堀内龍太郎・水島二郎・柳瀬眞一郎・山本恭二:理工学のための応用解析学Ⅰ

作成日:2021-12-11
最終更新日:

概要

常微分方程式・複素関数についての参考書。

感想

本書は朝倉書店から訂正版が出ているが、 本書からどこが訂正されているかを推測するのは興味あることだろう。しかし、私はその訂正版を見たことがないし、 訂正版を見ずに訂正箇所を推測しようにも、私の能力では推測できない。 よってきわめて些細で大雑把な感想を記す。

体裁について

これは本書の欠点というより、他書で見られる利点だが、証明や例題の終わりに、 その終わりを示す記号がないのが気になる。 他書の例では、証明の終わりは中身が塗りつぶされているハルモス記号 ∎ を使い、 証明以外の、例題などの終わりは中身が中空のハルモス記号 ▯ を使っている。

ディスプレイ数式モードを使ってほしい個所でもインライン数式モードになっているところがある。 たとえば、p.3 の (1.4) 式ではインライン数式モードの

`dy // dx = f(x,y)`
となっているが、ここは次のようにディスプレイ数式モードにすべきだろう。
`dy / dx = f(x,y)`

特別解と特異解について

p.20 からは、2.1 節で 1階微分方程式の一般形と解について述べられている。 p.21 にある例題 1 は次のとおりである。

例題 1 微分方程式 `dy//dx = y^(1//2)` について,初期条件 `y(0) = 0` を満たす解には

(a)`y -= 0`
(b)`{(y = 1/4x^2, (x ge 0)),(y = 0, (x lt 0)):}`
(c)`y = 1/4 x^2`

で表わされる 3 通りの解があることを確かめよ.(後略)

私は、この 3 通りの解について不思議に思った。まず、(c) は本当に解だろうか。`x ge 0` だったら問題ない。 では、`x lt 0` のときはどうだろうか。解 `y = 1//4 x^2` を微分すれば `dy//dx = x//2` だから、 `x lt 0` のときは `dy//dx lt 0` である。ところが微分方程式は `dy//dx = y^(1//2)` だから、 `dy//dx ge 0` であり、矛盾である。したがって、(c) の解はない。一方、(b) の解を見ると、 `x` の正負によって形をかえている。もう少し考えると、この (b) の形の解は次のように拡張できる。 ここで、`a ge 0` とする。

(b') `{(y = 1/4(x-a)^2, (x ge a)),(y = 0, (x lt a)):}`
例題 1 の解は、この (a) と (b') の、2 通りの解がある、とするのが正しいように思える。 気になるのは特別解(特殊解)と特異解の区別であるが、この場合はしにくいだろう。 なお、類似の例は、大学演習 応用数学Ⅰの p.51 に見られる。

複素解析

p.207 の練習問題を引き写す。なお、図 12.4 の積分は省略した:

9 つぎの積分の値を求めよ.

i) `int_-oo^oo(sin x)/(x^2 + 4) dx` ii) `int_-oo^oo sin x/(x^2 + 1)^2 dx`
iii) `int_0^oo (x cos x)/((x^2 + 1)) dx` iv) `int_-oo^oo (cos 2x) / (x^2+x+1) dx`
10 図 12.4 の積分路を用いてつぎの積分の値を求めよ.
i) `int_0^oo x^alpha/(x^2+x+1) dx quad (-1 lt alpha lt 1)` ii) `int_0^pi log sin x dx`

p.233 にある解答を見てみた:

9 i) `1//8(e^2 - e^(-2))`. ii) `pi/4 {(e - 1//e) - i(e + 1// e)}`. iii) `pi//(2e)`. iv) `pi{-(e^sqrt(3) - 1/e^sqrt(3)) sin sqrt(1) + i (e^sqrt(3) + 1/e^sqrt(3)) cos sqrt(1)}`
10 i) 例題と同様だが,特異点は `2pi//3, 4pi//3` で,積分値は `2pi i` .ii) `-pi log2`.

まず 9 の解答について、i) や ii) は被積分関数が奇関数だから、積分の範囲が `(-oo, oo)` なら積分の値は 0 になるはずだが、0 にならないのはなぜだろうか。積分の範囲を `[0, oo)` にすればいいのだろうか。それとも、被積分関数の `sin x` の項を `cos x` にすればいいのだろうか。 iii) は飛ばして、iv) の解答を見ると、sin や cos の引数にある `sqrt(1)` はどんな意味だろうか。 単なる 1 ではいけない理由があるのだろうか。おまけに、ii) や iv) の解答では、 実変数の積分なのに虚数単位 `i` が出てくるのはなぜだろうか。

次に 10 i) の解答だが、まず、例題と同様というが、該当する例題のどれかがわからない。それは置くとしても、 特異点は `2pi//3, 4pi//3` ではなく、`e^(2pi i//3), e^(4pi i//3)` (または `(-1 +- sqrt(3)i) /2 ` )である。おまけに積分値も誤っている。練習問題 9 の ii) や iv) の解答でも述べたが、 問は実数値をとる関数の実軸上の積分だから、どこをどうがんばっても純虚数の値が出てくるわけがない。 ついでにいえば、答に `alpha` が入っていないのも合点がいかない。せっかくなので、 `f(x) = x^alpha/(x^2 + x + 1)` のグラフを書いてみた。

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これらの積分がどうなるか、自分で解答するのがいいだろうが、力がない。

なお、複素関数を実関数の積分計算に応用する例について、 複素関数のページを作った。

数式表記

数式表記にはMathJaxを使った。

書誌情報

書 名理工学のための応用解析学Ⅰ
著 者堀内龍太郎・水島二郎・柳瀬眞一郎・山本恭二
発行日2001 年 3 月 30 日 初版第1刷
発行元朝倉書店
定 価3200 円(本体)
サイズA5 判 238 ページ
ISBN4-254-11083-9
備 考草加市立図書館にて借りて読む

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