本文へスキップ

自動車部品・厨房機器・建材部品のプレス金型
プログレッシブ金型・トランスファー金型・タンデム金型の設計・製作
株式会社三藤機械製作所

TEL. 0276-73-4811

〒374-0052 群馬県館林市栄町16-1

博士論文-論文要旨CONCEPT

論文要旨

携帯電話やノートパソコンなどの携帯情報端末を中心とする電気・電子機器は小型化・高性能化が実現し急激に普及している.今後さらに機器の小型化・高性能化の要求が強まり,製造技術の向上が必要になると考えられる.

これらの機器には主要部品としてプリント基板が内装されている.プリント基板にはコンデンサや抵抗器などの電子部品が搭載され,導電性の配線パターンにより電気的接続を行い機器の機能が実行される.プリント基板の製造過程の中でも基板の表裏の導通を行うためのスルーホール加工は,機器の中枢機能を担う回路を形成するため特に重要な工程である.近年では機器の小型化・高性能化に伴い,プリント基板に搭載される部品数が増加し実装密度が高くなるため,また,スルーホールの小径化及びファインピッチ化が進み,高い電気的接続の信頼性を確保するため,より精密な加工が要求される.

プリント基板は絶縁材料として高強度で軽量であるガラス繊維強化プラスチック(GFRP)が主として用いられ,その中でもガラスクロス基材エポキシ樹脂積層板が多用される.GFRPはガラス繊維とエポキシ樹脂という全く特性の異なる材料から構成されるため,ドリル加工を行うとガラス繊維とエポキシ樹脂の被削性の差により加工表面及び内部に大きな損傷が生じる.特に縦糸と横糸から成るガラスクロスを強化材とした積層板の加工では,切削部で繊維の掘り起こしが生じる箇所と生じない箇所が隣接して発生するため加工表面の粗さが悪化する.そのため,プリント基板製造のスルーホール加工の次工程であるメッキ工程でメッキ膜の不連続やメッキ密着性の低下などの不具合が生じる.また,スルーホールメッキされた銅が穴壁面からガラス繊維に沿って進行するイオンマイグレーションも重大な問題とされており,内部損傷によりイオンマイグレーションがさらに誘発され,異なる導体間を接続する危険性が指摘されている.いずれの損傷も機器の故障の原因となり電気的信頼性を著しく低下させるため,スルーホール加工技術の改善が求められている.

構造部品としてのGFRPの機械的特性については過去に非常に多く研究されているが,それらに比べ機械加工についての研究は少ない.機械加工の研究の中でも小径ドリル加工について調査しているものは,技術の向上が求められているにも拘わらず非常に少ない.GFRPの機械加工については加工表面の調査を中心とする研究が過去になされており,切削方向と繊維方向に着目した表面状態についての研究が僅かに行われただけで,詳細な基礎的データが不足している.また,ドリル加工時のガラス繊維とエポキシ樹脂のはく離による内部損傷についての研究は皆無に等しくその評価方法も確立されていない.

以上のようにプリント基板のスルーホールドリル加工は,加工穴の品質について詳細に調査されずに行われているのが現状である.そこで,本論文ではプリント基板の小径ドリル加工における加工穴品質の向上を目指し,加工表面の損傷に加え内部損傷の新しい評価方法を提案しその手法を用いて損傷メカニズムを解明することを目的としている.

本論文は全8章から構成されており,以下に本研究によって得られた成果を各章ごとに記述する.

第1章では,本研究の目的とその背景について述べる.

第2章では,プリント基板の加工穴周辺に発生する内部損傷を評価するため,評価システムを提案し確立する.
まず,ガラスクロス基材エポキシ樹脂一層材の光透過性に着目し,画像処理を用いた内部損傷の評価システムの処理方法について説明する.次に,ガラスクロス基材エポキシ樹脂積層板の加工穴周辺に発生する内部損傷の評価に本システムを使用することで,発生形態が明確に観察され,高精度で定量的かつ統計的に内部損傷の測定が可能となり,本システムが内部損傷の評価に有効であることを述べている.

第3章では,加工穴品質として表面粗さを取り上げ,切削条件が表面粗さに及ぼす影響について調査している.まず,加工穴壁面の電子顕微鏡写真を観察し穴壁面の位置による損傷状態の違いを確認し,ドリル送り方向の最大表面粗さを測定している.次に,切削条件を変化させた時の加工穴壁面の損傷状態を観察し最大表面粗さを測定した結果,切削速度よりも送り量が加工穴壁面の損傷に大きく影響を及ぼし,送り量の増加に伴い表面粗さが増大することを明らかにしている.さらに,GFRPのドリル加工のメカニズムを解明するために,加工時の切削抵抗,特にドリル送り方向の切削力であるスラスト力を測定しその特徴を検討した結果,スラスト力を静的成分と動的成分に分けることにより,切削抵抗と表面粗さとの関係を評価でき,切削抵抗の動的成分が表面粗さに大きく影響することを示している.

第4章では,切削方向と繊維方向の関係に着目して,一層材の加工穴周辺に発生する内部損傷の形態の特徴を調査している.まず,一層材の顕微鏡写真を観察し,第2章で構築した評価システムを利用して切削条件が内部損傷に及ぼす影響について調べている.その結果,内部損傷は切削速度よりも送り量に影響され,送り量が増加すると内部損傷は増大し,加工穴周辺に均一に発生するのではなく異方性を有する発生形態となることを示している.また,加工穴品質の信頼性の一指標として内部損傷のばらつき度合いを取り上げ,切削条件が内部損傷のばらつきに及ぼす影響について調査した結果,送り量を低く設定することが内部損傷のばらつきの低減に有効であることを明らかにしている.

第5章では,第4章で示した内部損傷の発生形態がばらつく原因について検討している.まず,ドリル中心と繊維束の相対位置によって,穴周辺の大きく内部損傷が発生する場所が異なるという特徴があり,これにより内部損傷の発生形態がばらつくことを明らかにしている.また,内部損傷が大きく発生する場所が繊維束の厚さが最も大きい場所であることから,内部損傷に影響する要因として,第4章でも述べた切削方向と繊維方向との関係に加え,切削部の繊維束厚さに着眼し内部損傷との関係を調査している.その結果,繊維束厚さが大きくなるほど内部損傷が増加することを明らかにしている.さらに,繊維束の厚さが異なる材料をドリル加工し,内部損傷と繊維束の切削回数(繊維束厚さと送り量の比)の関係について調べた結果,内部損傷は繊維束の切削回数に比例し,その増加割合は送り量の1.5乗に比例することを示している.またこの結果により,内部損傷は繊維束厚さと送り量の0.5乗に比例することを明らかにし,この知見により材料に対する最適な切削条件の設定や,プリント基板に適した材料開発が可能となることを示している.

第6章では,前章までは損傷について材料側からの考察をしており,工具に関しては考慮していないため,加工時のスラスト力とドリル加工中の工具位置の関係を時間的に詳細に調べ,内部損傷との因果関係について検討している.その結果,スラスト力にはドリル1回転あたり4つの極大値が存在しており,加工穴周辺に発生する内部損傷に関連があることを明らかにしている.また,ドリル加工時のガラス繊維とエポキシ樹脂の積層構成に注目し,損傷を受ける繊維が樹脂の上部及び下部にある場合の損傷の深さについて有限要素法により解析した結果,損傷を受ける繊維が上部にある時の損傷の方が大きくなることを示している.さらに,内部損傷の発生の要因となるドリルの部位を特定するために,急停止実験を行った時の内部損傷の発生形態を観察した結果,工具の肩部により内部損傷が大きく発生することを明らかにしている.そして,工具肩部形状の違いによる切削抵抗の変化と内部損傷への影響について示し,加工中の工具と繊維との関係から壁面生成繊維の概念を提案し,この概念により内部損傷を低減する最適な工具形状の設計指針を明らかにしている.

第7章では,工具摩耗が加工穴品質に及ぼす影響について考察している.第2章〜第6章までは加工回数初期段階での加工穴品質の評価のみであり,工具摩耗については考慮していないが,実際のプリント基板の加工では1工具で膨大な数の加工が行われ,接触加工であるために工具摩耗による加工穴品質の変化は避けられない.そこで,加工回数初期段階の評価に加え加工穴数の増加による切削抵抗の変化,工具摩耗及び内部損傷について調査している.その結果,GFRPのドリル加工における工具摩耗の形態は加工穴数よりも切れ刃の円周方向の切削距離が大きく影響することを示している.次に,ドリル摩耗とスラスト力の特徴を考察した結果,工具摩耗の変化をスラスト力の静的成分で評価できることを明らかにしている.また,工具摩耗による内部損傷への影響は工具形状の変化が主体であり第6章で提案した壁面生成繊維の概念で捉えることができることを述べている.さらに,長寿命化及び高い耐摩耗性に優れているダイヤモンドコートドリルを使用して従来のコート無しドリルとの比較検討を行っている.その結果,ダイヤモンドコートドリルによる加工では,コート膜による工具肩部の僅かな丸みのために,加工穴数初期段階では加工穴品質はコート無しドリルと比べ若干悪化するが,加工穴数が増加すると非常に優れた耐摩耗性により初期の加工穴品質を維持すること示している.

第8章では,本研究で得られた成果を総括し結論としている.


バナースペース

株式会社三藤機械製作所

〒374-0052
群馬県館林市栄町16-1

TEL 0276-73-4811
FAX 0276-73-4813
e-mail nobe@h.email.ne.jp