仮面ライダーSPIRITS
 
V3編 熱砂のプライド

エピソード紹介 前編

 舞台はエジプト。砂中から次々と襲い来るミイラ・ゾンビの改造人間。群がる魔人の群をV3の逆ダブルタイフーンが跡形もなく消し飛ばす。全エネルギーを放出し、変身の解けた仮面ライダーV3──風見志郎の前に、サングラスの若い男が現れる。

 3日前。風見志郎は行方不明となった発掘調査隊の手がかりを探していた。唯一の生き残りである、正気を失った現地ガイドから聞き出せたのは「アヌビスの呪い」「黒いピラミッド」という言葉のみ──それを盗み聞いていた人物が、墓荒らし・ベガだった。

 何か狙いがあるらしいベガは今また風見の行く先に現れ、その時、二人の目の前で、逆ダブルタイフーンが起こした竜巻によって黒いピラミッドが姿を現した。V3の戦いを目にしていたらしいベガは、にもかかわらず平然と、半ば強引に風見に同行してピラミッド内部へ侵入する。
 ベガは、自分は代々墓荒らしの“盗掘者の村”の出身だと語り、そこで伝わる伝承によると、黒いピラミッドにはデカいお宝──「不死の力」「蘇りの術」が隠されているのだと言う。
「そいつをモノにすれば、俺の親や兄弟も一生安泰ってワケよ」
  と上機嫌のベガに、意表を突かれた様子の風見。
「いや‥‥お前みたいなのにも家族がいるんだなと思ってな」
 自分と組んでピラミッド探索をしないかと持ちかけるベガだったが、風見は取り合わない。
 が、突然ベガを突き飛ばすと、次の瞬間、風見の身体は投槍に貫かれていた。奥から襲い来るのはあの改造ミイラの集団。逆ダブルタイフーンの影響によりあと二時間は変身不能──深手を負った風見は、それでも独り戦おうとする。
「なんてヤツだ。未練はねえのか!? これっきりになっちまう身内はよ‥‥」
「身内‥‥ ‥‥ いないね。俺は守れなかった‥‥‥お前は守ってやれ」

 ベガを逃がし、孤軍奮闘する風見はミイラの大群に追いつめられる。
 が、その時、ピラミッド内に空飛ぶ舟が現れミイラ達を制止した。その舟に乗るのは、ジャッカルの頭を持つ墓地の守護神・アヌビス神の扮装をした女性。
 「心を開き 魂を冥界へといざないなさい」アヌビス神の言葉に導かれるように、風見は亡き両親と妹の幻影を見るのだった──

[後編へ]

エピソード紹介 後編

 目の前でハサミジャガーに父、母、そして妹が惨殺された時の光景が、風見の脳裏に甦る。
──仮面ライダー 力を‥‥ 頼む俺を‥ 俺を改造人間にしてくれ!!──

 ピラミッド内、死の淵で再開した両親と妹は、優しく微笑みかけ手をさしのべてきた。
(こいって‥‥いうのか‥‥また‥‥四人いっしょに‥‥)
 涙を浮かべ、妹・雪子の手を取る風見だったが、自分の背後に立つ影に気付く。
 それは、自分のもう一つの姿「仮面ライダーV3」……

 風見が目を覚ますと、そこはピラミッド内に浮かぶ舟の中だった。傍らに立つのはジャッカルの被り物を脱いだ古代エジプト服の女性。王妃と名乗った女性は、風見を「ファラオ」と呼んで口づける。その硬い感触で風見は彼女が機械だと気づいた。
 その時ピラミッド内で、行方不明となっていた発掘調査団に「不死の儀式」が施されようとする。そうして改造された者があのミイラの改造人間と知り、風見は儀式を止めに入るが、未だ変身できない風見は簡単に取り押さえられてしまう。が、代わって発掘調査団の人々を逃がしたのは、物陰に潜んでいたベガだった。
 三千年前に王を失った王妃は、“完全ナル者”より「王の復活の時が来れば、王にふさわしい身体を持った男が訪れる、ふさわしくない者は王の復活に備えて兵士にせよ」との啓示を受け、アヌビス神となって王を待ち続けていたのだと語った。
「三千年デスヨ‥‥永カッタ‥‥淋シカッタ‥‥」
 そう言って涙を流す王妃だったが、風見は王妃を突き放す。
「ファラオだと‥‥そんなモノのために何人をさらって‥‥そしてバケモノにした。俺の望む世界には王も兵士もいらん」
 その言葉を聞いた王妃は、配下の“ミイラ師”に命じて風見に脳改造のマスクを被せる。
「王ノ記憶ヲ受ケ入レヨ‥‥ソシテ、カザミ・シロウノ魂ヨ‥‥愛スル者ノスム冥界ヘトユケ」

 ──家族と再会し、一度は雪子の手を取った風見志郎だったが、握ったその手を離す。
「ゴメンな‥‥雪子‥‥‥ 俺はまだいけないよ‥‥」
 ──── 変 身‥‥ V3 ────
 涙を流しながら変身する風見に、雪子は一旦寂しそうな顔を見せたが、笑顔で頷くのだった。
 突如爆発した“ミイラ師”のマスクの下から現れたのは仮面ライダーV3。
「フン‥‥‥三時間‥‥たったか」
 そのV3の目元には涙が浮かんでいた。

 その時、舟のさらに上空に浮かぶ人物。
「チッ‥‥うまく洗脳できればつかえる相棒にと思ったが‥‥」
 それは背中に鳥の翼を生やしたベガだった。ベガの放った羽を受けて王妃は倒れる。「王の想い出、王妃としての記憶、全部作り話さ。ごくろうさんよ」。タカ型改造人間の正体を現したベガは、王妃とピラミッドの真実を語った。黒いピラミッドは改造人間のプラント、王妃はその製造プログラムであり、ベガの真の目的は製造された3万体の兵士の回収であった。ベガ=タカロイドはV3を組織へ誘う。
「カザミ‥‥俺と来いよ。お前なら俺同様“愛されし民”になれるぜ」
「キサマらは三千年‥‥かけて王妃
(プログラム)に悲しみを与え、涙を流させた。死者を‥‥そして残された者の心を利用した。そんなキサマらの愛などいらん!!」
 V3キックを放つものの、自由に空を飛び回る敵に翻弄されるV3。だがその時、王妃のコントロールにより兵士達がプラント中枢を破壊した。タカロイドは怒りにまかせ王妃にとどめを刺してピラミッドを脱出する。
「ニ‥ゲ‥‥テ ファ‥ラ‥オ」破壊された王妃は、最後まで風見の身を案じていた。

 崩壊するピラミッドから飛び立ったタカロイドの前に、無人走行するV3の愛機・ハリケーンが現れる。背後には、死んだと思っていたV3と調査隊を乗せた舟が月を背に浮かんでいた。王妃は最後の力で舟を操り、V3達を脱出させたのであった。舟から跳躍するV3に合わせてジャンプするハリケーン。空中でハリケーンを足場にし、タイヤの回転を利用して、高速旋回するV3がタカロイドに迫る。ブーメラン状の動きで逃げるタカロイドを追いつめ、V3マッハキックがタカロイドの身体を両断した!!

 撃墜されたタカロイドは、ベガの姿に戻り、虫の息だった。
「どうだい途中までは、俺にまんまとはめられたろうがよ」
「家族の話、あれもか?」
「へ‥‥いや‥ありゃあ‥本当さ」
 墓荒らしの家系に生まれたベガは、家族が危険な仕事を続けずに済むように組織に肉体を売ったのだという。
だがその後の家族がどうなったかは知らないというベガに、風見は会っていないのかと問いかける。
「ケ‥‥会えるかよ。こんな身体で。あんたもそうだろう。カザ‥‥‥ミ‥‥」
 そして息絶えたベガに答えるように風見は言う。
「かも‥‥な。だが‥‥今はこの体が俺のブライドだ」
 歩み去る風見の足下に伸びる影、そのシルエットは「仮面ライダーV3」──。


感想

 現代的な1、2号編とは趣変わってピラミッドという舞台のせいか、あるいは滝の視点でないせいか、最初に単行本を読んだときにはちょっと物足りなさがあったエピソードなのですが、TVシリーズとの接点は深い話だったのですね。ライダーマン編やストロンガー編はそのまま「TVの後日談」的なシナリオなので別にすると、原作の設定を活かして『SPIRITS』オリジナルなエピソードを見せてくれたのがV3編と思います。(同様のスタンスがX編、スーパー1編?) また、エジプトという舞台が1975年の「7人ライダー」時の居場所だったり、改造ミイラのデザインはマシーン大元帥と共通性があったりと、判る人にはTVシリーズとの繋がりを意識させる点が多かったようですね。(勿論、私は後から原作を追いかけだしてから分かった訳で。でもって、考えてみれば1号編からちゃんと7人ライダーに準拠した舞台になっていたのだけど)
 単行本を初めて読んだ時点では、V3については、人から「3号は1、2号に改造された」と聞いただけの知識しかなかったので、その経緯も判ってなおかつ違和感なく読めたのですが、後からゲーム版の再現エピソードで「おや、そう影があるタイプでもないのか」と印象が変わり、そう間をおかず原作番組を見てさらに印象が変わりまくり……どうもイメージが馴染むまでに時間がかかりました(苦笑)
 しかし、今にして我ながら思うと、1、2号編を読んだだけだったら、「現代版の仮面ライダーで読みやすい」と昔の番組まで見ようとは思わず、原作シーンを再現したV3編があったからこそ元の番組も観てみたいと思えたのではないかという気がします。
まあ「V3」はライダーマンの影響が大だったのでしたが。
 
特に、後編冒頭の「背後に立つV3」が印象的。台詞こそありませんが、家族の元に逝こうとする風見に「それでいいのか?」と問いかけるように。あるいは、逃れられない宿命を示すかのように。改造人間の宿命の重さを最も感じさせたシーンでした。

 もう1つ、V3編から大きな影響を受けたのが、満月をバックに見開きのマッハキック!! TOPページで言っている「仮面ライダーってこんなにカッコイイものだったのか!!」と衝撃を受けた「目からウロコ大賞」がこれです。2号編の見開きも良かったのですが、それはどちらかというと絵としての構図やコントラストの素晴らしさで惹かれたもので、今回のマッハキックは必殺技の格好良さとして痺れました。ちなみに、やはり自分同様「仮面ライダー」を知らない人に薦める際に、まず試しに見せてみるのも見開きマッハキックのページ。大抵の人が「おおーっ!」と言ってくれます。


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