後藤 明生:後藤明生コレクション2

作成日: 2019-05-21
最終更新日:

概要

後藤明生の前期の中編と短編を収める。

挾み撃ちに関しては文庫本の評を見てほしい。

入手の話

後藤明生コレクションは、第1巻、第3巻、第2巻の順序で買った。すべて新宿にある Book 1st で買っている。 第1巻を買った後2年ぐらい間をおいて第2巻を買おうと思ったら、第2巻のみがなかった。仕方なく第3巻を買った。 第3巻を買って3ヶ月して Book 1st に行ったら、なかったのは第3巻のみで、前回見た時になかった第2巻があった。 ということは、第2巻を買った人がいて、それが補充されたのだろう、ということが予測できる。私が買った第3巻は補充されるだろうか。

感想

均質な不均質

前期の小説を読んでいると、主人公の住環境が似ているせいか、タイトルだけ聞いてもどんな小節だかわからなくなってしまう。 住んでいる団地に電気屋が来るのはどんな小説だっけ、主人公が職安に行く小説のタイトルは何か、など、わからなくなってしまう。 もちろん、一つの小説だからその構成要素はほかの小説とは区別できているはずなのだが、私にとってはタイトルで分ける小説の意味がなくなってしまう。

言い方は悪いが、ヴィヴァルディの音楽のようだ。どこをとってもヴィヴァルディだけれど、複数の曲を聴いてもどれも同じような音形に聞こえるのもまた、 ヴィヴァルディなのである。

それでもタイトルから連想される(あるいは連想はされないが連結できる)決め台詞というものはある。 たとえば、「結び付かぬもの」では、確かに結びつかない話がどんどん出てくる。 しかし、最後は主人公の長女の泣き声で結ばれる。これはちょくちょくこの小説で出てきたものだ。また「疑問符で終わる話」も、 まさに疑問符で終わる問いかけがところどころで聞かれる。そしてこの巻の後半を占める中編、「挾み撃ち」でも、そのような決め台詞がある。

小説の題名

均質な不均質、というのは小節の題名にまで及んでいる。「挾み撃ち」は後藤明生の代表作である中編そのものを指すのだが、 他の短編にもいくつか、挾み撃ちという単語が挟み込まれている。 たとえば、「結びつかぬもの」では、主人公が住んでいる団地と新興住宅地の間にある田圃がしばしば挾み撃ちに会った形と形容されていて、 その前後でもしきりに挾み撃ちということばが出てきている。 ほかにも、どれかの短編で「パンのみに非ず」というつぶやく場面が「パンのみに非ず」ではない小説にあったはずだ。

疑問符で終わる話

「疑問符で終わる話」は、 主人公の「男」がテレビを売りに来た男の名刺を握りつぶし、 そのために印刷された文字が判読できなくなったことを述べ、 次のように終わっている。

コータローだろうか? ケンタローだろうか?

この小説には、p.213 や p.230 でコータローの名前が出ていることから、解答としてはコータローだろう。 しかし、小説は解答を求めることにあるのではないから、これは意味をなさない。わたしがコータローで思い出したのは、 昔の流行歌「走れコータロー」だった。この流行歌の発売は 1970 年 5 月だ。この小説の初出は「文學界」1971 年 3 月だから、 この流行歌に影響された可能性は十分にある。一方、ケンタローのほうは判然としない。ふと清水健太郎を思い出したが、 彼ののデビューは 1976 年である。 だから、ケンタローの出どころは分からない。単にタローの韻を踏むだけように気がする。

ちなみに「疑問符で終わる話」は末尾2ページに怒らない! 怒らない!! 怒らない!!! とか、 笑って! 笑って!! 笑って!!!などと漸増的な表現が出てきていて、お茶目である。

誰?

この短編に出てくるエピソードは、エッセイの「団地の中の花」にも出てくる。 扱いを比べてみると面白いだろう。

書かれない報告

それにしても、後藤明生の小説の読後感というのは書きにくい。冒頭の 電話によるとつぜんの指名が男をおどろかせた。からして、 どう読んでいいものやら、わからない。「とつぜん」は後藤明生の登録商標だから、電話によると、つぜんの指名が……ときれるわけではなく、 電話による、突然の指名が……と読めばよいことはわかる。ただ、このバタ臭い「何が彼女をそうさせたか」式の文体は何だろう。 (2019-07-03)

なお、R団地はR県に所属している、という一文については、後藤のエッセイ「小説の場所」参照。

底本一覧

底本一覧を見ると、「誰?」、「何?」、「隣人」は文庫にはなっていないようだ。なっていれば、文庫を底本にするだろう。 文庫は通常単行本より新しく、底本としては新しいものに拠るものだから。

「書かれない報告」、「結び付かぬもの」、「疑問符で終わる話」は文庫になっている。文庫になるということは、ある程度売れる公算があった、 ということだ。これら3編は、1975 年、1979 年、1979 年となっている。これらの純文学は、当時の日本では読まれていたということだ。 そこに驚く。

「挾み撃ち」は 1998 年、講談社文芸文庫で発売された(今でも発売されているはず)。後藤明生の作品で現在でも新刊文庫で手に入れられるものは、 この「挾み撃ち」と「首塚の上のアドバルーン」だけではないだろうか。

書誌情報

書 名後藤明生コレクション2
著 者後藤 明生
発行日 年 月 日
発行元国書刊行会
定 価3000円(本体)
サイズ
ISBN978-4-336-06052-5

まりんきょ学問所 読んだ本の記録> 後藤 明生:後藤明生コレクション3


MARUYAMA Satosi