米本 昌平:独学の時代-新しい知の地平を求めて |
作成日: 2009-08-28 最終更新日: |
著者が青年時代独学で研究した生気論と、 大学研究者への復讐を自伝的に描く。
この本への感想は複雑である。著者への尊敬と軽蔑が入り混じる。 amazon の本書へのカスタマーレビューが2件あり(2009-08-28現在)、 1件が最高の評価、1件が最低の評価という事実の通りである。
学生時代に抱いた生気論の問題を考え続け、よき助言者である白上謙一氏に恵まれたこともあり、 証券会社に勤務中、論文を公表した。これが科学史の権威である中村禎里氏の目に留まり、 民間の生物学研究機関に職を得ることができた。 このときの論文や論考の一部が本書に収録されており、これらを読むと、 著者の青年時の熱気が伝わってくる。
この独学という精神は、 大学というアカデミズムで自分の研究を正当化する教員らに対する復讐からきている。 ところが、著者はこうもいう。
在野で研究を続けていくにしても、資料収集や事実確認の点で、 アカデミズム内部の人間の協力が不可欠な時がある。 アカデミズムの中に「共犯者」がいた方が、 研究がすみやかに進むことは認めざるをえない。
徹底して在野であることは不可能なのか、とも思わせる。 このあたりで、失望と羨望が入り混じるのだ。真理を探究するためには、使えるものは使ってみせる、 という執念であろう。
もともと私がこの本を買ったのは、独学という行為に憧れたからだ。独学を実現するためには何が必要か、 どういう事例があるだろうか、という考えを解決したかったからだ。 結局、この本は自伝であるため、私の役には立たなかったが、 著者の若い頃の情熱と復讐心を感じるための書として、心に刻んでおくことにする。
ところで、本稿を書いている時点で、 著者は東京大学先端科学技術研究センター特任教授である(Wikipediaによる)。 本書には、こんなエピソードがp.15からp.16にかけてある。
(著者が浪人時代、東大の赤門を見て)「無用の者の入構を禁ず」とあるのが読めた。 (中略) (東大正門の奥にある並木と灰色の建物、アーチ型の入口を見て) 初めて目にする、重く暗い権威の存在感であった。この瞬間、京都に行きたい! と切実に思った。
そして、本書では、京大の(ときには東大もの)研究者に対する嫌悪感が何度も出ている。 その著者が東大の教授になったからには、きっと若い頃から抱き続けた嫌悪感を解決したのだろう、 どのように解決したかが、知りたいところだ。(2009-08-27)
書 名 | 独学の時代-新しい知の地平を求めて |
著 者 | 米本 昌平 |
発行日 | 2002年8月25日 |
発行元 | NTT出版 |
定 価 | 1900円(本体) |
サイズ | 244ページ、四六判 |
ISBN | 4-7571-4043-6 |
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