前期の小説5篇を収める。
「関係」、「パンのみに非ず」、「笑い地獄」は、後藤明生コレクション 前期 I を参照してほしい。
「わたし」はある三流地方新聞社の東京支局の記者をしている。友人で宣伝会社副部長の寺田、 「わたし」や寺田の知り合いで週刊誌記者の福村らとの織りなす人間関係をつづる。
こう書いてもこの小説がもつ感じが伝わらないのがもどかしい。
この小説では、最初のページから「とつぜん」も、また、「実さい」も出てくる。
そして数ページめくると、寺田と福村の世界は楕円形だという気がする
という、作者お得意の楕円の記述もある。
私が気になったのは、宣伝会社のスポンサーに対する気遣いのすさまじさである。 この寺田という男は、そのスポンサーの商品を買い、自宅に置く。寺田の会社も、そうだ。 そして寺田の会社にあるスポンサーの商品にはすべて7桁の数字がはってあるという。そのスポンサーの会社の電話番号であり、 それを寺田の会社の社員は覚えないといけないのだそうだ。 寺田の家にも、どうしても1社だけ、スポンサーの電話番号が覚えられない商品があり(ハミガキだったか歯ブラシだったか)、 それに7桁の数字が貼ってある、というところが妙にリアルだった。
この小説では主役ではない、杉山という人物が登場する。私はこの人物に、ひどく同情してしまった。
「わたし」はある婦人月刊誌の編集部で記事を書いている。「わたし」と組んで仕事をしていた嘱託の倉田が、 あるときから様子がおかしくなり、「わたし」の指示とは異なる原稿を出してきた。 「わたし」をはじめとする週刊誌の社員は、大学病院の精神科の先生に倉田を診察してもらうように図った。
こう書いてもこの小説がもつ感じが伝わらないのがもどかしい。あらすじを書くのが下手だからだろう。
「わたし」は夏の間、ビニール製バッグをぶら下げている。 これを見て同僚の佐藤が永井荷風スタイルと評して、 ただ、永井荷風ならば預金通帳が入っていないといけない、という。 このくだりを読んで、そうか、後藤明生はすでに永井荷風に目をつけていた、ということなのかと驚いた。 あの、「壁の中」の後半は、まるごと主人公と永井荷風との対話なのだ。
書名 | 笑い地獄 |
著者 | 後藤 明生 |
発行日 | 昭和 53 年 8 月 30 日(第1刷) |
発行元 | 集英社 |
定価 | 240 円(本体) |
その他 | 集英社文庫、草加市立図書館で借りて読む |
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