沼野 雄司:ファンダメンタルな楽曲分析入門

作成日: 2020-07-03
最終更新日:

概要

「はじめに」で著者は次の3つの基本原則を立てている:

  1. なるべくファンダメンタルな次元で音楽形式を考えること。
  2. 柔軟に「形式」のカテゴリーを扱い、差異よりも共通点を足がかりにすること。
  3. 楽曲の細部にこだわる一方、幅広い分析的視点を提供すること

分析例

この本で分析を実施しているのは次の曲である。

グルーピング

p.20 で、つまり、ここで明らかになるのは、 楽曲分析における「分割」というのは、正確に言えば、いくつかのものをまとめて区切ること、 すなわち「グルーピングすること」であるという事実だ。 と述べている。ここで、グルーピングということばが出てきた。このことばで思い出したのが、 詰将棋作家、上田吉一の作品集「極光21」で述べられていた、古典詰将棋や自作の詰将棋に関するキーワードであった。

なお、詰将棋関係は次でも触れる。

回帰反復

p.25 で、音楽の形式が反復に支えられていることが述べられている。 そして反復には大きく2種類あるとする。一つは、反復の単位をAとするとき、 AA あるいは AA' のように反復がくっついている場合で、これを著者は「繰り返し反復」と呼ぶ。 そしてもうひとつの反復は、離れた反復であり、 ABA あるいは ABCA あるいは ABABA…… のように要素が離れている。これを著者は「回帰反復」と呼ぶ。

これらを一通り説明したあとで、著者は 興味深いのは、こうした「回帰反復」が他の芸術ではほとんど見られないことだ といっている。確かにそうだが、ひょっとしたら、詰将棋がその例外かもしれない。 もっとも、詰将棋でこの「回帰反復」を意識した作品は上田吉一の「モビール」しか知らない。 「モビール」は、詰手順の序奏の12手が収束にそのまま再現される。さらに、初手の☗5五馬は最終手でもある。 これは、「モビール」の解説 https://hirotsume.blog.fc2.com/blog-entry-91.html にある通り、 ≪クラシック音楽に造詣の深い作者の美意識の発露≫だと思う。

広島の犠牲者に捧げる哀歌

このペンデレツキの曲は有名だということしか覚えていない。 多分聞いてもいないはずだ。この本には楽譜が一部分載っている。 いろいろな記号が解説されている。 その記号の一部は、青島広志の「[新装版]究極の楽典」でも説明されている。

気になったところ

誤植なのかもしれないし、誤植ではないのかもしれないが、気になったところを列挙する。

p.35 ll.11-12、将棋の有段者が一局の差し手を全部覚えているとあるが、 将棋の有段者が一局の指し手を全部覚えている が正しい。差し手では相撲になってしまう。

書 名ファンダメンタルな楽曲分析入門
著 者沼野 雄司
発行日2017年10月5日(第1刷)
発行元音楽之友社
定 価2000円(本体)
サイズA5判
ISBN978-4-276-13204-7
その他越谷図書館南部図書室で借りて読む。

まりんきょ学問所読んだ本の記録 > ファンダメンタルな楽曲分析入門


MARUYAMA Satosi