「三角縁神獣鏡は魏鏡である」
「特鋳説」について
三角縁神獣鏡を卑弥呼が魏から贈られた鏡とすることにより生ずる矛盾を解決するためにいわゆる「特鋳説」を唱える学者がいる。しかしこれは仮説検証法のルール違反である。仮説の検証過程に新たな仮説を導入してはならない。しかもこの「特鋳説」には何の根拠も示されていない。これでは検証のしようがない。検証のしようがない新仮説を仮説の検証過程に導入すれば検証が終わらなくなってしまう。従ってこの新仮説については仮説そのものを棄却すべきである。
しかし多少「特鋳説」の中味を検討してみよう。
魏の朝廷は卑弥呼に贈るために(一般的な魏鏡と異なる形状の)三角縁神獣鏡を特別に鋳造したという。しかしそのために江南産の銅を取り寄せ、江南風のデザインを行ったというのはきわめて考えにくい。また三角縁神獣鏡は葬祭に使用する明器として作られたと考えられるが、魏は卑弥呼の使節の希望を聞いてデザインしたのであろうか。また卑弥呼の使節は高級な贈り物として希少な化粧道具を得る絶好の機会に墳墓に埋納する明器を注文したのであろうか。またそれが卑弥呼の時代である3世紀の古墳ではなく、4世紀以降の古墳から出土するのはなぜであろうか。このように「特鋳説」の中味は著しく合理性を欠いた物となっている。
第二の仮説は否定された。