フォーレ:歌劇「ペネロペ」

作成日 : 1999-05-21
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1.フォーレの歌劇

フォーレが歌劇なんて作曲していたの?というのが普通の人だろう。 わたしが知ったのはヴュイエルモーズが著したフォーレの伝記からだった。

フォーレの曲は、打ち解けた間柄の人に語る親密な音楽という考えが広まっている。 また、管弦楽法はうまくないというのは自他共に認めるところであった。 だから、なぜ歌劇を作ったか、私には今一つよくわからない。 作曲家というものは報われなくとも歌劇を作りたくなるものだろうか。 シューマンシューベルトの例もある。

2.構成

もとは有名なホメロスの「オデュッセイア」。 ペネロペ(フランス語では Pénélope と綴る。 フランス語では、ペネロプ、またはペネロープという発音が近い)とは、オデュッセイアの妻の名前である。 なお、オデュッセイアはフランス語では Ulysse(ユリッセまたはウリッセ)となる。 脚本はルネ・フォーショワによる。全3幕。ごくおおまかな筋だけ記すと次の通り。

ペネロペは帰らぬ夫オデュッセイアを待っている。 いろいろ悪い男が結婚を求めていいよってくるが、 ペネロペはこの織物が織りあがったら婚約を受けるといってはぐらかしている。 ところがペネロペは昼間織っている織物を夜こっそりほどいていた。これが悪い男の一人にばれてしまう。 仕方なく、オデュッセイアが使っていた弓を使って、的を射た者がペネロペと結婚するということにした。 求婚者は次々に弓を引くが、弓の力が強くて矢が全く飛ばない。 そんなところへ身なりのぼろぼろの牧童がやってきて、自分に引かせろという。 引いてみたらばっちり命中、実は彼がオデュッセイアだった。 いいよった悪い男たちをオデュッセイアは弓でやっつけ、正義は勝った。 めでたし、めでたし。

作りはフォーレの作品の中では重厚。循環動機の使用等、ワーグナーの影響が現れている。 また使われた循環動機のうちのいくつかは、他の作品でも使用されている。

3.作品

フォーレがリキを入れて作った作品であることは確かだ。 しかし、現在は全く上演されない。 マイナーなオペラはそれが宿命である。 金がかかるから確実にもとがとれそうなレパートリーしか選ばれないのだろう。 売れるものだけを作り、サービスするのは社会の常識だが、 オペラは特に激しい。

とはいえ、CDを入手して聞いてみれば、けっこう楽しめるのではないか。彼は標題的な音楽を嫌っているが、 オペラという事情があり、曲で劇の効果を増そうとしてサービスしたところもふんだんにある。 わたしがすぐに浮かぶのが、ペネロペの機織りの糸車の動きであり、 求婚者が弓を十分にひくことができずに萎えてしまう様子である。 こんなところからでも聴いていけば、そのうちフォーレの世界に十分浸れるだろう。 わたしはまだそれほど聞き込んでいないのである。

このオペラは、終結があっけない。最弱音で終わるのでもなく、最強音で終わるのもない。 なんとなくほわーんという、どちらかというと強めの音が鳴って、はいそれでおしまいというものだ (なぜか私はそこでシベリウスの第7番の交響曲を思い出す)。こんな終わり方にフォーレはこだわった。 なんでも初演のときの劇場の支配人はもっと派手な終わらせ方をしたかったらしいが、 フォーレは頑として支配人の要求をはねつけた。 それで人気が出なかったとは思えない。しかし、オペラは悲劇で終わるもの、 という考えともあわせると、この曲の人気が出なかったのは当然のようでもある。 しかし、今は何が注目されるか、何が流行るかわかった時代ではない。

4.日本での演奏

フォーレ生誕150周年を記念して、 日本フォーレ協会の主催により演奏会形式で初演された(ただし伴奏は2台ピアノ)。 わたしはこの機会を知らなかった。聞きに行きたかった。全く惜しいことをした。
オペラは儲からんから(特に日本では、また特にマイナーな演目では)、名誉ある日本初演でも 伴奏が2台ピアノになってしまうんだよな。アマチュアオーケストラは特に東京ではたくさんあるから、 そういうところをうまく使えなかったのかな。 でも、歌い手はプロだったから、やはりアマチュアではいけないのだろう。

5.演奏について

現在は、タイトルロールをジェシー・ノーマンが演じた盤が手に入れやすい (指揮はシャルル・デュトワ、オーケストラはモンテカルロフィルハーモニック)。 私が買ったときは ERATO 2292-45405-2 という番号だったが、その後も再発されている。

また、タイトルロールをJosephine Veasey(ジョセフィン・ヴィージー)が歌った版が最近発売された (指揮デイヴィッド・ロイド=ジョーンズ)Gala というレーベル(GL 100.70)である。 こちらは多少音質が落ちる。特にテノールの一部がオフマイクのように聞こえるのが惜しい。

他にも名指揮者アンゲルブレシュトの指揮による演奏もあるらしい。

6.くだらないこと

世の中にはオペラをたくさん見ている人がいて、 そんな人たちはオペラの本をたくさん出している。その中のある本を見たところ、 このフォーレのオペラは「静謐の極」なのだそうだ。いかにオペラ一般が騒々しいものか、 おわかりだろう。私にとっての「ペネロペ」は、怒り爆発のところもある、大変な音楽である。

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MARUYAMA Satosi