King's Cafe 2号店
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タイトル「キーケロカーの冒険」
[第9章]

救いようのない寂しさに襲われた三人は、いよいよ頂上に向かってアタック開始だ。

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いざ頂上へ

やっとの思いで温泉場を通り抜けた三人の前に、大きな池があらわれた。とおってきたばかりの地獄の血の色をした池のことがあったので、三人は鏡のような静かなこの池にもなにかあるんじゃないかと、しばらくはこわごわと水面を眺めていたが、池は、三人が目指す山を静かに映すだけだった。
 ケロがおそるおそる池に近づき、そっと水をなめた。
「うまいっ。生き返るケロ」
 ケロの言葉を合図にカーとキーも池に顔をつっこんで、ごくごくと飲んだ。青い空を映した池の青い水は、三人の体を透明にして、これまでの疲れが消えていくようだった。
「キィーキー」
「カァーアア」
「ケロケロッケ」
 三人はだいぶ近くなった山をみつめて、ため息をついた。
「とうとうきたなキー」
「もう少しだケロ」
「フー、がんばれカー。もう少しで薬が手にはいるからな」
 三人は池のほとりで一夜を明かし、まだ暗いうちからいよいよ山のてっぺんを目指して、歩き始めた。
 山道は壁のように三人の前に立ちはだかり、はうようにして登るしかなかった。お日さまが昇り始めると遮る木が一本もない山道では、暑くて暑くてかなわなかった。山道の脇にはところどころ雪もみられるようになったが、その上をわたってくる風も、ほんの一瞬、汗を冷やすだけで、三人は体じゅうの血が煮えくりかえるように感じた。
 幸いクマにもらった黄色い球のおかげで、おなかはすいていなかった。不思議なことに、疲れもあまり感じなかった。
 カーはケロとキーの少し先をパタパタと飛んでいる。歩くよりは早いが、ときどき強い風にぴゅーととばされて姿がみえなくなってしまい、あわててばたばた戻ってくるので、けっこうたいへんそうだ。
 キーは黙って歩きつづけている。
 ケロは、お日さまに照らされて体がかさかさに乾いてきて、ちょっと辛そうだ。
「ケロ、人間に化けたらどうなんだキー」
「化けてもおなじさ。姿は人間でも中身はカエルだからな」
「じゃぁ、俺の陰には入れて歩けよ。すこしは楽になるだろうキー」
「ありがとうケロ。カーはどこにいったんだケロ」
「あそこだよキー」
 闇夜のカラスは聞いたことがあるが、雪山のカラスをみるのははじめてだ。まっ白い雪のなかに、まっ黒いカラス。あれなら、宇宙船からだってみえるかもしれない。
「ここから先は、雪道だよカー。まぶしくて目を開けていられないよ。それにどうやら、雪というより氷みたいにカチカチに凍っているから、あんたたち滑り落ちないように気おつけなカー」
「わかったキー。てっぺんまであと一息だな、休憩しよう」
 登ってきた道を振り返ると、すべてが小さくみえた。鏡のような池は、お日さまを反射して銀色に輝き、恐ろしかった地獄ものどかに煙を上げているようにしかみえない。
 ひたすらコメをつくろうとする変な生き物のいた場所は、ここからみると波打つ緑の海だ。おしゃべりな木や、石、クマは、そのさらにさきにひろがる大きな森のなかにあって、どこにいたのかもわからない。
 ゆたかな風景だった。みんなが幸せに暮らしているようにみえる風景だった。
 でも、そこにはフーのように病気で苦しんでいるものも、喧嘩で傷ついているもの、仲間を失って悲しんで泣いているものもいるのだった。
 それがわかっていても、ゆたかで穏やかな風景に、三人はしばしみとれていた。
「さ、フーが待っているケロ」というケロの言葉を合図に、三人はまた歩き始めた。
 しかし、そのとき、グゥォーという音が最初はかすかに、しかしすぐに耳をふさぎたくなるような音で聞こえてきた。ゴロゴロという雷のような音も混じっている。
 それはなんとも不安にさせる音で、気づくと地面も揺れていた。
「なんだキー」
「地震かケロ」
「山が噴火するのカー」
 山のてっぺんを見上げると、もうもうと煙が上っている。カーのいうように噴火かと思ってたが、その煙は三人のほうへものすごいスピードで近づいてくる。
「なんかへんだぜキー」
「煙が走ってくるケロ」
「ちょっとみてこようカー」
「カーやめろっ。いやな予感がする。ケロもカーもおれに捕まれ」
 キーはそういうと、石にもらった黒い球をごくりと飲んだ。キーは、近づいてくるその白い煙が、絶体絶命のきざしだと感じていた。
 キーはケロを胸に抱き、カーを肩にしっかりと捕まらせた。カーの爪がくいこんで血が流れたがそんなことはどうでもよかった。
「くるぞっ」
 キーが叫んだ瞬間、白い煙が三人を包んだ。
 雪崩だ。山のてっぺんの雪が、お日さまでとけてくずれたのだ。三人を身を切るような冷たい風が叩く。とがった氷が容赦なく刺さる。雪が巻き上げた石が体中をうつ。こまかい雪が鼻や口や耳に入ってきて息もできない。もうだめかっ、フーを助けられないのか、と覚悟した瞬間、白い煙はふっと消えた。
 三人は。白い煙に包まれる前とおなじ場所に立っていた。体からは血が少し流れていたが、あるけないほどではなかった。空は抜けるように青く、山のてっぺんはさっきとおなじように、三人を待っていた。ただ、空気だけは少し冷たくなったようだった。
 まわりをみると、三人がいた場所の、ちょっと先で、白い煙はふたつに分かれ、三人をよけるように、流れていったことがわかった。
「これも、あの黒い球のおかげカー」
「あぁーもうダメかと思ったケロ」
「ほんとうだキー。フーが俺たちを待っているんだ。おれたちはこんなところでくたばるわけにはいかないんだ。さぁ、行こうキー」
 歩き始めた三人のまえに、山のてっぺんはあと少しまで迫っていた。


(第9章完)
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