用関数の存在を保証する十分条件などがある。ほかには、多価写像の話題が取り上げられる。 このあたりは類書では見られないだろう。これに関連してベルジュの最大値定理といわれるものがある。これは次の通り表される。
函数 `u: X xx Y -> RR` は連続とし、多価写像 `Gamma:X ->> Y` はコンパクト値かつ連続とする.このとき、
- 函数 `u^**(x)` は連続
- 多価写像
`Sigma(x) = {y in Gamma(x) | u(x, y) = u^**(x)}`
はコンパクト値かつ優半連続.
さらにここではポーランド空間(本書では Polish 空間)とススリン空間(本書では Souslin 空間)が出てくる。
第3章は、線型位相空間である。ここでやっと、ヒルベルト空間が出てくる。このあたりから、普通の関数解析の話題もちらほら出てくる。
第4章は、有界線形作用素である。開写像定理と閉グラフ定理、ハーン・バナッハの定理など、一般的な関数解析の定理が述べられる。
第5章も一般的な関数解析の話題である。
第6章は、経済学との結びつきが強い章である。不動点定理にかなりのページが割いているのはその表れだろう。
第7章は Banach 代数(Banach 環)である。正規作用素のスペクトル表現で終わっている。
本書を読み進めるためにはカリグラフ体への慣れが必要だ。ここで示しておく。
`cc(ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ)`
本書とは字体が異なるが仕方がない。まず、p.1 で位相が定義されている。集合 `X` の位相は `cc(T)` で与えられている。`T` のカリグラフ体だろう。 次の p.2 では位相空間の例が挙げられていて、そのうちの例 B (離散位相) で `cc(P)(X)` を `X` のすべての部分集合の族としているが、 この `cc(P)` はベキ集合をあらわす `P` のカリグラフ体だろう。
ついでにスクリプト体も載せる。カリグラフ体よりこちらのスクリプト体が似ているかもしれない。
\( \mathcal{ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ} \)またフラクトゥールへの慣れも必要だ。ここで示しておく。
`fr(ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ)`
p.16 に次の記述がある。
〔6〕実数軸 `RR` 上で定義された,すべての有界連続な実数値函数の全体を `fr(C)^b(RR, RR)` と書く(後略)
最初のフラクトゥールは `C` である。continuous (連続)の意味だろうか。肩にあるのは `b` である。bounded (有界)のことだろうか。
本書を最初に読んだときに感じたのは「なぜ経済学で関数解析なのか」ということだった。これについては、 長沼 伸一郎:経済数学の直観的方法 マクロ経済学編を読んで少しわかったのだった。
数式記述は ASCIIMathML を、 数式表現はMathJax を用いている。
本書に添付されている正誤表のほかに、604 ページにある柱《604 第 7 章 Banach 代数》が誤って
404 第 7 章 Banach 代数
となっている(ノンブルの誤り)。
書名 | 函数解析学 |
著者 | 丸山徹 |
発行日 | 昭和 55 年 11 月 30 日 |
発行元 | 慶應通信 |
定価 | 8,500 円(税別) |
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その他 | 越谷市立図書館で借りて読む |
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