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多くの者わが名を冒し来り、
我はキリストなりと言いて多くの人を惑わさん
また汝ら戦と戦の噂とを聞かん
かかる事はあるべきなり、されど未だ終わりにはあらず
即ち、民は民に、国は国に逆いて起たん
その時人々汝らを患難に付し、また殺さん
多くの偽預言者おこりて多くの人を惑わさん
また不法の増すによりて多くの人の愛冷ややかにならん
されど終わりまで耐え忍ぶ者は救わるべし
─ マタイによる福音書 第24章 より ─
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紀元2〜4世紀。キリスト教の教義統一を巡り、分派同志の争いが続いた。
各分派はそれぞれの伝承に基づいて、動く彫像〈イドール〉を造り、
イドールによる闘技大会〈ジュノーデ〉を開催して、
その勝者の教義を正統と定めた。
最も正しい技によって造られたものが最も強いはずだ、という理屈である。
大ジュノーデを制覇しキリスト教の支配者となったベステン教会は、
その後ジュノーデを廃止し、異端説を問答無用で弾圧するようになった。
以来イドールが造られることはなくなったが、
その技術は各分派の秘儀として脈々と受け継がれていった。
(中略)
一時は神聖ローマ皇帝をもしのぐ権勢を誇ったベステン教会だったが、
内部の腐敗と権力闘争によって次第に弱体化していった。
14世紀初めには教皇はフランス王の傀儡と化し、
教皇庁をローマから南仏アビニョンに移すに至った。
14世紀末、時の教皇はフランスの支配を脱し
ローマ教皇庁の再興を果たすがまもなく死去。
新教皇バビロヌス二世はその遺志を継ぎ、ローマ体制の磐石化を目指す。
これに対しフランス王は、対立教皇ルピーノ三世を擁立して
アビニョン体制の存続を図る。
こうして我こそが正統と主張する2人の教皇が並び立つ事態となった。
世に言う「大分裂」である。
 
腐敗した教会を立て直すべく復古的な改革を進めるバビロヌス二世は、
ジュノーデを再開し異端説に対して公正な審議を行う、と布告するが、
その真意は別のところにあった。
参戦のため各地から集結したイドールを教会の傘下に収め、
アビニョン制圧のための兵力としようとしたのである。
(普通に軍事侵攻したのでは非道な行為になってしまうので、
イドールを用いることで宗教的正当性を演出しようと考えたのだ)
だが、ジュノーデの復活は多くの異端勢力の台頭を促し、
かえって教会の支配権をおびやかしていくのだった。
こうして闘争と混乱の時代が幕を開ける──
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ザクセン公国南部の山村ケッツェドルフは、
異端狩りを逃れたケッツァー派の人々によって拓かれた土地である。
数百年来外部との交流はほとんどなく、
多くの村人は自分たちが異端派であることを意識せずに暮らしていた。
……ジュノーデ復活宣言以来、村では宗教的熱情がにわかに高まり、
イドールの製造に取り組み始めた鍛冶屋は村人たちの厚遇を受けるようになる。
鍛冶屋の徒弟の少年ノーティツは(不純な動機で)イドールの操縦者に志願し、
村内での予選に出場する。(予選には簡略化された擬似イドールを用いる)
神父の助手ラディアー、錬金術師の弟子クレーベらを破り
操縦者の座を射止めたノーティツは、完成したイドール・塩柱機を託され、
ジュノーデの開催地バンマイレへと旅立つことになる。
鍛冶屋・神父・錬金術師が同行して補助にあたる予定だったが、
鍛冶屋は謎の失踪を遂げ、神父は病に倒れ、
錬金術師はバンマイレ近辺で指名手配されていることが判明し、
それぞれ参加できなくなる。
そのためラディアーとクレーベが代理の補助要員に任じられ、
少年少女3人での旅立ちとなった。
はたして彼らの行く手に待ち受けるものは──?
 
中世ドイツの庶民に苗字があったのかという疑問もありますが…
 
鍛冶屋の徒弟の少年。仕事に対する責任感のなさを親方に度々注意されている。イドールの操縦者に選ばれ、ジュノーデの開催地バンマイレへと赴く。
 
アクバレルの押しかけ弟子。閉鎖的な村での生活を嫌い、都会に憧れている。ノーティツと操縦者の座を争い、その後はアクバレルの代理としてバンマイレへ同行する。
 
ライスの助手。信仰にこだわるあまり融通がきかない部分がある。ノーティツと操縦者の座を争い、その後はライスの代理としてバンマイレへ同行。
 
鍛冶屋の親方。陽気な人。イドール製造に取り組む。
 
ケッツァー派の神父。信仰の継承という使命感に燃え、村民の生活の細部まで同派の流儀に従わせようとして迷惑がられている。イド−ルの製造を指揮する。
 
錬金術師。何年か前に村の外からやって来て住みついた。イドール製造に協力し、秘儀書の解釈をめぐってライスと対立。
 
アクバレルが造ったホムンクルス。マスコットキャラ(人間的な人格はなく、ペットのような感じ)。身長10cmくらい。
 
シーフブルッフ派のイドール「艮嵐機」の操縦者。軽業師をしていたたところを同派の司祭に操縦者としてスカウトされる。本人は乗り気でなかったが、報酬に目が眩んだ座長に売り飛ばされ、無理矢理操縦者にされる。
 
トロンペーテ派のイドール「苦艾機」の操縦者。不信心な飲んだくれだったが、ある日突然天啓を受け、何の経験もないのに操縦ができるようになる。
 
フェアラート派のイドール「血田機」の操縦者。金で雇われて宗派から宗派へと渡り歩く「流れ操縦者」。信仰心のかけらもない。
 
ベステン教会からバンマイレに派遣されたジュノーデの審判員。