吉田耕作、加藤敏夫:大学演習 応用数学

作成日:2011-09-05
最終更新日:

概要

古典応用数学に相当する物理数学に焦点を当てている。目次をまとめると、およそ次の項目が並んでいる。

この本は学生時代に買った。その理由は忘れたが、思うに当時は変分法が全く理解できず、 何か問題が解けるようになりたいという思いが強かったからと推測される。 でも今になってこの本を見直しても、変分法のところは難しく、やはり理解できない。 変分法の問題自体は面白いのだが、解法との間の乖離が激しく、あきらめたのだ。

一次代数と二次形式

一次代数ということばは珍しい。今では線形代数か、線型代数とするところだ。 さて、10 ページの問題 1.15 の [注] がおもしろい。<これは結婚定理といわれるものに他ならない。>とある。 そこで問題を読んでみたが、意味がさっぱりわからない。解答を見たらわかるだろうかとやはりわからない。 ちなみに解答では、永久式 (permanent) が出てきていた。現在は permanent はそのままパーマネントとするようだ。

常微分方程式

常微分方程式では、ミクシンスキーの演算子法 (ミクシンスキーはミクシンスキとも綴り、原綴はポーランド語で Mikusiński )が述べられている。 他にこの方法について述べてある本はほとんどない。 佐藤總夫の「自然の数理と社会の数理 II」 では、微分方程式の解法について、 ラプラス変換よりミクシンスキの演算子法がよいと思う。本書で微分方程式の解法としてラプラス変換を取り上げたのは伝統に従ったまでと述べられている。 つまり、ミクシンスキーの演算子法はラプラス変換より応用範囲が広いのだが、広まっていないのは残念だ。

おそらく、ミクシンスキーの演算子法が広まらなかった一つの理由は、土台となる定理としては難しいティッチマーシュの定理が必要だったからだろう。

ティッチマーシュの定理の証明

以下、この「応用数学」の P.60 にあるティッチマーシュの定理の証明を引き写しておく。

`int_0^t f(t-s)g(s)ds -= 0` ならば `f(t) -= 0` または `g(t) -= 0`.すなわち
`f * g = 0` ならば `f = 0` または `g = 0`

証明.簡単のため、`f(t), g(t)` ともに `[0, oo)` で積分可能なとき、すなわち、
`int_0^oo "|"f(t)"|" dt < oo, quad int_0^oo "|"g(t)"|" dt < oo`
に限定して証明する。`f(t)` のラプラス変換である次式を考える。
`F(z) = int_0^oo e^(zt) f(t) dt`
複素数 z の実数部を `Re(z)` で表す. `Re(z) < 0 ` となるときは、`F(z)` は定義される。なぜなら
`int_0^oo "|"e^(zt) f(t) "|" dt = int_0^o e^(Re(z)t) "|"f(t)"|" dt < oo`
だからである。 しかも `Re(z) < 0` ならば,積分記号の下で `z` について微分した `te^(zt) f(t)` も
`"|"te^(zt)f(t)| = te^(Re(z)t)"|"f(t)|, quad lim_(t->oo) te^(Re(z)t) = 0`

によって,`[0, oo]` で積分可能で
`F'(z) = int_0^oo te^(zt) f(t) dt`
となるから,`F(z)` は `Re(z) < 0` で正則関数になる.

さて、条件式左辺の積分の上端 `t` および `f`, `g` はともに `t >= 0` で定義されている。 このとき `f` および `g` の定義範囲を `t > 0` の部分にまで拡張しても一般性を失わない。ただし、
`f(t) -= 0, quad g(t) -= 0 quad ( t < 0)`
とする。すると、条件式は次と同値である。
`int_-oo^oo f(t-s)g(s)ds -= 0 quad (-oo < t < oo)`
この Laplace 変換を考えて
`int_0^oo e^(zt){int_-oo^oo f(t-s)g(s)ds} dt = 0`
この左辺は積分順序を変更して(その可否の判断は私にはわからない。著者らを信用するしかない)
`= int_-oo^oo e^(zt) {int_-oo^oo f(t-s) g(s) ds} dt`
`= int_-oo^oo e^(zt) g(s)ds {int_-oo^oo e^(z(t-s)) f(t-s) dt}`
`= int_-oo^oo e^(zs) g(s)ds * int_-oo^oo e^zt f(t) dt`
`= int_0^oo g(s) ds * int_0^oo e^(zs)f(s)ds`
`= G(z) * F(z)`

となる。すなわち、`f, g` の Laplace 変換 `F(z), G(z)` はいずれも `Re(z) < 0` で正則な関数で、かつ
`F(z) * G(z) -= 0`
となる。半平面 `Re(z) < 0` の点 `z_0` をとり、`z_0` に収束する `Re(z) < 0` の点列 `z_1, z_2, cdots, z_n, cdots` をとる。 ただし、`z_n != z_0 (n = 1, 2, cdots)` とする。 `F(z_n) * G(z_n) = 0 (n = 1, 2, cdots)` であるから、`F(z)` または `G(z)` の少なくとも一方、 たとえば `F(z)` は点列 `{z_n}` のうちの無限に多くの点(それを `z_1', z_2', cdots, z_m', cdots` とする) で 0 になる。 正則関数 `F(z)` がその正則な範囲 `Re(z) < 0` の中の点 `z_0` に収束する無限に多くの点 `z_1', z_2', cdots, z_m', cdots` で 0 になるから、 `F(z) -= 0` でなければならない。

ゆえに、Laplace 変換の反転に関する定理
`f(t) = lim_(tau -> oo) 1/(2pi i) int_(sigma - i tau)^(sigma + i tau) e^(-tz) F(z) dz quad ( sigma < 0)`
を用い `f(t) -= 0` でなければならないことがわかる。

演算子法の例題

ミクシンスキーの演算子法を使った例題である。

例題

`x'' (t) - x' ( t ) - 6 x ( t ) =2` を初期条件 `x(0) = 1, x'(0) = 0 ` で解け。

準備

関数 `f={f(t)}` に関する次の式を準備する。`s` は微分オペレータである。
`s f = f' + f(0)`
`s^2 f = f'' + f'(0) + sf(0)`
`1/(s-α)= e^(αt)`

解答

方程式を次のように書き直す。
`{ x '' ( t ) } - {x ' ( t )} - 6 {x ( t )} ={2} =2 (1)/s`
ここで、s は微分のオペレータである。これらの関数をオペレータと考えると、準備の2番目の式より、
`s^2 x -s x(0) -x(0) ' - [sx-x(0)] - 6x =2 (1)/s`
初期条件を入れる。
`( s^2 -s -6)x = s-1+2 (1)/s`
よって準備の第3式から
` x= (s^2-s+2) / (s(s-3 )(s+2 )) = - 1/3 (1)/s +8/15 1/(s-3) + 4/5 1/(s+2) = { -1/3 +8/15 e^(3t) + 4/5 e^(-2t) }`
ゆえに解は `x(t) = { -1/3 + 8/15 e^(3t) +4/5 e^(-2t) }`

考察

これだけならば、ラプラス変換を覚えたほうが楽な感じがする。この先、適用範囲が広いことがミクシンスキーの演算子法の利点だと思うが、 そこまでは見つからなかった。

偏微分方程式の近似解法

例題 3.4 を引き写そう

長径回転楕円体 x 2 + y 2 b 2 + z 2 a 2 = 1 (a > b) の表面で u ^ = 0 , 内部で Δ u ^ = - 1 を満足する関数 u ^ の原点における値 u ^ 0 0 0 を評価せよ。とくに b/a が  1 に近いときはどうか。

何を言っているのかよくわからないが、こんなことであろう。 ある関数 u = u(x, y, z) がある。この関数の条件は、長径回転楕円体、要するにラグビーボールのような形の表面ではゼロで、 内部では u のΔ(ラプラシアン)をとると -1 となる。このときの関数 u の点 (0, 0, 0)における値と誤差を求めよ。

ラプラシアンの物理的意味は、本書の pp.112-113 に説明されている。Wikipedia によれば、 「周囲の平均との差をとった時の極限」という直観的な理解がある。

これだけの条件で原点における u の値が定まるのも妙な感じがするが、 境界条件が効いているということなのだろう。

以上の条件から長い計算をやり遂げるとと次の結果が見えてくる。

u ^ 0 0 0 - b 2 6 1 + a2-b2 2a2+b2 εδ

ここで

εδ = 2 a b 135 ( 2 a 2 + b 2 ) ( a 2 - b 2 ) 1 - b 2 a - arcsin 1 - b 2 a 2 2 1 - b 2 a 2

b/a が 1 に近いとき誤差は a2 - b2 3/2 程度となる。

p.340 の練習問題の解答に誤植がある。a = 1, b = 0.9 なら 1 - b2 a2 = 1 - 0.81 = 0.19, 1 - b2 a2 = 0.4359, arcsin 1 - b 2 a 2 1 - b 2 a 2 = 0.42310.4359 = 0.9706 (以下省略)

したがって、a = 1.0, b = 0.9 のときの値と誤差は本書とは異なり、次のようになる。

近似解法近似値誤差
F[u, U]による解法
G[v, V]による解法
F と G をともに使う解法

ただこの計算結果には自信がない。時間があれば検算したい。

発行日昭和 58 年 2 月 1 日(第16版)
発行元裳華房
定 価2900 円
サイズ274p; 19cm
ISBN4-7853-8007-1
NDC

まりんきょ学問所数学の本 > 吉田耕作、加藤敏夫:大学演習 応用数学


MARUYAMA Satosi