しりもちついて雪の上におもらしした準
第65話:雪の朝…
 準は目を覚ましました。
 今日は休日。時計を見ると7時前です。
 準は、がばっと跳ね起きると、カーテンを開けて外を見ました。
 「わーっ、雪が降ってる!」

 一面の銀世界です。ゆうべ、お父さんが天気予報を見て、もしかしたら降るかもしれないと言っていたので、期待していたのでした。
 準はパジャマを脱ぎ捨てて服を着替えました。そして、階段を下りると、台所のお母さんに報告しました。
 「お母さんおはよう。雪が降ってるよーっ」
 「おはよう。あら、早いのね。いつもはお寝坊なのに」
 「うん」
 準はお皿を持ち出すと、庭から雪を取ってきて盛りつけました。そして、それに砂糖をかけました。
 「かき氷だよ」
 「またそんなことやってる。おなかこわしても知らないわよ」
 「平気だもん。いっただっきまぁす」
 準はぺろりと雪を平らげました。
 「ねえ、ちょっと公園に行って来ていい?」
 準は雪だるまをつくりたかったのですが、狭い庭の雪だけでは無理のようです。 
 「いいけど、もう朝ご飯にするから、すぐ帰ってくるのよ」
 「はーい」
 「それと、寒いからジャンパーを着て行きなさい」
 「はーい」
 準はとてもいい返事をすると、ジャンパーを羽織って、表へ出ました。

 準は、まだ人通りの少ない道を歩いています。積雪はわずか数センチですが、 いつものまちもなんだか違って見えます。準は、わくわくしながら公園に着きました。
 準はまだ誰もいない公園で、早速雪だるまを作り始めました。小さな雪玉をころころと転がすのですが、なかなかうまくいきません。これくらいの雪では、すぐ地面が現れて、茶色い雪だるまになってしまうのです。
 準は、ふうっ、とため気をつきました。そして、あることに気づきました。
 …おしっこしたくなっちゃった。
 夢中になってて気づかなかったのですが、けっこうせっぱ詰まった状態のようです。思えば、朝起きてトイレに行っていないし、雪も食べています。この公園にはトイレがないので、準はうちに帰ってすることにしました。

 準はすこし内股ぎみに、早足で歩いています。うちまでの距離が、とても長く感じられます。
 …もうだめ、もっちゃうよー。
 準は道をそれて、まだ家の建っていない空き地に入りました。ここを通ると近道なのです。ややスピードを上げて、空き地を抜けて道路に出ようとしたときです。
 ”ずるっ”
 準は、足を滑らせました。溝蓋の代わりに鉄鈑が敷いてあったのですが、その上に雪が降り積もっていたため、思いっきり転んでしりもちをついてしまったのです。
 「痛っ。あ、ああ…」
 ”じょーっ”
 緊張の糸が解けて、準は下半身の力が抜けていくのを感じました。たまっていたおしっこが、一気にあふれてきて準のパンツとズボンを濡らし、おしりの周りに広がって雪を染めました。準はただ呆然と、おもらしした自分のおしっこが湯気を立てているのを見ているほかはありませんでした。
 …あーあ、やっちゃった。どうしよう。
 ふと我に返ると、道の向こうで親子連れが準の方を見ています。小さな子が、準を指さしてこう言いました。
 「あのお兄ちゃん、ズボンから湯気が出てるよ」
 …や、やばい。
 準はあわてて立ち上がりました。
 「は、はははは」
 笑ってごまかすと、準は足早に現場を立ち去りました。

 準はとぼとぼとうちにたどり着きました。玄関の前で立ちつくして、何て言い訳しようか考えましたが、いい案が浮かびません。
 「はっくしょん!」
 容赦なく寒風が吹き付けます。濡れたパンツはすっかり冷え切って、準は寒くてがたがた震えています。このままでは風邪を引いてしまう…。
 「あら、準ちゃん帰ってたの?。はやくうちに入りなさい、朝ご飯いっしょに食べましょう」
 ちょうどリビングから外へ出てきたお母さんに見つかってしまいました。準は、あわてて言いました。
 「ゆ、雪の上にしりもちついちゃった。それで、ズボンが濡れておしりがぐっしょり…」
 「もう、おっちょこちょいなんだから。早くうちに入って着替えなさい」
 「はあい。…あ、パンツも濡れてる、雪で」
 準は、ひとりごとを言いながらうちに入りました。ヒーターの前で濡れたパンツとズボンを脱ぎ、タオルで拭いて着替えました。汚れ物を洗濯機の前のかごにそっと入れて、ヒーターで冷え切った体を温めました。

 なんとかごまかせたと、準がほっとしていたときです。
 「準ちゃん、ちょっと…」
 お母さんがやってきて、小さな声で言いました。
 「あなた、またおしっこもらしたでしょ」
 「ぼ、ぼく、おもらしなんか…。ごめんなさい。だって、転んじゃって、そのはずみで出ちゃったの、一生懸命我慢してたのに…」
 準はうろたえて、正直に全部話しました。
 「もう、いつもぎりぎりなんだから。あなたはのんびり屋さんのくせにあわてん坊だから、そんなことになるのよ。転んで頭でも打ったらどうするの、気をつけなさい」
 「はあい」
 「それと、おもらししたんなら正直に言うのよ。あのまま外にいるつもりだったの?。風邪引いたら大変でしょ」
 「ごめんなさい」
 「さあ、朝ご飯にしましょう。お父さんも今日はお休みだから、いっしょに食べれるわよ」
 「はーい。…ねえ、お母さん」
 準はお母さんの耳元で言いました。
 「雪の上でおしっこするとね、なんだか氷レモンみたいだったよ」
 「バカねえ、ほんとに食いしん坊なんだから」
 お母さんは笑って、準のおでこをぽんとたたきました。準はえへへへと笑いました。

 「おや、準、今朝は早起きだな、もう着替えて。またやったのか?」
 お父さんに言われて、準はあわててこたえました。
 「し、してないよー、おねしょの方は。…いててて」
 「どうした?」
 「さっき転んでおしりぶっつけちゃったの」
 準はおしりをさすりながら言いました。
 「そりゃ大変だ。青いおしりがますます青くなるぞ」
 「えっ、青くないと思う…たぶん」
 「はははは。それよりも雪が降ってるぞ。朝ご飯食べたら、公園まで散歩に行こう」
 「うん…。でも、空き地は通らずに遠回りしていこうね」
 「どうして?」
 「だって、氷レモンが…何でもないの」
 準は照れ笑いをしました。朝からおもらしして落ち込んでいたのですが、お父さんと雪遊びができる喜びに、もうごきげんになっている、とっても単純…いえ、素直な準くんなのでした。


※Sundewさんが描いた元祖「氷レモン」が、「ひとり上手ぎゃらりい」「蛍くんのおもらしぎゃらりい」にありますので、そちらもご覧ください(^^)。

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