数え上げ数学

作成日 : 2024-02-09
最終更新日 :

数えるということ

数えるということは人間の根源にかかわることかもしれない。 セサミストリートのカウント伯爵は、何かについて数えていた。 ほりのぶゆきの「江戸むらさき特急」では、「ひとーつ、ふたーつ、みっつ…これで俺ももうすぐ勘定奉行だな」とつぶやく役人もいた。 そこで、数え上げ数学に関するページを作ってみた。

数え上げ数学では、代数学の理論が重宝される。代数学の用語については主に [1] を参照した。

バーンサイドの補題

いきなり、バーンサイドの補題である。Wikipedia によれば、これは「非バーンサイドの補題」(lemma that is not Burnside's) と呼ばれるべきものである、という。しかし、「スティグラーの法則」によれば、「科学的発見に第一発見者の名前が付くことはない」のだという。 その証拠に、「スティグラーの法則」は既に別の社会学者によって発見されていたとスティグラーは言っている。

例題1

次は [2] の p.51 にある問1である。

3 種類のお料理のお皿 `A` (シューマイ)、`B`(棒棒鶏)、`C`(酢豚)を,回転する円卓の上に 6 皿並べる.最初の並べ方は違っても, 回転すれば同じになる並べ方は,“同値(実質的に同じ)”といってよいであろう.そこで問題:
問 1 3 種類のお料理を 6 皿並べるとき,同値でない(回転しても同じにならない)並べ方は何通りあるか?ただし 1 種類か 2 種類しか並べない場合も,含めて数える.

例題2

次は[2]の p.51 にある問2である。

カラー被覆の導線を 6 本まとめて,1 本のケーブルを作る.カラーは赤・青・黄の 3 色選べるが,図 5 (ア),(イ)のケーブルは, 回転すれば同じになるので,「製品としては同じもの」である.また(ア),(ウ)も前後を逆(裏返し)にすれば同じになるのでやはり「同じもの」とみなす. そこで次のような実際的な問題が生まれる.
問 2 赤,青,黄のカラー被覆の導線を 6 本束ねたケーブルで,製品として異なるものは,何種類作れるか?

例題1の答は[2]の p.69 によれば次のとおりである。

同値類の個数は次のように計算される。
(0) `W(iota) = 3^6 = 729`
(1) `W(sigma) = 3^1 = 3`
(2) `W(sigma^2) = 3^2 = 9`
(3) `W(sigma^3) = 3^3 = 27`
(4) `W(sigma^4) = 3^2 = 9`
(5) `W(sigma^5) = 3^1 = 3`
したがって, 同値類の個数 = `(729 + 3 + 9 + 27 + 9 + 3) / 6 = 780 / 6 = 130`

例題2のこたえは同書p.70 の次の補足を引用する。

問2もこれで解ける―群 `G` のところに,60 ページ<例3>で述べた群 `T` をあてはめればよい. しかし「`T` が実際にどんな置換を含んでいるか」(関係 `sigma * tau = tau * sigma^5` が重要)などの議論が必要なので,ここでは結果だけ示しておく.
問 2 の答:3色のカラー被覆導線を 6 本まとめたケーブルで,製品として異なるものは,92 種類作れる.

例題3

次は[3]の p.95 にある例題1である。

正 `n` 面体の各面が正 `q` 角形であるとする. この `n` 面を `n` 色で塗る. ただし,1 つの面は 1 色で塗り,異なる面は異なる色で塗るものとする. いま,`n` 面体の中心 `O` のまわりの回転を考える.そのとき,どのように回転しても一致しない異なる塗り方は何通りあるか.

解をまる写しする。

この正 `n` 面体の回転群を `G` とする.回転を考えないときの異なる塗り方は,`n` 面に `n` 色であるから,`n!` 通り.その 1 つを `t` とする. `G` に属する回転 `sigma` を正 `n` 面体に作用させれば,塗り方 `t` は(別の)塗り方 `t'` に移る.これを `sigma(t)` と定義すれば,上の `n!` 個の塗り方の集合 `T` は `G` 集合になる.

2 つの塗り方 `t, u in T` が `G` に属する回転 `sigma` により一致するというのは

`u = sigma(t)`
のことで,それが `G` 集合 `T` を軌道 `T_i (i = 1, ldots, m)` に類別したときに `t` と `u` が同じ推移類に属することである. よって,`G` に属する回転を行っても一致しない異なる塗り方の総数は軌道 `T_i` の個数 `m` に等しい.

塗り方 `t` は `n` 面を `n` 色で塗っているから,面が 1 つでも動けば t と異なる `t' in T` になる.`n` 面がすべて動かないのは `I` だけであるから,固定部分群は

`H(t) = {I}`
よって,定理 5.1,5.2 より
`abs(G) = abs(T_i)*abs(H(t)) = abs(T_i)`.
`:.abs(T) = abs(T_1) + cdots + abs(T_m) = mabs(T_i)= mabs(G)`

一方,2.2 節 例題 1 より `abs(G) = nq` .したがって,求める塗り方の個数は

`m = abs(T) // abs(G) = n! // nq = (n-1)!//q`

ここで用語の定義をおさらいしよう。用語の定義は特記なき限り[1]による。まず、「作用」 の意味は次のとおりである。[1]

`G` を群とし群の演算を `**` で表す.また,集合 `X` が与えられていて, 任意の `sigma in G` と `x in X` に対して `sigma * x` と表される `X` の元が定まっているとする. (中略)この `sigma * x` に対して,2 つの条件
(GA1) 任意の `sigma, tau in G` と任意の `x in X` に対して, `sigma * (tau * x) = (sigma ** tau) * x` が成立する
(GA2) 任意の `x in X` について `varepsilon * x = x` が成り立つ (`varepsilon` は `G` の単位元を表わす)
が成り立つとき,`(sigma, x) |-> sigma * x` は `G` の `X` への作用(action) である ( または,作用を定める)という(後略)

例題4

次は[3]の p.96 にある例題2である。

6 角錐を 2 つ,底面ではり合わせた立体を考える.具体的にいえば: 直交座標の入った空間において,座標原点 O を中心とする正 6 角形 ABCDEFG を `xy` 平面上にとり, 6 個の頂点と 2 点 P(0, 0, 1),Q(0, 0, -1) を結んでできる多面体を考える(図7.2、引用では省略). この多面体の 12 の面を黒白 2 色で塗り分ける.ただし,1 つの面は 1 つで塗るものとし,全部の面を 1 色で塗ってもよいものとする. このような塗り方のうち,`O` のまわりに回転しても一致しないような異なる塗り方は何通りあるか.

ここでは塗り方を `m` として、p.97 にある答だけを引用する。

`m = 1/abs(G) sum_(lamda in G) chi(lambda) = 1/12 (2^12 + 2*2^2 + 2*2^4 +7*2^6) = 382`.

例題5

次は[3]の p.97 にある例題3である。

黒白の石 `n` 個を円形に並べる.黒石,白石の個数に制限はなく,全部黒でも,全部白でもよいものとする.この円順列の個数は何通りか.

ここでは個数を `m` として p.98 にある答だけを引用する。

`m = 1/abs(G) sum_(tau in G) chi(tau) = 1/n sum_d varphi(n/d)2^d`.

ここで,`d` は `n` の約数全部(1と`n` を含め)を動く.

補足すると、`varphi(n)` は`n = p^aq^bcdotsr^c を `n` の素因数分解とすれば、

`varphi(n) = p^(a-1)q^(b-1)cdotsr^(c-1)(p-1)(q-1)cdots(r-1)`
で表される関数であり、オイラーの関数と呼ばれる。

文献 [3] にはほかにもいろいろな問題がある。

例題 4 の多面体の 12 の面を 12 色で塗る塗り方は何通りか.

この答えは 11! である。

正 4 面体の 4 面を黒白 2 色で塗る塗り方は何通りか.

この答は 5 である。

例題 4 の多面体を 2 つの平面 `z = +-1/2` で切れば,面数 14 の多面体ができる.これを 14 色で塗る塗り方は何通りか.またこれを黒白 2 色で塗る塗り方は何通りか.

この答はそれぞれ 14!/12,`(2^14 + 2*2^4 + 2*2^6 + 2^8 + 6*2^7)//12 ` である。

文献

[1] 中島 匠一 : 代数方程式とガロア理論、共立出版

[2] 野﨑昭弘「なっとくする群・環・体」、講談社

[3] 国吉秀夫「群論入門」、サイエンス社

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MARUYAMA Satosi