25面を蹂躙す 

 

 

 トミーブースの目印は、その真上に浮かんでいるバルーンであった。他にもいくつものブースがバルーンを上げているので、遠くからすぐに目立つと言うわけにはいかなかったが、TOMYのロゴにマッチしたまん丸いバルーンは、視察団にとっては一段と目を引いているように感じられた。

 25面マルチスクリーンにステージを融合させたブースでは、新作ゲームの「ガンホーブリゲイド」というロボットアニメ・シミュレーションゲームだそうであるが、これが大々的に紹介されていた。体験版の配布を行ったり、制作にかかわったスタッフ、ゲームキャラクターの声優、イメージソングを歌うアーティストをゲストに招いてのトークショーが行われるなど、祭典らしいイベントが組まれていた。その他、トミー定番の、プラレールとトミカの新たなゲーム展開の紹介も行われていた。視察団の目的はゾイドのCGムービーである。良い視察状況でそれを堪能するために、視察団は現場でおよそ1時間を待機に費やし、結果的にトミーブースの様子を知ることができただけである。

 

 そして、同じ25面マルチスクリーンに「5・4・3・2・1」という、カウントが行われた後、突然画面右から流れてきたのは「ヘリック共和国・・・・・」の文字。そして、CGのミニダイジェストがあった後には、ゾイド現行当時、時期はD-dayからMk-2部隊の登場ぐらいまでであろうか、ゾイド最盛期に作られたであろう、ゾイド本体を使ったディオラマ特撮のムービーであった。ゾイドにウェザリングを施し、そのままミニチュアとして用いられた数々のゾイド達の活躍は、ゾイド本体を動かしいかに楽しむかを基本政策としている惑星政府にとって、新たなCGを視察するに匹敵するくらいの有意義な時間であった。

 

 その後、ナビゲーターの解説から、CGムービーの上映が始まった。

 

 垂直に近い絶壁にへばりつくグランチュラ、共和国軍の先鋒偵察隊か基地警備の部隊に所属しているのであろう。彼の目(各種センサー)は、アイアンコングに率いられたマーダの部隊の接近を捕捉していた。これに対し、共和国軍もウルトラザウルスに率いられたグランチュラの部隊を出撃させ、両部隊は激突することになる。

 数多くのマーダが疾走する姿はCGだからこそできるモノである。そしてそれを率いているアイアンコングの動き、これがホバー機能を有するかなり早い動きであった。逆にこの動きは、現行時アイアンコングに冠せられていた「パワフル」という言葉としっくりくるか疑問を持たされたが、新しい息吹という点では高く評価できる動きであった。これもCGだからこそできる動きであることは否定できない。(よくよく考えると、この動きは、アイアンコングMk-1の動きではなく、ブースターパックを背負ったアイアンコングMk-2の動きではないかと思うのであるが・・・・・)

 対する共和国軍のグランチュラの部隊の動きもクモの足という、不気味な動きをうまく表現している。ウルトラザウルスのコクピット(さすがにパイロットは表現していない?)から移動していく視点は、3DCGだからこそできる芸当であり、やはり評価すべき方法である。また、各種兵器の連射の様子は現行兵器らしさもあり、リアルなシーンであった。ただ今回のグランチュラというセレクト(グランチュラはオフィシャル担当者のもっとも好きなゾイドの一つです。)は、映画「スターシップ・トゥルーパーズ」を見た後では、その影響受けすぎという印象もなかったわけではない。(それ以上に「ガンホーブリゲイド」の敵メカの方が「スターシップ・トゥルーパーズ」のバグそのままに感じたが・・・・)しかし、あの小さな580円ゾイドにこれだけの迫力を与えられるのはCGならではではないだろうか。

 ウルトラザウルスは、主要兵器である4門のキャノン砲を発射するために、足を折り曲げ、尻尾を踏ん張り、腹全体を地面につけるという体勢をとってから、仰角を調節、発射に至っている。大型ゾイドである所以の破壊力には、感嘆の思いをさせられる。ゾイド本体にできない新しい動き。せっかくCGを作るのだから、CGでしかできないことをやっていこうとする、制作者の意気込みの結集であろう。3分半という短い時間の中でも、もっとも力の入ったシーンであると思われる。

 崖の上からサーベルタイガーが現れる。帝国軍の接近を基地に知らせた崖にへばりついているグランチュラを一蹴し、側面からウルトラザウルスに報復攻撃をかける。ウルトラザウルスは数カ所にダメージを受けるが、更にこのサーベルタイガーに対して、3機のサラマンダーが、更なる報復行動をおこす。残念ながら羽ばたくことさえしなかったサラマンダーではあるが、足の動きのみで、翼の開閉とはばたきを行ってしまうあのギミックとゴムキャップは忠実に再現されている。これらいずれのシーンは、連続して考えると、報復に対する報復という、しりとりのようにも見えなくなく、それまでの展開から考えると、単調であると感じられた。だが、各々のシーンに分解し考えた場合、各ゾイドの特徴的な動きを表現し魅力を引き出していた。また3Dという無限の視点を生かしたカメラワークには、スタッフの力のいれようを感じないわけには行かなかった。そして、ムービーは、大気圏外からゾイド星を見守る人工衛星にまでズームアウトして終わることになる。この人工衛星が、我々ファンとメーカーが共有する視点、ゾイド星で何が起こるのであろうか、という期待をもって見守っている象徴であろう。

 CGムービーは、それまでゾイドを知っている人間が見たこともない動きと景色をユーザーに提供していることは大きな評価である。特に、ミニチュア(実物ゾイド)でもっとも欠落していたスピード感を表現していることは、制作スタッフの既存のゾイドにとらわれない新しい視点に、賞賛のエールを送りたい。

 

 さて、ここであえて今後の問題点をいくつか上げてみることにする。

 ゾイドのメディアミックスの展開は初めてではないのは周知の通りである。かつては、小学館との連携により、雑誌やムックで「ゾイドバトルストーリー」が展開されている。考えて欲しいのは、もともとこのメディアミックスの展開は、ゾイド先に有りであり、ゾイドの魅力を引き立てるために用いられた手段としてのメディアミックスの展開である。しかし、今回のCGムービーを見る限り、そのCGがゾイドの魅力を引き出すための手段になっているかは、考えなおさなければならないと思う。それが象徴されているのがウルトラザウルスのキャノン砲の発射シーンである。前述の通り、ウルトラザウルスは、足を折り曲げ尻尾を踏ん張って腹全体を地面につけるような、安定性の高い体勢になってキャノン砲を発射している。とても力強い魅力的なシーンではあるが、この体勢は玩具のウルトラザウルスでは再現できない。今後CGのメディアミックスの展開がされた場合、この発射体勢のとれないウルトラザウルスの玩具に、どの程度の魅力が出てくるのかという事である。もちろん、ゾイドを先に知った人間にあの体勢のアピール度は高く、魅力をましている。しかし、今後CGを先に知った人間があの体勢をとれないウルトラザウルスをどう受け取るかが疑問なのである。結果的に発射体勢を再現できる可動部分重視のディスプレーモデルのゾイド(かつてのJr-ゾイドか?)を発売せざるを得なくなってしまうのであれば、売り上げとしては成功したとしても、それがゾイド的に成功と言えるかは疑問である。トミーとしては、CGはあくまでもゾイドの魅力を引き立てるモノとして扱うのか、それとも思い切ってCG主体であり玩具のゾイドがCGの魅力を引き立てるモノに立場を逆転させてしまうのか、はたまたCGと玩具とどちらがかけても成り立たない新しいメディアミックスにあえて挑戦していくのか、今後の展開方針をどのような形に決めているのか、とても興味深いところである。

 もっとも思いつきやすい今後の展開は、今回公開されたようなCGムービーを織り込んだゲームの開発であろう。しかし、それではあまりにおきまりすぎるので、あえて予想がはずれることを覚悟で、以下のように考えてみたい。

 単なるシミュレーションゲームというモノではなく、「ガンホーブリゲイド」に採用された「自動動画生成システム」を利用した、「ストーリーテラーシミュレーション」を作るのはどうであろうか。これはゲームではなく、ユーザーが独自に設定・作成した「ゾイド・バトルストーリー」を再現することのできるシミュレーションソフトである。勝敗もあらかじめユーザーが決めるし、登場するゾイドの動きもユーザーが決める。もちろん動きを全て設定してはこますぎるので、ここを自動動画生成システムを搭載したソフトに補ってもらう。そして、作ったバトルストーリーを再生し楽しむ事のできるというシミュレーションソフトである。ゾイドの活躍する姿を見たい。これが多くのユーザーの希望である。今更、ゾイドという単なるコマでしかないシミュレーションゲームを作っても、目新しさは感じられないであろう。だったら、動く姿を見ることができること優先の何かにしてもらいたいモノである。コンピューターのフライトシミュレーターの世界では、フライトの再生は当たり前になっているので、これをゾイドで更にリアルな描写でと言った感じであろうか。

 それ以上に、単純に全てのゾイドパッケージにCD-ROMを同梱し、それを価格に上乗せしての再販が、もっとも現実的であるかも知れない。話題性には欠けるが、旧来からのファンにとっての最大の願いはゾイド本体の再販であり、本体のない展開が望まれているとは考えにくい。あくまでもCD-ROMは、本体のおまけ的な扱い。かつて爆発的にはやったファミコンではあるが、昨今は、ミニ4駆、ハイパーヨーヨーなど、実際に手で触るモノがはやっている。仕事や勉強にもコンピューターが入り込むようになった時代だからこそ、趣味の時間にコンピューターを避ける様なモノを送り出すのもメーカーとして一考ではないだろうか。 

 ここまでのCGを作ることができるのであれば、「トイ・ストーリー」のようなフルCG映画の公開も期待したいのも事実であるが、実現後の、ゾイド本体の扱いが気になるので、とりあえず公式見解としては避けておく。

 

注意:当惑星の視察団の視点は、ゾイド本体に向けられており、メディア展開は本体のサポートであるという視点での視察になっていることをお含み下さい。

 

 

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