「まえがき」から引用する:
読者がテンソルを抵抗なく身につけていけるように,著者としては全力をつくして,わかりやすく書いたつもりである. しかし,読者にもひとつだけ要求したいことがある. それはほんの少しの忍耐力と好奇心を持ってほしいということである. どんなことでも,まった苦労せずに,受け身でただ話を聞いていたのでは,身につくはずがない. 出てくる式は必ず自分で書いてみてほしい. 図もできるだけ自分で考えながら紙に描いてみてほしい. テンソルの式は添字が多いので,いやになるかもしれない.そこで放り出さずにちょっと辛抱して頑張ってほしい.
テンソルが、pp.17-18 で次のように定義されている。
あるベクトル `bby` がベクトル `bbx` の関数であるとし,それを次のように書くことにする.
`bby = Tbbx`
(中略)そして `T` が線形の関数であったとき,つまり
`T(bbx_1+bbx_2) = Tbbx_1 + Tbbx_2`
`T(alphabbx) = alphaTbbx`
を満たすとき,`T` を 2 階のテンソルという.(中略)上の式はテンソルの 1 つの定義で,あとで別の(しかしもちろん同等な)定義が出てくる.
あとで出てくる定義はどんなものだろうか。pp.43-44 に答があるが、一読しただけではわかりにくい。p.43 にある (2.17) 式をみてみよう。
`T'\ _(quadj)^i = R_(quadk)^i R_j^(quadm)T_(quadm)^k`
ここで `T, T'` は添字 `i, j` で特徴づけられるある値で、`R` は座標変換を表す。`T` は座標変換の値を、`T'` は座標変換後の値を表す。この 2.17 式で変換前と変換後の値が関連付けられる量を、 2 階のテンソルという、というのが定義である。
まだまだテンソルは身についたとはいえない。というのも、出てくる式を自分でまだすべては書いていないからだろう。
p.23 には、慣性テンソル `I_(quadk)^j` の成分が次のように与えられている。
`(I_(quadk)^j) = ((int(y^2+z^2)rhodV,int(-xy)rhodV,int(-xz)rhodV),(int(-yx)rhodV,int(z^2+x^2)rhodV,int(-yz)rhodV),(int(-zx)rhodV,int(-zy)rhodV,int(x^2+y^2)rhodV))`
pp.23-24 の[例題]は次のとおりである。
3辺の長さが `a, b, c` で質量 `m` の直方体の慣性テンソルを求めよ.
解答は p.24 にあるが、ここに誤植がある。
`I_(quad1)^1 = intintint(y^2+z^2)m/(abc)dxdydz = m/(abc)(int_(-a/2)^(+2/a)dxint_(-b/2)^(+b/2)y^2dyint_(-c/2)^(+c/2)dz + int_(-a/2)^(+2/a)dxint_(-b/2)^(+b/2)dyint_(-c/2)^(+c/2)z^2dz) = (m(a^2+b^2))/12`
とあるが、正しくはこの答えは、`(m(b^2+c^2))/12` である。この少しあとに本文では次のように書かれている。
それほど面白い計算ではないが,慣性テンソルの計算を一度もやったことのない人は,鉛筆を持って自分でやってみるように.
著者に促されたので、鉛筆を持って自分でやってみた。その結果、誤植に気づいた。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | 物理とテンソル |
著者 | 中村純 |
発行日 | 1993 年 5 月 10 日初版1刷 |
発行元 | 共立出版 |
定価 | 1340 円(本体) |
サイズ | B6 版 99 ページ |
ISBN | 4-320-03303-5 |
その他 | 物理数学 One Point 3、 川口市立図書館にて借りて読む |