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2006年6月4日

柴田元幸 『翻訳教室』 (新書館)

この本は、2004年10月から2005年1月にかけて東大文学部で行った授業 「西洋近代語学近代文学演習第1部 翻訳演習」の内容を、 ほとんどそのまま文字化したものである。

(本書 まえがきより)

興味深かったのは、村上春樹の小説(英訳されたもの)を使った授業。
日本語で書かれた小説を英訳し、 それをふたたび日本語に翻訳するという流れによって、 翻訳が、単に言語をAからBに置き換えたものではないということが見えてくるのは、 面白かった。

加えて、いろいろな作家の短い文を、間をおかず読んでいくと、 違いが何となく感じられるようで、これも楽しかった。

私が、課題文を読むのに使ったのは『小学館プログレッシブ英和中辞典 第3版』。 「現代英語を読むのに便利な辞書」(本書、pp.45-48) に取りあげられている辞書は使っていない。


2006年6月5日

帰宅後、熱をはかってみたら37度あった。風邪かな。

David Sylvian「GONE TO EARTH」(Virgin Records)

収録されている「Silver Moon」を聞きたくなったので購入。 随分と昔に何度か聴いただけの曲だったが、 あらためて聴いてみると、メロディだけは覚えていた。

「Silver Moon」以外は初めて聴くものばかり。 「Laughter And Forgetting」「Upon This Earth」がいいなと思う。


2006年6月10日

エドワード・ヨードン/ 松原友夫,山浦恒夫 訳 『デスマーチ 第2版 ソフトウェア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか』

「デスマーチ・プロジェクトは、常態であって、例外ではない」

(本書、まえがき)

デスマーチは、その語源とされる事柄や、たとえとして使われる用語から、 一種の緊急事態、非日常、 突発的な事故として捉えられているのではないかと思うことがある。
けれどそうではない、というのが本書での前提である。

筆者は、デスマーチを必ずしも否定的な意味では捉えていない。 デスマーチのタイプ(本書では4つに分類される)によっては、 参加者が必要な何かを学ぶ上で、 得がたい機会を与えてくれるもの(本書、p.39)として扱っている。
(もちろんこれは、プロジェクトに参加する側(内側の管理者も含む)の立場に立ったものである。 外側の管理者にとっては、面白くないことが沢山書いてあるだろう。 そのあたりは『ピープルウエア』と似ているように思った。)

この本には、こうやったら必ず生き残れます成功します、という方法は書かれていない。 (デスマーチ・プロジェクトに参加しなければいいということ以外は) 提案される方法も、地味で真っ当で成果は見えづらいだろうものばかりだ。 導入するには最も困難ということでもある。
けれど、デスマーチ参加者(予備軍含む)にとっては興味深い内容になっていると思う。
「ものごとが現在そうあるのは、そうなったからだ。」 (G.M.ワインバーグ/木村泉 訳『システム作りの人間学』(共立出版)「白パンの自然史」p.74) ことが理解できるからである。理解は、目的の達成に繋がる一歩でもある。

第3章「交渉」、 第5章「デスマーチ・プロセス」、 第10章「デスマーチのためのツールと技術」 が特に面白かった。

翻訳は、1〜4章と5〜11章で担当者が違うため、前半と後半とでかなり印象が違う。 意味不明な文は無かったが、私にとっては後半が読みづらかった。


2006年6月11日

ジェフリー・A・ランディス/ 小野田和子 訳 『火星縦断』 (ハヤカワ文庫)

第三次探検隊は、火星に無事に着陸した。 だが、帰還用として事前に送り込まれていた宇宙船を事故で失い、 地球に戻る手段を得るために、着陸地点(火星での赤道以南)から北を目指すことになる。 そこには、第一次探検隊が残した宇宙船があるのだ。

章立てにめりはりがあり、読みやすかった。
探検隊は目的地にたどり着けるのか、たどり着いたとして誰が助かるのか、 それが最後まではっきりしないのが、とても面白い。
最後にどう落とされるのか分からない物語を、ひさしぶりに楽しんだ。

第二次探検隊が失敗した理由には、不謹慎だとは思ったが、笑ってしまった。