仮面ライダーSPIRITS
 
2号編 たった一人の戦場

エピソード紹介 前編

 ニューヨーク・FBIの滝の元に、一文字の居場所が判ったとの本郷からのメールが届き、滝は内戦の続く東南アジアのガモン共和国に赴く。
 空港で声をかけてきたガイドは、滝が手にしていたNYでの一件を報じた新聞記事に目を留め、仮面ライダーを「悪魔(ディアブロ)」と呼ぶ。戦場に現れては敵味方の区別なく大量虐殺をしている化け物。それは血に濡れた紅い拳をしているため、「紅い拳の悪魔」と呼ばれているという。
 折しも、護送されていくクーデター首謀者・グィン将軍を奪還しようと、ゲリラ達が目の前で銃撃戦を始める。ガイドもゲリラの一員であった。しかし脱出したグィン将軍は国軍に射殺される。大義名分を振りかざしては市民を巻き込んで殺し合う両軍に、滝は怒りを露わにする。

 診療所として使われている寺に負傷者を運び込んだ滝は、そこで日本人の女医・真美と、そこで生気のない子供達にカメラを向ける男── 一文字隼人に出会う。
 滝は、本郷の言う新たな敵の存在を告げるが、一文字は「そっちの方はヨロシク頼むわ」と取り合わず、2号ライダーと同じ紅い拳の「悪魔」との関わりを問い質すもはぐらかされてしまう。滝も一文字とともに診療所で負傷者の手当や炊き出しを手伝うことになるが…。
「一文字は世界を救える男だぜ。こんな所でメシの炊き出しなんてやってるヤツじゃねーだろが」
「昔の事はよく知らないケド……彼は彼なりなのよ。放っといてやったら」
 文句をこぼす滝に、女医・真美は一文字の撮った写真を見せる。この国の子供達の写真。そこには笑顔の写真は一枚もない。診療所に居る子供達はみな、この内戦の中で目の前で親を殺され、殺し合いを続ける大人達を信じることができなくなったのだという。
 一方、眠りについた子供達の寝顔を見守る一文字。
 思い出す光景。焼かれた村の中には、銃でも刃物でもなく、力任せに引きちぎられたような無惨な死体が無数に転がっていた。立ちつくす2号ライダーを目にして子供達は恐怖で顔を歪ませる。
(───違う!! 俺じゃあない!!)

 その時、避難区の近くから銃声が聞こえる。
「あんたたち互いに正義とか悪とか言って人をキズつけて‥‥‥子供たちにとったら殺し合う人はみんな悪魔だわ!!」銃撃に向かって叫ぶ真美。
 一文字は、身を寄せ合って脅える子供達を宥めようとするが、その顔を見て子供達は悲鳴をあげた。一文字の顔には大きな傷跡が浮かび上がっていたのだった。咄嗟に顔を押さえて飛び出す一文字。
「殺しちゃいない。俺は兵士を殺してなんか‥‥‥
 しかし‥‥‥このツラ あいつらにとっちゃ俺もただの悪魔かもな‥‥‥」
「フン‥‥‥悪魔でいいよ‥‥‥機械の詰まった悪魔でな‥‥‥
 それでも‥‥‥俺は‥‥‥あいつらに‥‥‥」
 診療所を飛び出してバイクを走らせる一文字は、あの引きちぎられたような兵士の死体を目にする。

 寺院に迫る戦車とゲリラ兵。滝はその前に立ちはだかり、怪我人と子供しか居ないと主張する。
「フム‥‥まさに人道に反する行為だ。ゆえにそのインパクトは実にいい宣伝になる」
 そう言って戦車から現れたのは、空港で射殺されたはずのグィン将軍だった。そしてゲリラ兵に似つかぬ最新の武装を目にして、滝はその背後に疑念を持つ。グィン将軍が口にした「神に見放された人々」。それはあの神父が口にした言葉であった。滝に銃口を向けながらも「殺してくれ」と言うゲリラ兵。それがあの空港のガイドと認め、滝は弾装ナックルをゲリラ兵に叩きつける。が、その顔の下からは改造人間のマスクがあらわれた。
 敵の正体を知った滝と子供達に向けて戦車砲が発射されたその時、赤い拳がその砲弾を砕いた!
 白煙の中から姿を現したのは仮面ライダー2号。歓呼の声をあげる滝とは対照的に、真美や子供達は一文字の正体を知って恐怖に脅える。
「ほほぉ‥‥いい性能だな。キサマの作戦目的とIDは!?」
 将軍の問いに、敢然と歩み寄りながら2号は答える。「正義 仮面ライダー2号」

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エピソード紹介 後編

 2号は自分の身体を盾に銃撃から子供達をかばうと、迫り来る改造人間兵士を相手に常人離れした戦いをくりひろげる。困惑する真美に滝は語る。
「確かにあの姿になったあいつは、あの兵士達と同じバケモンかもしれねえ。
 しかしよ‥‥一文字の心は人間のままなんだよ‥‥」
「あいつは怒りのスイッチが入ると顔面にキズが浮かびあがる‥‥改造手術の名残でな‥‥」
「あいつはそれを見られるのをキラった‥‥異形の証を‥‥
 平気じゃねえんだ、あいつは‥‥一文字は‥‥どうしようもないくらい人間なんだよ!!」
 2号ライダーと戦いながらも、改造人間兵士たちは「殺してくれ」と言いながら涙を流す。彼らに引導を渡すように、2号はライダーパンチ、ライダーチョップを叩き込む。
(お前たちは 人間だ‥‥ 人間だ‥‥)
 だが、グィン将軍は兵士達の意識が自分の命令を拒むことを不思議がるのだった。
「まあだ ココのイジり方が足らんという事かな
 いや‥‥はなっからスベテこそぎ出して一から作ってやるべきだったか‥‥‥」
 その人を人とも思わぬ将軍に怒りを爆発させ、ライダーキックを放つ2号だったが、将軍はクモ型改造人間の本性を見せると、口から吐いた糸で2号の身体を絡め取る。滝もまた将軍の攻撃に倒れる。
「クク‥‥何が赤い拳の悪魔だ。ヤツはただ、両軍の兵士から武装を奪い、戦闘をやめさせた時にそう言われていただけの事だ」
 がんじがらめにされた2号の身体は寺院の建物に叩きつけられ、砲撃を受けて瓦礫の下に埋もれる。
 一文字の真相を知った真美も、将軍が脊髄に突き立てた糸によって身体の自由を奪われる。

 制圧した寺院内で、将軍=クモロイドは真美の手で子供達を生きた爆雷へと改造させようとしていた。意識は抗い、助けを呼びながらも、真美の手がクモの巣に捕らわれた子供に伸びる。
「助けになど来ない‥‥誰もな‥‥ おとなしく弱者は強者の糧となれ」
「やなこった この六角形が!! 腕ずくなんてよ テメエこそよっぽど弱者だぜ!!」
 巨大な仏像の上から見下ろす将軍=クモロイドの頭を、背後から踏みつけたのは一文字隼人だった。滝も
駆けつけ、糸を引き抜いて真美を救い出す。滝は、重症を負っている一文字の身を案じるが──
 クモの巣を破って囚われの子供達を解放した一文字は、顔に傷跡を浮かび上がらせながらも、限りなく優しい顔で微笑む。
「‥‥‥なあ聞いてくれるか‥‥お・れ・は・み・か・た・だ」
 そして子供達の目の前で変身してみせる。空高く跳躍する2号ライダーを見つめる子供達。
 滝は真美に語りかけるのだった。
「なあ‥‥信じてみねえか。たとえ神も仏もいなかったとしても‥‥‥‥仮面ライダーはいる‥‥ってな」
 無数の改造人間兵士達をなぎ倒し、戦車を持ち上げ、猛然と戦う2号。その2号の戦いぶりを子供達は夢中で見つめていた。やがて夜が明け、子供達が見守る中、2号は唯一人残ったクモロイドと対峙する。捻りを加えたライダー卍キックは迎え撃つクモロイドの糸を突き破り、クモロイドを撃破した。
 満身創痍の一文字が振り向くと、子供達は笑顔で駆け寄ってくる。それを見て一文字も破顔一笑。
「やっと‥‥‥笑ったなあ」

 グィン将軍が行方不明となり、内戦も治まりつつあった。真美を訪ねてきた医大の友人は元気な子供達の歓迎に驚く。「前 話していたカメラマンの人は?」との問いに、真美は首に巻いたマフラーを撫でながら答える。
「行っちゃったわ 行かなきゃなんない所がたくさんある人だから‥‥」
 壁には、はしゃぐ子供達に囲まれた一文字と滝の写真が残されていた。


感想
 3回くらいマジ泣きしました。変身シーン。最近は散々読んで耐性つきましたけど、油断すると泣きます。個人的にはベストオブ変身シーンは2号編。
 単行本で初めて知ったものですから、1号編に続いて無理なく現代的な舞台に仮面ライダーの後日談をもってきたなーなどと思って読んでいましたが、「なるほど、『改造人間』という仮面ライダーのテーマってこれなんだ!」と、さらに引き込ませてくれた話。熱い名台詞の連続ですが、中でも滝の、「信じてみねえか、たとえ神も仏もいなかったとしても、仮面ライダーはいる…ってな」の台詞は、この『〜SPIRITS』のテーマそのものだったりするんじゃないか…?とも感じられるような。
 また、この回は決め技の卍キックがインパクト大! 村枝氏の、陰影のコントラストで魅せる絵は『RED』などでも印象深かったのですが、卍キックの見開きは、まさに映像の1シーンを切り抜いたような鮮烈な構図に、しばらくページ開いたまま固まって見惚れていました。(いや、大変失礼な言い様ながら、『光路郎』から見てきている村枝ファンなのですけど、村枝さんってこんなに絵が巧い人だったんだ!!と実感したシーンなんです(汗))
 村枝氏自身がお気に入りのライダーだという2号編。ファンの評価も特に高いようで、また、うっかり2号のコスチュームの胴体脇にラインを入れてしまい単行本で消した…などのこだわりの逸話が残っていたり(そういやスカイの客演2号は、黒マスクでもって脇にライン入っているけど不思議に思わなかったよ…)、ZXを知る人は改造人間兵士のデザインから早くもZXへの伏線に気が付いていたようですし、マガジンZの企画ページで紹介されていたように「怒りで手術跡のキズが浮かぶ」は石ノ森版の原作漫画の設定…と、何かと話題を呼んだエピソードのようですね。


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