「はじめに」から引用する :
本書に書かれていることは,物理の諸分野に共通した概念を,数学を通してながめ直したものといえる.
「はじめに」では、
本コースとの対応で本書の紙面の都合上,『解析力学』,『量子力学』,『相対性理論』に用いられる数学は省いた.
とある。量子力学では球面調和関数など難しい数学が踊るので、触れてほしかったのが正直なところだ。
いくつか本文にある軽口がおもしろい。p.20 では、ベクトルの説明のあとで方向音痴というのはベクトルのスカラーの区別が無い人のことである.
とか、p.57 ではベクトルやテンソルの説明のあとで、ステレオ,自動車,マイコンという現代若者の
3 種の神器はベクトルではない.そして,野球チームの 9 人の 9
つの背番号はテンソルではない.
などだ。なお、本書の初版第1刷は 1983 年 3 月 14 日である。
p.95 では行列の対角化の説明のあとで、
行列の対角化という無味乾燥な数学が,
物理の問題を解くのに偉力を発揮する様子をもう一度味わってほしい.
と締めくくっている。わたしは行列の対角化を無味乾燥だとは思わず、美しいと思うのだが、
物理に役に立つのは確かに偉力だと思う。なお、威力と書くのが普通だが、
すぐれた力という意味では偉力と書くのも誤りではないようだ。
p.217 では次の記述がある。
拡散方程式によれば, “東京湾に砂糖水をたらすと,その直後にニューヨーク港の海水が少し甘くなる” (これは,物理数学のかなり有名なジョークである).
このジョークのもととなる拡散方程式は(熱伝導方程式でもある)`u_t=kappau_(x x)` である。さて、 `kappa` は何であったか。本書を見ても説明はなかった。 物理数学演習では、(`kappa` は熱拡散率) という説明があるのでほっとした。それはともかく、本書の解を見ると、遠方であっても熱(濃度)の変化は、 即時に伝わるのだ。どこか別の本で、熱や濃度が瞬時に伝わるというのは現実にはありえないから、 そのような遅延を考えるのならだ熱方程式のモデルを見直さないといけない、 ということが書いてあったような気がするが、忘れた。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | 物理のための数学 |
著者 | 和達 三樹 |
発行日 | 2016 年 4 月 5 日 47 刷 |
発行元 | 岩波書店 |
定価 | 2700 円(本体) |
サイズ | A5 版 272 ページ |
ISBN | 4-00-007650-7 |
その他 | 物理入門コース 10、 川口市立図書館にて借りて読む |
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