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(1999.春) |
3月5日から4月6日まで『キッスだけでいいわ』旅公演で、中国地方をまわってきました。なんと私は、今回の旅ではじめて故郷の岡山で公演する機会に恵まれまれたのです。劇団に入団して以来、まったく岡山に縁がなく、他の劇団員の故郷公演をいつも羨ましくながめていただけに、今回の公演は待ちに待ったものだったのです。
3月27日広島の呉市から劇団バスに乗って岡山まで移動中、だんだん窓からの景色が見慣れたものに変わっていくに従って、心がワクワクしてくるのです。「あ!あれは幼稚園の時遠足で行った恐竜のすべり台のあった遊園地だ!」「あそこにわたしの通っていた高校があるのよ」「そうそうここの道を歩いて通学してたのよ」・・・・いつの間にか目に映る町並のあれやこれやを、まわりに座っている劇団員に解説していました。
駅前のホテルに到着し、劇団員が一人一人バスから岡山の町に降りていく姿を見たときに、「あ!青年劇場の人が岡山に来たんだ。私どうやってみんなを迎えよう・・・なんとかしなくちゃ・・・」うれしい気持ちと重なって私自身が岡山の人間になっていたのです。ほんとうにこの場所でなければ、味わう事の出来ない不思議な感覚でした。
その日は実家に帰って母親と一緒に差し入れの「ばら寿司」をつくりました。「いつ来れるかと思っていたけど、来てみれば早かったね」「本当じゃあー、でもあんたこの家におった時より東京におるほうが長くたったんじゃないん?」。そんなことを話しながらの母親との寿司作りは、夜中の1時にまでおよびましたが本当にたのしいひとときでうれしい疲れでした。
3月29日から3日間の予定で岡山市民劇場での公演が始まりました。開幕から芝居はとても好評でした。30日の夜の公演のカーテンコールのことです。挨拶をしている森三平太さんから私の紹介があり、一言どうぞと言われました。前に進み出て言ったことは、「青年劇場に入団してお芝居の仕事をつづけるなかで、『いつか故郷の岡山で舞台に立ちたいな・・・』、これが私の一つの夢でした。今日こうして皆様の前でお芝居が出来た事を、とてもうれしく、私自身感動しています。またいつかお会いできたらいいなと思います。ありがとうございました」。緊張のあまり足はガタガタふるえるありさまでした。

故郷の公演で、『キッスだけでいいわ』という芝居がうったえる人と人とのつながりの大切さ、素晴らしさをあらためて感じました。初演以来7年間多くの方に愛されつづけてきた『キッスだけでいいわ』、これが最後の旅公演でした。今ではセットも処分してしまいました。本当にありがとう、そしておつかれさまでした。
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