しま(4万)った…って、やっぱりかい(^^;
第66話:しまった!
 「しまった!」
 準は叫び声をあげました。
 朝です。準はふとんの上にうつぶせで寝ていたのです。
 左足で掛け布団をはねのけ、準は上体を少し起こしました。おへその下あたりで、ふとんがぐちゅっと音を立てます。パンツもズボンもシャツも濡れています…。準はわざわざ手で触ってみるまでもなく、はぁっとため息をつきました。
 「あーあ、またやっちゃった」
 準がばったりとふとんに倒れ込むと、そこにくまちゃんのぬいぐるみがありました。
 「ぼくがおしっこしたそうだったら、起こしてくれなきゃだめでしょ」
 準はそう言うと、くまちゃんの頭をぽかっとたたきました。

 「お母さーん」
 準は台所に行くと、お母さんの背中に声をかけました。
 「おはよう…あら、まあっ」
 お母さんが振り返ると、そこにびしょびしょの服を着た準が立っています。
 「もう、どうしてあなたは着替えて寝ないの」
 ずぼらな準は、時々パジャマに着替えないで寝ることがあります。ゆうべもよそ行きのまま寝てしまったのですが、よりによってこんな時におねしょをしてしまったのでした。
 「寝る前にトイレに行かなかったでしょ。新学期が始まったんだから、きちんとした生活を送らないとだめよ。さあ、早く着替えなさい。学校遅れるわよ」
 「はぁい。ごめんなさい…」
 準は情けない声で言うと、脱衣所へ行って濡れた服を脱ぎ、体を拭いて学校の制服に着替えました。


 昼休みです。準はひとりで学校の図書室に来ました。準はそんなに読書家ではないのですが、よく図書室は利用します。宇宙や星の図鑑を見たり、いろんな地方の地図を眺めたりして時間を過ごします。大好きなお話や物語は、同じ本を何度も読み返したりするのです。
 でも、今日図書室に来たのは、特に目的があったわけではありません。今朝の大失敗がずっと心に引っかかって、友だちと遊ぶ気になれなかったのです。準は見るとはなしに、書架の背表紙を見て回りました。

 「!」
 準の目が、一冊の本に止まりました。その本のタイトルは『ねしょんべんものがたり』。準はそっとその本に手を伸ばすと、図書室の隅の方の机に座って、どきどきしながらページを開きました。
 その本は、名だたる児童文学作家の先生方が、子どもの頃のおねしょの体験談を綴った本なのですが、準は今までそんな本があるなんて知らなかったのです。今朝だけでなく、身に覚えのいっぱいある準は、少し興奮しながら『ねしょんべんものがたり』を読みました。
 とても昼休みだけでは読み切れないのですが、準は恥ずかしくてどうしても『ねしょんべんものがたり』を借りて帰ることができませんでした。翌日の昼休みも、準はこっそり図書室に来て、『ねしょんべんものがたり』を読みました。

 そんな日が2、3日続いたある日、準が『ねしょんべんものがたり』を読みふけっていると、背後から声がしました。
 「何読んでるの?」
 どきっとして振り向くと、クラスメートが三人立っています。
 「な、何でもないよ」
 準はあわてて隠そうとしましたが、一人に取り上げられてしまいました。
 「おまえ、まだねしょんべんやってるの?」
 「そ、そんなことないよ…」
 「ハハハハ。まあいいや。最近姿が見えないから、どうしたのかなと思っていたんだ。たまにはいっしょに遊ぼうぜ」
 「うん…」
 別におねしょをしていることがばれたわけじゃないし、何を読んでてもいいのですが、なぜか恥ずかしいところを見られた気がしました。準ははぁっとため息をつくと、『ねしょんべんものがたり』を書架に戻して、図書室をあとにしました。

 その晩、準は夢を見ました。
 (物語はこちらへ続く) 

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